【ライター望月の駅弁膝栗毛】
金沢から終着・大阪を目指して走る、北陸本線の特急「サンダーバード」。
平成7(1995)年に特急「スーパー雷鳥(サンダーバード)」として登場した列車が起源で、平成9(1997)年には、シンプルに「サンダーバード」と改称。
いまでは大阪~金沢間の特急は、全て「サンダーバード」の愛称で運行されています。
かつての「雷鳥」の系譜を継ぐ、北陸エリアの看板列車と言ってもいい存在です。
(参考)JR西日本ホームページほか
そんな「サンダーバード」も多くの列車が停まる加賀温泉駅の駅前で、駅弁を手掛ける「高野商店」の5代目、高野宣也(よしなり)社長にお話を伺っている、シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第24弾。
コロナ禍のなか、冬の駅弁大会シーズンに突入したいま、どんなこだわりを持って駅弁をつくっているのか、訊きました。
●駅弁大会をはじめとした催事に対応した社屋!
―こちらの社屋は、平成3(1991)年に建てられたとおっしゃっていましたが、今年(2021年)は、それからちょうど30年の節目なんですね。
1980年代後半から、各地の催事で販売する「送り弁当」の需要が高まっていました。
この「送り弁当」に対応できるように、増産体制を整える意味で、新しい社屋を加賀温泉駅前に建てました。
(話題性のある)九谷焼のお弁当などを登場させたのもこのころです。
現在の工場では、最大2万食をつくったことがあります。
―ちょうど「駅弁大会」のシーズンに入って来ましたが、高野商店のさまざまなユニークな駅弁は、どのように開発されていますか?
私が開発しています。
最初に開発した駅弁は、昔の「甘えび寿し」だったと記憶しています。
でも、甘えびが高騰して、地物の甘えびで商品にするのが難しくなってしまいました。
現在はなかなか駅弁にできないのが辛いですが、今年も京王百貨店で販売する「のどぐろと香箱蟹……」の駅弁は、自分でも納得の行く出来で、本当によくお求めいただきました。
●白飯でも寿司飯でも美味しい! 石川県産コシヒカリ
―高野商店の駅弁に使用している「お米」へのこだわりを教えて下さい。
蟹百万石の「ひゃくまん穀」をのぞいて、石川県産コシヒカリをブレンドして使っています。
寿司でもご飯でも美味しくいただけるのが特徴で、米を1日浸して、ガス釜で炊きます。
米の水加減は職人さんの熟練の技を必要とするところで、季節によって水加減を変える必要があるので、ご飯を炊くのは難しいなぁと感じています。
コロナ禍では炊く量も抑えたりしているので、その分、難しくなっている点もあります。
―高野商店は歴史ある寿司駅弁も多いですが、「酢飯」へのこだわりを教えて下さい。
確かに、かにずし、柿の葉ずしは約50年の歴史があります。
ただ、酢の調合は企業秘密ですね。
でも、昔から受け継がれている、比較的「甘め」の酢飯としています。
とくに石川県は、「甘い」味を好む傾向がありますので。
お菓子もいっぱいありますし、醤油も甘いものが多いですからね。
●能登の美味しい食材、加賀の料理文化を駅弁に!
―おかずの食材には、どんなこだわりがありますか?
食材は、できるだけ地元産にこだわっていますが、安定供給も大事にしています。
加賀・能登らしさを感じさせ、リーズナブル感もあって駅弁に適した食材を、各地から仕入れていて、のどぐろなどの高級魚も、大量に仕入れることで安定供給に結びつけています。
また、カニは安い時期にまとめて仕入れて冷凍保存することで、お求めやすい価格にしていますが、香箱蟹はなかなか捕れなくて、安い時期がほとんどなく、難しいですね。
―最近の人気駅弁は?
北陸新幹線金沢企業のときに開発した3つの味が一緒に楽しめる「金沢三昧」です。
あと、輪島の朝市をイメージしてつくった「輪島朝市弁当」も人気です。
石川県でも、能登は食材の宝庫、加賀は料理文化が華やかなエリアですよね。
ただ、金沢駅も何社かの駅弁屋さんの駅弁が置いてありますので、他社さんの商品と、あまり重複しないような工夫が求められているように感じます。
(高野商店・高野宣也社長インタビュー、つづく)
平成27(2015)年3月の北陸新幹線金沢開業と共に登場、金沢駅の駅弁売店でも人気を集めているという、高野商店の「金沢三昧」(1200円)。
大きく“金沢三昧”と書かれた掛け紙には、“金沢名物三種盛合せ”の文字と共に、ズワイガニ、能登牛、のどぐろ(赤ムツ)が上品に描かれています。
合わせて「創業明治弐拾九年」の印が入って、高野商店の歴史をアピールしています。
【おしながき】
・ベニズワイガニのかに寿し
・能登牛おこわ
・のどぐろ寿し 椎茸煮
「カニ・牛肉・のどぐろ」という、とてもわかりやすい、いいトコどりの「金沢三昧」。
ご飯も、高野商店自慢の酢飯と牛おこわの2種類が楽しめます。
ベニズワイガニの棒肉たっぷり、能登牛もたっぷり載って、のどぐろは酢〆と一捻り。
とくに5年前の金沢開業時、「のどぐろ」をイチ早く駅弁に盛り込んだのは特筆すべき点で、私も開業直後にいただいた際、そのいままでにない食感に感動を憶えたものです。
北陸新幹線金沢開業まで、北陸地区の在来線普通列車は、国鉄時代の急行形電車や寝台電車を改造した列車で運行されていました。
2010年代以降、JR世代の521系電車による置き換えが進み、3月のダイヤ改正では、七尾線(津幡~和倉温泉間)に残った国鉄形を置き換える予定です。
新幹線と共に変わりゆく、北陸の鉄道事情と駅弁の販売環境。
次回、高野社長のインタビューは、コロナ禍での駅弁販売について伺います。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/