それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
高校生たちが日ごろ鍛えたワザや技量を競い合う大会を「甲子園」と呼ぶことがありますが、なかにはこんな甲子園もあります。
7月25日、愛媛県四国中央市で開かれた「書道パフォーマンス甲子園」。四国中央市は「日本一の紙の町」とうたわれる製紙業で有名な町です。ここで毎年夏に開催される「書道パフォーマンス甲子園」は、今年(2021年)で14回目を迎えました。
たった3校でスタートしたこの大会は、次第に全国的に知られるようになり、最近では100校を超える参加を数えるようになったと言います。今年も全国から102校が応募。映像審査による予選を通過した21校が、本戦に出場しました。
「書道パフォーマンス甲子園」の名の通り、文字の形や美しさだけが審査の対象ではありません。生徒たちが書を書き上げるまでに見せる表現力、所作、ダンス、紙面構成など、全てが審査の対象になります。
演技時間は6分以内、参加人数は12名まで。そろいの着物や羽織、法被や面など、生徒たちは思い思いの工夫をこらした衣装に身を包みます。縦4メートル、横6メートルの巨大な紙の上で繰り広げられるパフォーマンスと、そこに生み出される言葉は、見る者の胸を熱くする若者のパワーと情熱に満ちあふれています。
優勝、準優勝、第3位。それぞれに素晴らしい作品ですが、ここで特にご紹介したいのは、審査員特別賞に輝いた福岡県大牟田北高等学校の「表彰状」という形をとった作品です。
「テーマがいい」「笑顔がいい」「書道とパフォーマンスの調和がいい」と、審査員からの高い評価を得た作品のテーマは、「青春を取り戻そう」。これは、「多くの我慢や不便を強いたコロナ禍などには負けない」という強い意志を秘めたテーマでもありました。
タイトルは「表彰状 凌雲之志」……雲をも凌ぐほどの高い志、という意味です。表彰状の一文字一文字に万感の想いと気持ちを込めて、生徒たちは太い筆をふるいました。その文章をご紹介しましょう。
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『表彰状 凌雲之志
諸君は雲をも凌ぐほどの高い志で 失いかけた日常を取り戻そうと仲間と共に挑み続けた
その姿は我々の鼓動を打ち 私達の心は一つだという証をくれた
よってこれを賞す
令和三年七月二十五日 大牟田北高等学校 書道部』
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書道部の顧問を13年間務めている、松尾理恵子先生はおっしゃいます。
「去年(2020年)の大会はコロナ禍のため中止になりました。涙をのんだまま卒業して行った先輩たちの無念さも込められた文章だと思います。13年前の部員は、たった3人からのスタートでした。それでも部員たちは、地域のイベントや高齢者施設などでパフォーマンスを披露しては、一歩ずつ上り詰めて来ました。書道部に憧れて大牟田北高校に入学した生徒もいるんですよ」
今回は7人の部員と4人の臨時部員、合計11人で参加した書道部。審査員特別賞の発表では「ウソでしょ!」「やったぁ!」という大きな声があがったそうです。
パフォーマンスのために選んだ楽曲は『アナと雪の女王』や、大河ドラマ『青天を衝け』のサントラ盤から選んだもの。曲にのせて部員たちが新しい息吹を得た魚のように躍動しました。
「書道部の部室にはエアコンも付いていないんです。それでも生徒たちは1年1年、着実な形で成長を見せてくれます。うれしいですね」と、控えめな松尾先生の声が弾みました。
番組情報
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