漆に魅せられ福井に移住、「漆琳堂」で塗師を目指す女性のストーリー
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番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは「漆」の魅力に魅せられ、東京から福井に移住。漆を塗る職人「塗師(ぬし)」として修行中の、20代女性のグッとストーリーです。
古くから業務用漆器の生産が盛んな、福井県・鯖江市(さばえし)。木やプラスチックのお椀に漆を何重にも重ねて塗っていく伝統的工芸品「越前漆器」は、1,500年もの伝統があります。その鯖江市に3年前、東京生まれの若い女性が漆器の職人を志して移住。
創業225年の歴史を持つ老舗の漆器メーカー・漆琳堂(しつりんどう)に就職しました。嶋田希望さん・26歳。
「もともとものを作るのが好きで美術系の高校に通っていたんですが、ある展覧会で畳二畳分の作品を見て、その塗料が漆だと知り、漆に興味を持ちました」という嶋田さん。
高校卒業後、伝統工芸を教える京都の専門学校に2年通って漆塗りの基本技術を学び、関係の仕事を探しましたがなかなか希望に合う就職先が見つかりませんでした。
いったん東京に帰って書店でアルバイトをしながら、腕がなまらないように家で漆塗りの練習も欠かさなかった嶋田さん。そんなある日、セレクトショップでカラフルな漆塗りのお椀を見付けます。
それが漆琳堂の商品でした。漆は赤と黒以外の色だと塗りムラが出やすいため、色とりどりの漆器は珍しいのですが、その難しさを技術でカバーしていることに惹かれた嶋田さんはさっそく行動に出ます。
「いきなり漆琳堂に電話したんです。とにかくこの会社で働いてみたい! と思って」
突然かかってきた就職希望の電話を、8代目になる内田徹専務は丁寧に対応。
嶋田さんのフットワークの良さに内田専務は「うち、どこかで募集かけてましたっけ?」と驚いたそうですが、実は漆琳堂も新たに人を雇おうかと考えていたところでした。越前漆器の世界も後継者難に悩まされており、若い力は大歓迎。県外の人材を採用するのは初めてでしたが、面談の末、嶋田さんの漆にかける情熱を買って採用を決定。嶋田さんは鯖江に移住し、漆を塗る職人「塗師(ぬし)」の見習いとして働くことになりました。
「漆は粘り気がある塗料なので、ハケの通し方一つで、表情が変わってしまうんです。そんな繊細なところがなんとも言えない魅力ですね」という嶋田さん。漆は天然の樹液なので扱いが非常に難しく、塗る前に和紙で漉(こ)してホコリを取り除くなど、細心の注意が必要です。
「ホコリが付いているだけで、そこだけムラが出てしまうんです。ピンセットで一つ一つ取り除くんですが、非常に神経を使いますね」
技術が上がった今は、職人さんでもある社長や専務が作業をする「塗り部屋」で技術を教わりながら、一緒に漆塗りの作業をしています。多いときで1日200個を塗りあげるそうですが、「すべての器をまったく同じように塗っていく、そのミッションをクリアするのが好きなんです」という嶋田さん。
時には漆器以外のものに漆を塗ることもあります。東京・谷中(やなか)の自転車メーカーと漆琳堂がコラボした「漆塗りの自転車」では、嶋田さんが金属製のフレームに漆を塗りました。
「漆器だとろくろを回しながら漆を塗っていくんですけど、自転車のフレームは人力で上下を回転させながら塗っていきました。大変でしたけど、塗るのが難しいものにどうやって漆を塗るか、それを考えるのが楽しいんです」という嶋田さん。自分がやりたかったことに毎日仕事として取り組めている今の環境に、とてもやり甲斐を感じています。
「最近はうちの会社が作った漆器に、料理を盛りつけた写真をインスタにアップしてくれる方もいらっしゃって、とても励みになっています。早く一人前になって越前漆器の魅力をもっと世間に伝えていきたいですね」
八木亜希子 LOVE&MELODY
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