今年の経済も波乱含み? 新年パーティーを取材
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「報道部畑中デスクの独り言」(第168回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、7日に開催された経済3団体の新年パーティーについて---
1月7日、恒例の経済3団体の新年パーティーが開かれました。各企業のトップが一堂に会し、経済担当の記者は大発会とともに「仕事始め」的な取材となります。
この会合は総理大臣のスピーチ、3団体トップの記者会見、企業関係者同士が新年のあいさつを交わすのが本来なのですが、会場の周辺はメディアが企業トップに今年(2020年)の景気認識などを聞く場となり、立錐の余地なくごった返します。
2020年は東京オリンピック・パラリンピックで、日本は大いに盛り上がるとみられます。ただ、海外では年始早々、イラン革命防衛隊の司令官が米軍に殺害され、中東危機への懸念が一気に広がりました。その後、イランが米軍基地に弾道ミサイルを発射するなど、事態は緊迫する一方です。
パーティーに先立つ6日の大発会も「ご祝儀相場」とはならず、この日の終値は昨年(2019年)末の終値から450円以上も値下がりしました。その後は持ち直しましたが、波乱含みです。こうした状況で今年の景気認識を、「天気予報」という形で企業トップに聞きました。
「晴れときどき嵐 海外のいろいろなリスクが襲って来るのではないか」(NTT・澤田純社長)
「くもり、気持ちが晴れない。将来に対する不安だ」(サントリーHD・新浪剛史社長)
「晴れときどきくもり、横ばい。景気が大きく上向いているわけではない」(西武HD・後藤高志社長)
「基本、日本経済は晴れ、ただし災害警報には十分に注意」(野村HD・永井浩二社長)
さすがに快晴というわけにはいかないようです。いわゆる「オリンピック景気」への期待についても、冷静な認識が目立ちました。56年前のオリンピックのような、高度成長に向かう高揚感はあまり感じられません。
逆にオリンピック後の景気については懸念の見方もある一方、急降下にはならないという声もありました。「山が低いのだから、谷もなだらか」というわけです。前述の中東危機に米中対立、香港デモといった国際情勢への不安が、オリンピックへの期待を打ち消している形です。
サントリーHDの新浪社長は、「アメリカの経済が厳しくなるぞというようなことをやると、日本経済にも影響が出る。それがいちばん出たのが中東政策だ」と話し、アメリカの政策の拙さを指摘しています。
一方、今年のキーワードにデジタル関連のフレーズを挙げる人が目立ちました。日本では5G=第5世代移動通信システムがまもなく本格的に始まります。企業トップからみると、関心の1つは労働の効率化のようです。
通信業界、NTTの澤田社長はDX(デジタルトランスフォーメーション)を今年のキーワードに挙げ、5Gの効果について「いままで人手で行っていたものが全部モニターでき、生産性向上につながる。消費者の面では動画を使ったアプリが増えて、コミュニケーションの仕方が変わって来ると思う」と変化の可能性を示します。
「5G」をキーワードとしたのは西武HDの後藤社長です。「鉄道に従事する人間がいまよりもいい意味で効率化され、少なくなる」と話しました。
一方、5GをはじめとしたIT革命はさまざまな産業に波及するため、危機感をあらわにする声もありました。プラットフォーマー(ITの基盤)という言葉が頻繁に出て来ます。
「IT自体は証券業界に限らず、取り入れてビジネスに生かすのが当たり前。証券業界としては間口を広げるため、プラットフォーマーとうまく協業をして行く」(野村HD・永井社長)
「まさしくプラットフォーマー(がカギを握る)、30年後、酒類・飲料業界がどうなっているか、いま何をしなければいけないかを考えないといけない」(アサヒグループHD・小路明善社長)
そして自動車業界、トヨタ自動車の豊田章男社長は、今回の新年パーティは欠席。年始早々、CES=世界最大の家電IT見本市の発表会のためにアメリカのラスベガスに飛び、モノやサービスがつながる街を静岡県裾野市につくるとぶち上げました。クルマだけではなく「街づくり」にも着手というわけです。
昨年5月にトヨタは、パナソニックと住宅事業に関する提携を発表しました。記者会見では「スマートシティ」「街づくり」といったフレーズがありました。今回の発表は提携に対する回答と言えます。「100年に1度の大変革」と言われる自動車業界、自動車会社のトップが家電IT業界の見本市でプレゼンするのは、すでに当たり前の時代になりました。
豊田社長は昨年末、「AI=人工知能で(時速)150キロで走る頭脳があったとしても、“走る”“曲がる”“止まる”のリアルの世界が必要。(自動車・IT)両方ないと創り上げられない」と述べた上で、IT企業の関係について「コンペティター(競争相手)ではなくパートナー」と話していました。両者の連携は強まった認識の一方、主導権は渡さないという意思もにじみます。
こうしてみると、これまでの「●●業界」「△△業界」、あるいは製造業、サービス業の垣根がますますあいまいになって来ています。そのなかで覇権を握るのはどこか…その動きは2020年、ますます加速して行く…年末年始の企業トップへの取材を通し、改めて感じたことです。(了)
※注・HD=ホールディングス