「新常態」下での“コミュニケーション”を考える

By -  公開:  更新:

メディアリテラシーではフリーアナウンサーの柿崎元子が、メディアとコミュニケーションを中心とするコラムを掲載している。今回は、話さない日常のストレスについて---

「新常態」下での“コミュニケーション”を考える

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【#大学生の日常も大事だ】

大学生が置かれている現状をつぶやいたツイートが、一時トレンド入りしました。

「キャンパスに行って友達をつくりたい、学食で食べてみたい、学校で講義を受けてみたい」

「高い学費を払って質の低い授業、字数稼ぎのレポートに追われるって何だろう?」

「PCとにらめっこで目が限界に達し、病院通いです」

「90分×17コマ全授業から課題。課題が難しくて相談するにも友達もいない。不安しかありません」

「Go To キャンペーンで地方に行くのがよくて、何で大学に行けないのでしょうか?」

新型コロナウイルスの新規感染者が激増するなか、外食産業をはじめ、旅行業などが打撃を受けて連日メディアに取り上げられています。しかしその傍らで、学生も悲鳴を上げていました。

大学は義務教育の小中学校に比べ、研究や自己学習の要素があります。そのため4月からオンライン授業となっても、学びの内容に関して、大学も学生も、そして教師も自己責任的な意味合いで放置されました。非常事態宣言が解除されて、気のゆるみがあったのかも知れません。

 

【キャンパスライフは社会経験の場】

私が対面講義をする予定だった大学は、オンデマンド授業を推奨しました。私は解説動画をつくり、毎週学生に提供しました。

学生からは、「オンデマンド授業は自分のペースで進められる」「わからなかったら途中で止めて、もう一度聞き直せる」と概ね歓迎するコメントが多く寄せられましたが、「友人たちと情報交換をしたかった」「課題の時間がなさすぎる」などの声もありました。

その後、夏休み直前になっても感染者数は減らず、大学は早々に後期もオンライン授業を決めました。それに対して、学生の不満が爆発したのです。

直接ウイルスに感染するという怖さもありますが、現在はむしろ間接的に健康に支障をきたす例が増えています。キャンパスライフはコミュニケーションにおいて大事な社会経験の場です。しかし1日も登校することが許されないというのは、若者の将来に大きな影響を及ぼすのではないでしょうか。

「新常態」下での“コミュニケーション”を考える

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【話すことは筋トレ】

狭い空間に1人で、何十時間もパソコンを見続けるという状態は、普通に考えても健康によくありません。

本来は友人や先生に悩みを話したり、サークルで体を動かしたり、美味しいものを食べたりと趣味を含めてコミュニケーションを深め、ストレスも発散しているのですが、それがまったくできない……特に、話すことをしないと一体どうなるのでしょうか。

話すということは、頭で考え言葉を発し、それを相手にぶつけて、相手がどう答えるのかによって対応が変わります。これは高速で脳を使っていると言えます。

さらに、口を動かして言葉を発する際には、表情筋や口の周りの筋肉を使っています。1人でしゃべらない時間が長くなると、この筋肉を使わなくなるため、筋力は衰えて行きます。そんなに簡単には落ちないだろうと思われるかも知れませんが、毎日、発声・活舌練習をしなくなったアナウンサーは、本当にしゃべるのが大変になります。

要は、筋力トレーニングを怠ったというわけです。早口で話せないばかりか、不明瞭な音になり、何を言っているのかわからなくなります。これは同じように声にも当てはまり、声を出すために使う筋力が衰えると、声が出にくくなるのです。

ですから、友達とのコミュニケーションが極端に減った状態が長引くと、以前と同じように話すことができなくなる……可能性さえあります。

「新常態」下での“コミュニケーション”を考える

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【家でできるストレス発散法】

コロナ禍では人に会うこともままなりませんが、パソコンから離れて誰かと話しましょう。家族がいる場合は部屋にこもらず話しかける、1人暮らしなら電話をかけるなど、声を出すことを大事にしてください。

誰かと話すことは、自分の考えを外に出す機会です。また相手への理解を促したい気持ちがあるため、整理能力や処理能力も高まります。そして呼吸も活発に行われて、ストレスの発散につながるのです。

腹式呼吸をゆっくり行うと、自律神経が整えられることも知られています。吸う息でお腹を膨らませ、吐く息でお腹をへこませる、家でできるシンプルな呼吸法です。質のいい睡眠につながるとも言われ、一石二鳥ですね。

「新常態」下での“コミュニケーション”を考える

ニッポン放送「メディアリテラシー」

【手軽で身近、ゆるいラジオ】

さて今回、私の授業を履修した学生の多くが興味を示したものに、ラジオの存在がありました。

ラジオを聞いている人は年齢の高い層が多く、若者はラジオどころか、テレビも見ない人種だと思っていました。しかし、「いままであまり興味がなかったけれど、ラジオにとても興味が湧いた」と言うのです。

理由は手軽さ、身近さ、ゆるさでした。ラジオが乾電池だけで作動することを知らない彼らは、電源を入れるだけで聞くことができる手軽さ、そして自分の耳元で自分だけに話してくれている、あるいは特別なコミュニティーのなかに入れてもらっている身近さが、安心感を醸成すると言うのです。

それこそ孤独な毎日でも、ラジオのパーソナリティー、この場合の多くはミュージシャンだったり好きなタレントだったりするのですが、まさに遠くて手の届かない人が、自分のすぐそばで秘密を共有してくれているという特別な感覚。小さいながらもコミュニティーに参加することで、さみしさを払拭することができるようです。

また、テレビでは話せないけれど、ラジオなら話してもいいかなというゆるい感覚が、気を使わなくて楽しいということでした。

ラジオは何か作業をしながらでも情報が耳から入って来るという便利さがあり、現在でもタクシー運転手や農作業に従事する人、手を動かさなければならない作業の人たちには、広く受け入れられています。ネットワーク局の存在により、全国とつながりを持つことも可能です。

それは、1人ではないことを実感させてくれます。もちろん災害時には、電気がない状況で力を発揮してくれます。こんなときだからこそ、ラジオを見直すことは新たな発見につながるのだと感じます。

ストレスをため込まないようにするための、皆さんの方法は何ですか? 人それぞれだと思いますが、つながりを確認し、声に出して話すこと。人間にしかできないコミュニケーションの力を信じて欲しいと思います。(了)

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
Facebookページ @Announce.AUBE

Page top