エンゼルパイの進む道
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「報道部畑中デスクの独り言」(第111回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、森永製菓の定番お菓子「エンゼルパイ」について解説する。
今回は歴史あるスイーツのお話です。以前、ある番組で出演者から「忘れられない懐かしい味」について問われ、思わず森永製菓の「エンゼルパイ」と答えたことがありました。
森永製菓(以下、森永)によると、エンゼルパイは1958年にエンゼルストアで限定販売されたのが始まりです。当時1個20円、その後1961年に全国販売となり、58年の年月を数えます。素朴な甘さ、独特の歯ごたえ、マシュマロの粘っこさ…私とエンゼルパイとの出会いはやはり小学生のころにさかのぼります。
ある日、2つ上の姉が通っていた学習教室について行ったことがありました。当然、教室にいるのは姉の同級生でしたが、その1人がおもむろにベージュの袋を取り出し、満面の笑顔でなかのお菓子を「サクっ」と食べたのです。
「うまそう」…そこにはうらやましい顔の自分がいました。
当時のエンゼルパイはベージュの袋に入り、真ん中に赤いマークが入っていました。その後は2個入りの箱入りに“進化”。実はこの箱入りは少年時代の私にとってはまさに「宝箱」でした。価格は100円、小学生にとっては決して安くはありませんでしたが、何ヵ月かに1度、奮発して購入し、大事に食したものです。
現在は直径6.5センチの「レギュラーサイズ」と、直径3.5センチの「ミニサイズ」があります。ミニサイズは8個箱入り。一方で、レギュラーサイズは8個の袋入り。私にとって宝箱だったレギュラー2個の箱入りは一時復活しましたが、現在は姿を消しています。森永では「販売不振のため、終売した」とのこと。
少子化の影響か、いまの商品ラインナップはお母さんがまとめ買いして、子どもたちに分け与えるものになってしまっているのでしょうか。“所有”する子どもの顔が見えないのが残念なところです。販売もスーパーやコンビニでは「チョ◯パイ」は必ずありますが、エンゼルパイはたまにしか見ることができません。菓子量販店では「スポット扱い(定番ではなく、期間限定・数量限定)」というところもあり、少し寂しい思いがしています(あ、もちろん「チョ◯パイ」もおいしいですよ)。
しかし、そこは長い歴史を持つお菓子です。時代に合わせて中身は変遷しています。
1つは多様なフレーバーの展開です。バニラに加えて、いわゆる「サブフレーバー」が出たのは41年前の1978年、いちご味でした。それ以来、実に多くの商品が出現しました。
「“店頭で見かけなくなった“などのお客様の声もあり、定期的に新しい期間限定フレーバーを発売することによって、店頭での露出機会を増やし、お客様との購入機会を増やしたい」…森永のコメントです。レギュラーは秋口に和栗、冬場にいちごを、ミニも期間限定で様々な商品を出していますが、最新のフレーバーは「あまおう苺のミルフィーユ」。やはりいちごを使ったフレーバーは人気があるそうです。
このサブフレーバー、私が秀逸だと思ったのは10年前、2009年に発売された「デビルズココア」と呼ばれる、黒いココアビスケットを使ったものです。この商品、当初は北陸限定販売でした。たまたま当時行きつけの飲み屋さんが福井出身で、取り寄せてもらったら、これが実においしい。店主にも好評で、デザートメニューになったぐらいです。店では何とワインの「ロゼ」と合わせていました。
ネーミングも粋です。「エンゼル=天使」に対して「デビルズ=悪魔」、箱のエンゼルは黒いパンツを履いてしっかり「悪魔」していました。アメリカでは「デビルズフードケーキ」というお菓子があるそうですが、“本場”は全体に黒っぽいチョコレートケーキ。その黒さが悪魔を連想させるのと、おいしくていくらでも食べてしまう「悪魔」のような危険なケーキだからこのような名前が付いたということです。
もう1つの注目は食感です。現在のエンゼルパイは「フニっ」とした感じで、ビスケットがかなり柔らかくなっています。森永に問い合わせると、「時代のニーズに合わせてしっとりとソフトになっている」とのこと。無論これもおいしいのですが、少年時代、姉の友人が食べていた「サクっ」とした食感も懐かしく感じます。
昔のCMにはこんなコピーがありました。「ふかふかマシュマロをビスケットではさみ、チョコレートでコートしました」。当時はまさにビスケットらしい歯ごたえがありました。
そう思っていたら、奇しくも最近それに近い商品が期間限定ながら出現しました。それはコンビニ限定で販売された「マリーを使ったマシュマロサンド」。マシュマロとチョコレートのビスケット…まさにエンゼルパイと原材料はほぼ同じ。一体何が違うのか…思い切って両方購入し、食しました。
結果は…明らかに違う食感でした。ビスケットがしっかり“主張”をしていたのです。
森永では「流通側の要望によるもので、エンゼルパイのブランド戦略等から発売したものではない」と、“別系統”であるとしていますが、あの「サクっ」としたエンゼルパイが帰って来た! そんな感覚になりました。
冒頭の番組では生意気にもエンゼルパイのあるべき姿をチキンラーメンに例えて語ったことがあります。「チキンラーメンが生麺だったら、あなたは食べますか?」…エンゼルパイもまたしかり、この分野ではクリームを使った半生ケーキが主流かもしれませんが、エンゼルパイには「エンゼルパイに与えられた役割」があるのだと信じてやみません。2年後、60周年の節目、サクッとした食感の「復刻版」と、「歴代フレーバー」で好評なものを復刻するのはいかがでしょうか。
森永製菓にとって「エンゼル」は特別な存在だと言います。最近はチョコフレークやカールなど、歴史ある菓子の消滅(予定も含む)が相次いでいますが、エンゼルパイは「不朽の名菓」として、これからもファンを楽しませる存在であってほしいと願っています。(了)