【ライター望月の駅弁膝栗毛】
名古屋・米原~金沢間で運行されている、特急「しらさぎ」。
「しらさぎ」の愛称は山中温泉の「白鷺伝説」に由来するとも云われ、JR東海管内の名古屋に直通する列車もあることから、車両の窓枠下にはオレンジのラインも入っています。
北陸本線と並行して工事が進んでいるのは、「北陸新幹線」。
加賀温泉駅周辺にも大きな高架橋が建ち、工事用車両が行き来する様子が伺えます。
(参考)JR西日本ホームページ
近い将来、北陸新幹線の駅も開設される加賀温泉駅を拠点に駅弁を手掛けているのは、福井県の北国街道・今庄宿の旅籠、大黒屋をルーツに持つ「高野商店」。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第24弾は、高野商店の5代目・高野宣也(よしなり)社長に、駅弁にまつわるさまざまなエピソードを伺っています。
今回は、ふるさとの今庄を離れて、この地にやって来たときの話を伺いました。
●ふるさと・今庄を離れて、石川県の大聖寺へ!
―昭和37(1962)年、北陸トンネルの開通で、高野家は発祥の地・今庄を離れることになりましたが、このときのエピソードはありますか?
北陸トンネル建設の話が進んできたころから、将来は今庄駅に特急・急行も停まらなくなり、駅弁販売はできなくなるだろうという見通しは立っていました。
そこで高野家から(北陸本線沿線で)どこか商売ができる駅を紹介していただけないかと、当時の国鉄へ何度も足を運んで、お願いに行きました。
交渉は難航したそうですが、最終的には石川県の大聖寺駅への移転でまとまりました。
―どうして「大聖寺(だいしょうじ)」だったんですか?
当時の大聖寺は、特急・急行列車が停まり、金沢と福井の中間に位置するということで、駅弁のニーズがあると判断されたようです。
そのころは山中温泉へ向かう、私鉄の北陸鉄道も大聖寺から出ていました。
大聖寺にはもともと、駅弁をやっていた方もいらしたそうですが、そのお店から権利を譲っていただく形で駅弁を販売することになりました。
●「加賀温泉駅」誕生で、再び移転!
―県境を越えて「大聖寺」にやって来たときは、ご苦労も大きかったでしょうね?
県を越えた全く馴染みのない土地でしたので、それは相当苦労したと思います。
大聖寺は昔の城下町でしたから、新参者が受け入れてもらうまでは、時間がかかりました。
亡くなった父が「今庄に帰りたい……」とこぼしたこともありました。
移ったばかりのころは大聖寺駅だけでの販売でしたが、さらに国鉄と交渉を重ねることで、列車への積み込みもできるようになりました。
―しかし、10年と経たずに昭和45(1970)年、今度は特急停車駅の整理に伴って、作見駅改め、「加賀温泉駅」へ移転することになったんですよね?
当時は、北陸トラベルサービス(車販会社)を通じた特急への積み込みが主力でした。
ですので、大聖寺から加賀温泉へ特急停車駅が変更された以上、駅での駅弁販売も、移らざるを得ないことになりました。
まずは加賀温泉駅に営業所を設けて、大聖寺の工場から運ぶ形を取りました。
いまの加賀温泉駅前の社屋は、平成3(1991)年になって建てたものです。
●高度経済成長の恩恵を受けた、駅弁屋の移転
―早いもので、去年(2020年)には「加賀温泉駅」が50周年を迎えたわけですね。
当時、北陸本線の優等列車の停車駅だった大聖寺、動橋、粟津を統合するため、その中間にあった作見駅を、特急停車駅として整備して加賀温泉駅に改称しました。
整備に当たっては、地元の地権者による協力もあったと聞いています。
当初は田んぼのなかにあった駅だったと聞いていますが、高度経済成長華やかなころで、駅弁も“黄金時代”と言われた時代の移転だったのは、恵まれていたと思います。
(高野商店・高野宣也社長インタビュー、つづく)
高野商店が大聖寺へ移ってきて、まず取り組んだのは、海鮮系の駅弁の開発でした。
昭和48(1973)年の発売以来、高野商店随一の伝統を誇る「かにすし」をはじめ、この「柿の葉ずし」(1000円)も、加賀温泉駅の誕生と共に歴史を刻んできた駅弁の1つ。
加賀地方における「柿の葉ずし」は、前田利家公が金沢城入城の折、献上されたことがその始まりと云われているそうです。
【おしながき】
・柿の葉ずし(鯖)
・柿の葉ずし(鮭)
・柿の葉ずし(えび)
・柿の葉ずし(鯛)
鯖、鮭、えび、鯛の4つの味が、2カンずつ楽しめる、高野商店の「柿の葉ずし」。
熟練の職人さんの手で、1つ1つ、丁寧に柿の葉に包まれています。
柿の葉を剥がしたときの、フワッと香る酢の香りと、甘めの食感が食欲をそそります。
私は昔、高野商店の「柿の葉ずし」のお陰で、加賀の柿の葉ずし文化を知りました。
駅弁が持つ地域の食文化の発信力は、改めて大きいと感じさせてくれるものです。
北陸トンネルの開通以来、北陸本線は“特急街道”として名を馳せるようになりました。
「白鳥」「雷鳥」「しらさぎ」……さまざまな鳥の名前が愛称に採用されて、その車内では、北陸本線沿線に点在する、各駅弁業者の駅弁が販売されました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第24弾・高野商店編。
次回は、加賀温泉駅における駅弁の販売、特急列車への積み込みについて伺います。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/