日産にとって「魅力的なクルマ」とは?
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「報道部畑中デスクの独り言」(第198回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、日産における「魅力的なクルマ」について---
小欄では日産について、「とにかく魅力的なクルマを」と申し上げました。では、日産にとって魅力的なクルマとは何か? 仕向け地によって、魅力の“感度”は違いますが、特に日本のユーザーにとってはどうなのでしょうか?
軽自動車、コンパクトカー、5ナンバーミニバンはやはり「売れ筋」の分野でしょう。また、SUV(スポーツ多目的車)もまたしかり。そして「虎の子の技術」、電気自動車をはじめとする電動化技術も欠かせません。
そう考えると「10年ぶりのブランニューモデル」(星野朝子副社長)として販売を開始した「キックス」や、7月に発表される「アリア」はなるほど、時流に乗っていると言えます。ただ、先日発表された中期経営計画を見ると、「?」と感じざるを得ないところもあります。
例えば、日産は北米・日本・中国市場に集中するという方針を打ち出しましたが、日本らしさをどう出して行くのか。やはり“全体最適”のもとで、販売台数の多い北米、中国に寄せたクルマになって行くのでしょうか?
すべてとは言いませんが、サイズやデザインの面で北米や中国向けは大陸的でおおらかなクルマが多く、これらが日本になじむのかはやや疑問です。
国内販売における輸入乗用車の割合をみると、売れているのは欧州のメーカーです。例を挙げると、ダイムラーが展開するメルセデス・ベンツの5月の販売台数は、2691台(日本自動車輸入組合調べ)。新型コロナウイルスの影響で、各社とも台数を落としている事情はあるものの、これは三菱自動車、SUBARUの台数を上回っています。
ダイムラーだけでなく、ドイツのVW、BMW、アウディ、BMWミニは、他国のメーカーより多い1000台以上の販売をマーク。クルマにおける日本人の欧州、とりわけ“ドイツ信奉”はかなりのものだと言わざるを得ません。日本人が好むのは大陸的なおおらかさではなく、ドイツ車のような合理的で精緻なクルマではないでしょうか?
もっとも、ルノーとの“すみ分け”もありますし、マネをすればいいというものではないのが、自動車ビジネスの難しいところではあるのですが…。
日産車のイメージは皆それぞれですが、私は適度なサイズで、見た目は多少武骨でも機能美にあふれ、「走る・曲がる・止まる」の基本性能がしっかりしているというものだと思います。そして、ユーザーによってその性能を自由に引き出す「懐の深さ」があるのが日産車ではないか…。
1960年~1980年代に輩出した日産車のなかには、いまも愛されているクルマが多く、プレミアがついているものさえあります。ユーザーが「イジリ倒せる」に足る民間のパーツショップもあります。日産自身も予想できなかったことでしょうが、それはこのような「懐の深いクルマ」が多かったからではないでしょうか。
そういったクルマは畢竟、ユーザーに欲しいと思わせる「オーラ」を放ちます。翻っていまの日産車が30~40年先に愛される存在となっているのか…日産の技術者には、ぜひそこを大事にしてほしいものです。
それは電動化や自動運転に技術がシフトしても決して矛盾しないはずですし、また、そうして行かねばなりません。求められる基本性能は時代によって変わるかも知れませんが、それさえも「懐の深さ」を示すことはできると思います。
また、「適度なサイズ」…これは日産に限ったことではありませんが、モデルチェンジごとに大きくなって行くクルマがいかに多いことか。国土の狭い日本です。登録車であればかつての小型車、いまでいうBセグメント、Cセグメントに日本車の真骨頂があると思うのですが、いかがでしょうか。
小欄では2013年の東京モーターショーで披露された「IDx」について、何度かご紹介しています。このクルマは、日産のかつての名車をモチーフにしたとみられるデザイン、サイズも手ごろで、これぞ日産のDNAと感じたものです。
ちなみにIDxという車名は、Dがローマ数字の500、xは同じく10、つまりDx=510でブルーバード510型のオマージュではないかとも言われました。ショーでの評判もよく、市販化への期待が高まりましたが、結局、実現には至らず。
ショーからしばらく経って市販化について聞いたとき、「ダメだった!」…当時の日産関係者の悔しそうな表情を思い出します。いま思うと、「魅力的なクルマ」になる素質は十分でした。
執筆中に、日産の歴代の名車をかたどった「カキノタネ」が発売されるというニュースが飛び込んで来ました。日産の開発拠点、神奈川県伊勢原市と伊勢原市内の食品メーカーが協力して製作したということです。
カキノタネと言えば、初代ブルーバード(310型)のテールランプを思い出します。これと関連があるかどうかは定かではありません。
名車がこういう形でよみがえるのはうれしいことではありますが、ファンにとって欲しいのはお菓子ではなく、皆をうならせる「本物のクルマ」であることは言うまでもありません。(了)