トヨタ「街づくり」に着手、ところであの制度は?
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「報道部畑中デスクの独り言」(第172回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、トヨタが構想する「コネクティッド・シティ」の戦略について---
トヨタ自動車が年始早々、アメリカ・ラスベガスで開かれたCES=世界最大の家電IT見本市で、「コネクティッド・シティ」=モノやサービスがつながる街を静岡県裾野市につくると表明したことは、小欄でもお伝えしました。
今年(2020年)末に閉鎖される予定のトヨタ自動車東日本・東富士工場の跡地を利用するもので、その広さは約70万平方メートル、東京ドーム15個分とか、明治神宮の敷地ほどと言われます。
ちなみに世界一面積の小さい国であるバチカン市国は約44万平方メートルで、これより広いことになります。いずれにしても相当広大な土地であることは間違いないでしょう。着工は来年(2021年)初めの予定です。
まさに自動車業界「100年に1度の大変革」に向けての実験。トヨタによると、自動運転、MaaS(Mobility as a Service=すべての交通手段による移動をサービスの1つとしてとらえること)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、AI=人工知能技術などが導入されます(このようなカタカナ言語が多いのはやや辟易としますが。閑話休題)。
当初はトヨタの従業員やプロジェクトの関係者ら、2000名程度の住民が暮らすことを想定しているということです。もちろん、トヨタと言えど単独で進めるのは難しく、世界の企業や研究者などに実証への参加を呼びかけています。おととし(2018年)6月、コネクティッド・カー発表の際の豊田章男社長の発言の如く、「この指とーまれーぃ!」というわけです。
クルマだけではなく「街づくり」にも着手のトヨタ、かつて「トヨタホーム」という住宅事業も手掛けていましたが、昨年(2019年)、パナソニックと提携、住宅事業を統合し、「100年に1度の大変革」への下ごしらえとして地歩を固めています。
自社の敷地内とは言え、いや、私有地だからこそできることがあるのかもしれません。いずれにしろ、こうした壮大な試みは、日本の民間企業ではおそらくトヨタにしかできないことでしょう。
一方でこんな思いもよぎります。この手のものは本来、政府が「特区」として音頭をとるべきものではないか…。しかし、政府は「あの件」以降、及び腰になっているようです。
首相官邸HPによると、国家戦略特区という制度は、成長戦略の実現に必要な大胆な規制・制度改革を実行し、「世界で一番ビジネスがしやすい環境」を創出することを目的に創設。
いわゆる「岩盤規制」について、規制の特例措置の整備や関連する諸制度の改革等を、総合的かつ集中的に実施するものとあります。これまでに「農家レストラン」「農家・農村のスマート化」などの取り組みが進んでいます。
実はトヨタの街づくりに似たものとして、「スーパーシティ」構想なるものがあります。自動走行、遠隔医療、遠隔教育、キャッシュレスなどの分野が想定されており、すでに約50の自治体などからアイデアの提案があるのだそうです。
しかし、これを可能にする肝心の法律=国家戦略特区法改正案は、昨年の通常国会では審議未了で廃案、与党内でも慎重な声があり、今国会でも現時点で、法案は提出されていません。
昨年12月18日に開かれた国家戦略特区諮問会議の議事要旨によると、有識者議員の1人である大阪大学の八田達夫名誉教授は、特区の課題の相当数が「ここ数年来前進していない」と苦言を呈しています。
今年も通常国会が始まりましたが、安倍総理大臣の施政方針演説では「デジタル時代の規制改革を大胆に進める」と意欲を示したものの、「特区」の文字は見当たりませんでした。
特区制度は中国では1978年から改革開放政策の一環として設置され、急成長の原動力になりました。中国という国家のあり方についてはともかく、制度自体は適切に運用すれば国の成長、国益に資する有用なツールになり得ますが、日本ではいわゆる「モリ・カケ問題」以降、すっかり「利権の温床」というイメージがついてしまい、総理も懲りてしまったようです。IR(統合型リゾート)をめぐる一連の問題も、それに輪をかけている形です。
トヨタが矢継ぎ早に繰り出す手も、必ずしも順風満帆に行くとは限りません。しかし、こうした民間の動きは、改革に手をあぐねている国の体たらくを浮き彫りにしているようにも映ります。(了)