黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に脳科学・AI研究者の黒川伊保子が出演。人工知能研究者の立場から、男女の考え方、脳の仕組みの違いについて語った。
黒木)さまざまなジャンルのプロフェッショナルにお話を伺う「あさナビ」、今週のゲストは人工知能研究者で感性アナリストの黒川伊保子さんです。人工知能研究者ということですが、長年、人工知能の研究開発に従事されているのですか?
黒川)私が人工知能の研究を始めたのは1983年ですから、もう37年になります。1983年はこの国のAI元年と言われる年で、未来の人工知能を目指して国産コンピューターメーカー各社で人工知能専用言語のエンジニアの育成が始まりました。私はその1期生です。
黒木)人工知能ではないですけれども、男性の脳、女性の脳の違いをもとに、2018年に講談社+α新書から発売された『妻のトリセツ』がベストセラーになりました。そして2019年10月には、男性の脳に焦点を当てた『夫のトリセツ』を発売。取扱説明書を略してトリセツですね。
黒川)私は人工知能の研究者で、しかも人工知能と人間の対話の研究をしています。人と人工知能が幸せな対話をできるようにするには、どうしたらいいのか。1991年に、史上初の日本語対話型の女性AIをつくりました。全国の原子力発電所で稼働しているものです。当時は言葉と言っても文字だけのやりとりですけれど、ビジネスシーンでは史上初となった日本語対話のAIは、「35歳の美人女性司書にしてください」というオーダーでした。まだ私は20代の終わりだったので、「35歳の美人のプロフェッショナル」とは「どんな接続詞を使って、どんな言い回しをして、どうやってデータを見せてくれるのだろう」と、妄想に妄想を重ねてつくりました。実際に使ってくださった原子力発電所の運転員の方からは、文字のやりとりだけで「彼女は美人さんだね」と言われました。そのときに、「男性と女性では咄嗟の脳の使い方が違う」ということに気がつき、将来人工知能が言葉をしゃべるときには、男性と女性に対して話し方を変えてあげなければいけないと思いました。
黒木)そうですね。混乱しますね。
黒川)「言葉をしゃべる」ということは2種類あって、1つは「心の文脈」。もう1つは「事実の文脈」です。心の文脈というのは、気持ちを語るための会話である一定期間のプロセスを、感情をガイドにして語って行く。私たち女性にしてみれば「あのとき私がああ言ったら、あの人にこう言われて、あのときから嫌だったのよ、ひどいと思わない?」という普通の会話です。記憶を想起すると、脳のなかで再体験するのです。最初の体験で気がつかなかったことに気づける。「そう言えばあのとき、あれがいけなかったのね」ということに気がつく。逆の言い方をすると、深い気づきをしようと思ったときは、口からは感情でずっとプロセスを語って行くことになる。だけど、感情を語っているときの脳は緊張しているので、なかなか顕在意識に上がらない。顕在意識に上げてあげるためには、共感してあげなくてはいけない。つまり「3ヵ月、君は大変だったんだねえ、よくやったと僕は思うよ」と言うと、気づきが上がって来て、「まあ、私も最初のあれはいけなかったと思うわ」となって、問題が解決する。ところが話し相手の側が「君も最初のアプローチが悪かったんじゃないの?」と言うと、脳が緊張して、深い気づきの演算が無為になってしまう。脳は演算が無駄になったことを知るので、絶望するわけです。ですので、やらなければいけないこと、あなたが悪いということを指摘する前に共感しなくてはいけないことが心の文脈なのですが、男性はそれをほとんどしないのです。
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)/人工知能研究者・感性アナリスト・エッセイスト
■1959年、長野県生まれ。栃木県育ち。
■1983年、奈良女子大学理学部物理学科を卒業。
■富士通ソーシアルサイエンスラボラトリで、14年にわたり人工知能の研究開発に従事。その後、コンサルタント会社勤務、民間の研究所を経て、2003年に株式会社感性リサーチを設立。代表取締役に就任。
■2004年、脳機能論とAIの集大成・語感分析法『サブリミナル・インプレッション導出法』を発表。サービス開始と同時に化粧品、自動車、食品業界などの新商品名分析を相次いで受注し、感性分析の第一人者となる。
■著書に『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社+α新書)など。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳