モロッコの犬は自由!?  旅先で出会ったイスラムの国の犬写真

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【ペットと一緒に vol.118】

モロッコの犬は自由!?  旅先で出会ったイスラムの国の犬写真
イスラム教の国を旅してもあまり犬の姿を見ることはありません。でも、モロッコは違いました。今回は、モロッコの犬の暮らしぶりをご紹介します。


猫の王国モロッコの犬は

以前にモロッコの猫たちの生活をご紹介しました。
そのモロッコで英国居住者が猫に噛まれ、狂犬病を発症して死亡したと、2018年11月12日に英イングランド公衆衛生局から発表されました。

日本は狂犬病清浄国ですが、アジアやアフリカをはじめ、およそ150の国で狂犬病による死者が毎年数万人います。犬の名前を冠している病気ですが、猫やコウモリやアライグマなど、その感染源となる哺乳類は多数。海外旅行中はなるべく動物に噛まれないように注意して、もし噛まれた場合には、早期に医療機関を受診して暴露後予防接種(PEP)を受けるようにしてください。

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モロッコといえば、ロバの姿もよく見かけます

さて、今回はモロッコの犬事情をご紹介しましょう。
イスラム教で神聖な動物とされている猫とは違い、犬と豚は不浄の動物とされています。それでも、マラケシュ名物の迷路のようなスーク(市場)の中心を抜けると、バイクの下でゴロリと横になっている犬を見つけることもあります。

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あっ! こんなところに犬が!

けれども、モロッコの成り立ちを知ればその理由も想像がつきます。アフリカ大陸の北西、スペインやポルトガルと海を隔てて南に位置するモロッコは、古くからヨーロッパ、アフリカ、アラブをつなぐ交易の十字路でした。ベルベル人の国であったモロッコに、アラブ人がイスラム教を持ち込んで定住し始めたのは7世紀のこと。

いまではアラブ人が6割、ベルベル人が3割を占めますが、ベルベル人はローマ帝国の属州であったときにはキリスト教を信仰していたこともあるそうで、もともと犬に対する嫌悪感は抱いていなかったに違いありません。

現在モロッコの国教はイスラム教ですが、憲法では宗教の自由も保障されています。ヨーロッパの文化が絶えず流れ込んでいることも手伝ってか、戒律の厳しいイスラム圏の雰囲気は感じられないというのが、筆者が訪れて感じた印象です。

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モロッコの土着の犬は、大きく、精悍な顔立ちが特徴的!?

というわけで、馬、ロバ、猫などに混じって、マラケシュのメディナ(旧市街)では犬の姿もチラホラと見かけます。


皮なめし職人地区の犬

メディナには皮なめし職人の町があります。その皮は、モロッコ名物のバブーシュなどを作る材料になっているのでしょう。

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「バブーシュ買いませんか~?」byスークの猫

職人街の一角で筆者の案内をしてくれていた少年が大きな扉をあけると、目の前には皮を染めるプールのような桶が並び、作業をする職人のそばに5頭ほどの犬がいました。「親子だよ」とのこと。犬の名前を教えてもらいましたが、聞きなれない発音だったのでメモできず……。

それにしても、皮なめし職人のあとをずっとついて歩いたり、きょうだい同士でじゃれあったりと、炎天下のなかでも犬たちは元気です。過酷な作業現場で働く人々をほっと和ませる役を、犬たちは担っているように感じました。

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皮をなめす職人の作業をずっと見守る犬

工場のオーナーに犬事情を尋ねたところ、モロッコにはペットショップはなく、犬は一般的には知人から譲り受けるのだとか。感染症予防のための注射を打っているかと聞くと、「動物病院はあるけどね~、そういうの(狂犬病ワクチンや混合ワクチン)は金銭にゆとりのある富裕層だけがやっているかな」との回答でした。

その富裕層の多くはマラケシュ新市街の高級住宅街に住んでいて、ブリーダーから手に入れた番犬用のシェパードやドーベルマンをはじめ、トイ・プードルなどの愛玩犬を飼っているようです。

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炎天下でも、さすがアフリカ大陸の犬だけあって足取りは軽やか

モロッコ原産の犬種には、北アフリカの遊牧民ベドウィンがともに暮らしたスルーギというサイトハウンドがいます。筆者はスルーギの勇姿をモロッコで拝むことはできませんでしたが、日本より面積が広いこの国のどこかに、スルーギのブリーダーもいるはずです。


自由を謳歌するモロッコの犬たち

モロッコの犬たちはうだるような暑さのなかでも、涼しい顔をして自由気ままに街を闊歩していました。日陰で休むロバの足元で、人々の往来を気にせず無防備な格好をして眠る犬の姿も印象的です。

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皮なめし職人とたわむれる子犬

これまで、インドネシアなどのイスラム圏で筆者が出会った犬たちは「あ、不浄とされる犬なんで肩身が少々狭いですね……」という表情をして隅に控えているように見えました。

けれども、モロッコの経済状況がアフリカ諸国のなかでは良いことや、様々な文化と民族が混在するために「それぞれの自由を認める」風潮と国民性が、犬の暮らしぶりにも投影されているのでしょう。タンクトップとジーンズ姿の女性が、ノーリードで愛犬を散歩する姿も見ました。

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夜のフナ広場で少女と遊ぶ犬

以前、インドネシアで犬と暮らすイスラム教徒が筆者に話してくれた言葉を思い出します。
「ここでは大きな声では言えないけどね。だって自然発生的に生まれてくる、犬がかわいいと思う気持ちは抑えられないもん」。
宗教も文化もごっちゃになって共存する“自由なモロッコ”で、猫だけでなく犬を愛する人は、実は少なくないのではないでしょうか。

連載情報

ペットと一緒に

ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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