新型コロナウイルスの影響のなかで…厳しい日産の実態
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「報道部畑中デスクの独り言」(第175回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、2月13日に行われた日産自動車の決算発表について---
「足元の販売減に伴う業績の悪化は残念ながら想定を超えている」
2月13日に行われた日産自動車の決算発表では、就任して間もない内田誠社長から厳しい発言が相次ぎました。
2019年度の第3四半期“累計”、つまり2019年4月~12月までの9ヵ月間の連結決算は、本業の儲けを示す営業利益が543億円で、前年の同じ時期に比べて82.7%減。営業利益率はわずか0.7%、純利益も393億円で同じく87.6%減という大幅な落ち込みとなりました。
さらに、2019年10月~12月の3ヵ月間に限れば、260億円の最終赤字に転落しました。3ヵ月間の“瞬間風速”ではありますが、赤字転落は2008年のリーマン・ショック以来11年ぶりのことです。
記者会見では、この“第3四半期の赤字”は内田社長の口からは直接明らかにされず、報道陣は配布された決算短信資料で知ることになりました。2019年度通期の見通しは、世界販売台数が505万台(前回見通しから3.6%減、以下同じ)、売上高10兆2000億円(3.8%減)、営業利益850億円(43.3%減)、純利益650億円(40.9%減)と再び下方修正、株主への期末配当も見送りとなります。
「販売台数が想定を下回ったことに尽きる」
内田社長は低迷の原因をこのように分析しました。その上で「取り組みの方向性は正しい。回復に転じるのはもう少し時間を要する」とも述べました。5月に中期経営計画の見直しを発表する予定です。
追加の合理化策にも言及しました。「いままでのやり方以上の形をとって行かないと、収益の回復については難しい。場合によっては今後進めることを断念せざるを得ない地域もあると思う」と述べ、一段のリストラ策の可能性を示唆しました。
ただ、撤退の手法については「コア地域のブランド撤退、弱い地域でのブランド撤退もない。地域におけるプレゼンスのあり方、アライアンスとの協業で進めて行くのか、パートナーとやって行くのかを整理する」…つまり、日産ブランドは残しながら、ルノー・三菱自動車が得意な市場は2社に任せ、自社の生産拠点は縮小という手法をとると思われます。
インドネシアではダットサンブランドの廃止も明らかにされています。いずれにしても、さらなる人員削減は避けられないとみられます。
あわせて、新型コロナウイルスの影響で、中国国内の工場は操業再開が早くても2月17日以降に。内田社長は台数や収益の具体的な数字については明言を避けたものの、「2月半ばまで操業再開ができないとなると、それなりの影響はある」と述べました。日本国内でも部品調達の問題で、九州などの生産拠点では休日出勤を取りやめるといった“生産調整”が行われることになりました。
日産の昨年(2019年)の中国での新車販売は154万台あまり。いまの日産にとっては稼ぎ頭と言っていい中国市場ですが、トヨタ自動車に日系メーカー首位の座を明け渡したばかりか、ホンダにも抜かれて3位に転落。
この新型コロナウイルスによる影響は、決算内容には盛り込まれていません。前回の小欄では、トヨタは「出鼻をくじかれた」形と申し上げましたが、日産はまさに「泣きっ面に蜂」の状況と言えます。
こうした状況を目の当たりにすると、20年以上前、ルノー提携以前の惨状を思い出します。あの“悪夢”が再び起こるのかと危惧もしますが…。
経営陣の多くが“無責任体質”だったあのときと比べると、確かに危機意識は違います。厳しいアライアンスの監視にあることは、むしろ前向きな材料でしょう。そう考えると、内田社長の厳しい発言は、いわゆる「独立派」へのけん制ともとれます。
一方で、かつては国内、とりわけトヨタの背中を追いかけていた時代とは違い、100年に1度の大変革、自動車業界は舵取りを誤ればトヨタでさえもと言われる、スケールの大きな競争にさらされています。危機意識がそれを凌駕することができるのか…厳しい状況に変わりはありません。
小欄では何度も申し上げていますが、やはり、タマとなる商品がどうなるかが注目です。内田社長は今後、新型SUVを北米から順次投入、小型セダンやクロスオーバーも新興国中心に展開、日本でも新型の電気自動車などの投入を明言しました。また、今月(2月)に軽自動車「ルークス」を発表するということです。
ただ最近、国内で廃止が取り沙汰される車種には「売れ筋」の分野も散見されます。実際、そこには他社が新たに参入し、シェアを奪っているケースもあります。日産の商品戦略が「ユーザーが本当に欲しいと思うクルマ」であってほしいと願うばかりです。
約45分の会見でしたが、新型コロナウイルスの影響以上に、深刻な実態が浮き彫りになったと言えます。新体制発足直後の副COO辞任については、「やめたことには正直影響はあるが、進んでいる状況はまったく変わらない」と述べるにとどまりました。
2月18日には、新体制を決議する臨時株主総会が開かれます。(了)