ニッポン放送「ザ・フォーカス」(11月19日放送)に中央大学法科大学院教授、弁護士の野村修也が出演。香港での抗議活動のデモ隊と警察の対立について解説した。
香港デモ活動、日本人が逮捕
抗議活動のデモ隊と警察の対立が続く香港で、20代の日本人男性1人が香港警察に逮捕されていたことがわかった。男性は11月17日、警官隊とデモ隊の衝突が続く九龍地区の香港理工大学周辺で逮捕され、容疑などは不明。(※編集部注:男性はその後19日深夜に釈放)
森田耕次解説委員)香港理工大学周辺で17日に逮捕されたのは東京農業大学の学生、井田光さん(21)。茂木外務大臣は井田さんについて、留学生ではなく香港を旅行中だったとしています。香港の日本総領事館の館員が面会を行いまして、怪我はなく体調は良好だということです。これまで8月31日の抗議活動に絡んで日本人男性が逮捕されたことがあるのですが、既に保釈されております。香港理工大学周辺では18日深夜から19日未明にかけて、多くのデモ隊が火炎瓶などを警官隊に向けて投げるなどした一方、警官隊も多数の催涙弾を発射して、散発的に衝突が続いています。
野村)ちょっと心配ですよね。外務省としても、レベル1の危険情報を出しています。レベル1は低いように見えますが、基本的には抗議活動の現場には近づかないようにという注意を発しています。今回の方は旅行中にデモの様子を見に行ってしまったことがきっかけのようですから、旅行される方は注意していただきたいです。
区議会選挙延期の可能性~安全面というより政治的な意図か
野村)そして、学生たちがなぜデモをやっているのかという根本に立ち返ってみると、中国の国家体制に不信感を持って、それに絡めとられてしまうことへの抵抗なのです。そういう意味では自由や民主主義を大事にする、我が国と同じ理念を持った学生たちが立ち上がっている面は応援しなければいけないと思います。ただ、デモ活動自体が暴力的になり過ぎてしまっているので、このことが当局からの規制を招いてしまっています。是非、戦術をもう一度練り直して欲しいと思います。
森田)19日、香港政府トップの林鄭月娥行政長官が記者会見をしまして、警察が香港理工大学を占拠したデモ隊およそ400人を拘束したことを発表しましたが、およそ100人が大学構内に残っているということで、速やかな投降を呼び掛けたようです。
野村)ただ、警察のやり方は呼び掛けるというよりは力ずくで学生たちを拘束している状況ですから、このやり方は国際的にも批判を招くと思います。
森田)更に林鄭月娥行政長官は24日の区議会選挙について「暴力や威嚇を行う人に主導権がある」としまして、デモ側の対応次第で延期もあり得るという考えを示しています。デモ参加者による交通妨害を非難していまして、「予定通り実施するかどうか、当日まで毎日精査する」という発言をしています。
野村)いまの世論全体としては中国政府のやり方、香港警察のやり方に反発していますから、いま選挙が行われると逆に民主化へ力を注ぐ人たちがたくさん当選する可能性があります。だから延期するという見方もあるので、その辺りのところで政治的なにおいもします。
中国政府が香港高裁の判決を批判
森田)直接選挙に近い形で行われるのが今度の区議会選挙ということなのですね。それから香港の高等裁判所が、覆面禁止法が香港基本法に違反するという判断をしたのですが、これに対して中国政府は「香港政府トップの行政長官の権力に公然と挑戦している」と判決を批判する声明を出しているのです。
野村)今回の覆面禁止規制というのはデモを抑制するためのものです。学生たちは覆面をしてデモに参加していて、一部には自分の顔を見られたくないという意図もあるのですが、催涙ガスなどが飛び交っていて、覆面をしていないと危ないという面もあるのです。それを逆手に取って、そういった態度でデモに参加すると刑罰を科すという規則をつくったわけですよね。しかも議会で成立したのではなくて、行政機関の超法規的措置によって制定してしまったのです。
森田)緊急状況規則条例が根拠になって、議会を経ずにつくってしまいました。
野村)まず1つには人の服装に対して国家権力が規制を加えること自体が表現の自由を制限する面もあるわけですし、刑罰を科すならばきちんとした手順で法律を定めなければいけません。それを全部飛び越えてしまった形になっているものに対して、裁判所が見逃すことができないという判断をしたのだと思います。
森田)これを受けて香港警察は、覆面禁止法による取り締まりを停止していますが、この司法判断がそのまま通るのかどうか。どうなっていくのかは見えません。
三権分立を大事にしていない中国の独裁体制が利権・賄賂につながる
野村)中国のコメントを聞いていると、中国は三権分立を大事にしていない気がしますよね。逆に言えば、行政が決めたことには黙って従え、ということじゃないですか。これが中国の国家体制なのです。この国家体制がすべての人を管理する仕組みが、場合によっては利権を生み、賄賂を要求することにつながっているのです。若者たちはそんな国に支配されたくないと言って立ち上がっているわけですから、このコメントを聞いても中国のあり方そのものに疑問を感じます。
森田)アメリカのポンペオ国務長官は、このデモに絡んで「香港警察が起こした暴力事件について、独立機関による調査を行え」という発言をしています。監視には国際的な目が必要になってきますね。
ザ・フォーカス
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パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。