お菓子はメディアとともに、メディアはお菓子とともに…

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「報道部畑中デスクの独り言」(第167回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、名古屋の銘菓「をちこち」について---

お菓子はメディアとともに、メディアはお菓子とともに…

東京都内でも入手できる「をちこち」 今回は「半棹」を購入

2020年がやって来ました。新年おめでとうございます。令和も2年目になりました。昨年(2019年)は改元、参議院選挙、ラグビーW杯、台風災害と、さまざまなことがあっという間に過ぎて行きました。

今年はいよいよ、東京オリンピック・パラリンピック開催の年。日本中がこれ一色になりそうですが、地に足を着けた1年にしたいと思っています。

落ち着きの気持ちを込め、恒例(?)の“スイーツ”の話題、今回は和菓子です。名古屋の銘菓「をちこち」、製造元の両口屋是清の会社HPによりますと、1634年(寛永11年)、大阪の菓子司・猿谷三郎右衛門が尾張藩用の菓子製造のために召され、那古野本町に開業したのが始まりとされています。

実に386年という歴史、どら焼きの「千なり」が有名ですが、「をちこち」も土産物として知られています。こちらは1959年(昭和34年)の発売以来、昨年で還暦となりました。最近では東京でも購入することができます。

「をちーこーち~♪」…小さいころ流れていた、女性の歌声から神妙なメロディにつながるCMには、大人のイメージがありました。子供の小遣いで買えるわけもなく、法事など親類縁者の会合ぐらいでしかお目にかかれないお菓子でした。私にとっては時空を超えて手にしたこの和菓子、緑茶とともに食しました。

「ほわ――――っ、さらり」そして「みっちり…」

なかは大納言小豆の羊羹、これを村雨というそぼろ状の餡がはさみます。村雨には山芋も入っている、手の込んだ製法です。村雨のさらりと優しい感触に、羊羹の濃密感が広がります。しかし、重くはなく、いわば「棘のない甘さ」と申しましょうか。食する者を至福のときへと導いてくれます。

お菓子はメディアとともに、メディアはお菓子とともに…

開封 何か歴史の重みも感じる

この「をちこち」、ローマ字にすると「wochikochi」。何とも独特なネーミングですが、漢字にすると「遠近」、つまり「あちらこちら」とか「未来と現在」という意味があります。濃尾平野を望むはるかな山々の風情をお菓子に込めたということですが、この言葉、実は万葉集の一句にも使われています。

真玉付く をちこちかねて 言はいへど 逢ひて後こそ 悔にはありと言へ

(「美しい玉のような言葉を重ねて末永くと言うけれど、結ばれた後にこそ後悔はあると言いますよ」万葉集巻四(六七四) 大伴坂上郎女(おほとものさかのうへのいらつめ))

全国にはその土地土地で愛される菓子舗がたくさんあり、なかには全国区になったものもあります。特に私の出身の岐阜を含む、東海三県はそれが顕著です。江戸時代に尾張藩を中心に茶の湯が盛んだったという説があり、東海三県が喫茶店の激戦区なのは、そんな背景もあるようです。

また、三重県には伊勢神宮があります。そんなことで、この地域は銘菓として知られる老舗も多いのです。

青柳ういろう、大須ういろ、両口屋是清、納屋橋まんじゅう、「あわ雪」の備前屋、赤福、坂角のゆかり…また「肉まん・あんまん」「あずきバー」の井村屋、「ベビースターラーメン」のおやつカンパニー、「おにぎりせんべい」のマスヤは三重県が本社です。

これらの店はその歴史もさることながら、多くはメディアによって知名度が上がりました。思えば名古屋は民間放送第1号の地、すなわち放送広告第1号の地でもあります。小さいころはこうしたお菓子のCMもたくさんありました。

しかも、ただのCMではありません。歌まであって、子供の脳裏にしっかり刷り込まれて行ったのです。「菓子」を売るにはまず「歌詞」からか…? 閑話休題。

お菓子はメディアとともに、メディアはお菓子とともに…

いざ切り分ける 見た目も上品な味わい

なかでも記憶に残っているのが「青柳ういろう」です。当時「青柳ういろう天気予報」というミニ番組がありました。軽やかなリズムとともに7人の子どもが現れるアニメーションで、歌が流れながら東海三県の天気予報が紹介されるというものでした。

ういろうには7つの味がありました。「しろ、くろ、抹茶、あがり、コーヒー、ゆず、さくら」(「あがり」とはこしあんのこと)。なぜ覚えているのか、この7つの味が歌のなかで4回繰り返されるのです。

このCM、青柳総本家のHP「CMギャラリー」の項で見ることができます。なお、現在のHPには7つの味のうち、ゆず、コーヒー味は見当たりません。思えば食しておくべきでした。

インターネットの発達もあり、いまは東京にいながらにして、郷土のお菓子が入手できるようになりました。しかし時折、これらのCMを思い出すことがあります。

子どものころは歌は覚えていても、実際に食したことはあまりありません。故郷を離れた人が年を経て懐かしみ、食してみる…もし当時の菓子舗が、そんな「未来のお客」のために、このようなCMを考えたのだとしたら、まさに「をちこち=未来と現在」の世界…CMの力を改めて感じます。

私も民間放送の一員ですが、ニュースであれ、番組であれCMであれ、未来のために心に残る放送を…まだまだメディアは知恵を出さなくてはいけないのかもしれません。

なお、上記以外にも歴史ある菓子舗はあります。例えばういろうは、青柳ういろうと大須ういろが有名ですが、名古屋ういろうの元祖は「餅文総本店」でもちろん健在。菓子だけに、こんな奥深さも「いとおかし」と言えましょう。

本年もよろしくお願いいたします。(了)

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