「活字文化」を残すため、基礎を学ぶコースを“返礼”にも
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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
今回は、活版印刷に使う「金属活字」についてご紹介いたします。
活字づくりを言葉で説明するのは、少し難しいかも知れません。まず、鉛・スズ・アンチモンを混ぜた金属の塊「インゴット」を、350~400度でドロドロに溶かします。
このあと、「母型」と呼ばれる活字の型をセットした鋳造機に流し込み、水道水で素早く冷やして、「カッタン、カッタン」と打ち出して行くと金属活字ができあがります。
活字鋳造機は昭和初期のもので、現在は製造されていません。修理をしながら使い続けているのは、横浜市南区吉野町で活字鋳造と活版印刷を守り続ける、株式会社「築地活字」です。1919年(大正8年)の創業ですから、102年の歴史があります。
活版印刷が華やかな昭和初期は、東京、宇都宮、青森、秋田、さらに満州にも支店を出し、活字の鋳造販売を行っていました。
現在、社長を務めるのは、5代目の平工希一さん・62歳。学生時代、映画の脚本家を目指したこともありましたが、大学を卒業すると秋葉原の電気店に就職します。
しかし、人間関係などもあって1年で退職。そんなとき、父親から「うちの仕事を手伝ってくれ」と声がかかります。
「子どものころから、職人さんやパートの奥さんが家族のように仲よく働いているのを見て育ったので、居心地のいい職場でしたね。あのころの活版印刷は活気があって、いまでも覚えているのは、年末になると近くのバス停から降りた人が、みんなうちを目指してやって来るのです。年賀状を注文するためにね。眠い目を擦りながら働いていたのが懐かしいです」
平工さんが37歳のときに父親が亡くなり、「築地活字」を継ぎます。そのころになると、活版からオフセット印刷が主流になり、いまでは印刷技術のコンピュータ化が進んでいます。
印刷屋さんは街から次々に消えて行きますが、それでも活版印刷の需要は根強くありました。紙の凹みと、インクの「にじみ」や「かすれ」具合が何ともいい味を出すことから、活版印刷が見直されています。
名刺やチラシ、ポスターをはじめ、革細工に打ち込む活字の需要もあり、さらに「活版作家」と呼ばれるデザイナーのイベントも頻繁に開催されていました。ところが、今年(2021年)5月から注文がバッタリと来なくなります。
「メール・FAX・電話など、まったくない日がありました。ステイホームで名刺を渡す機会が減り、さらにイベントがなくなり、チラシやポスターの注文もなくなったのです。これではもうやって行けない。秋にはいよいよ廃業か、と覚悟していました」
落胆する平工社長に、知り合いの取引先から「思い切ってクラウドファンディングをやってみたら?」と勧められます。
「クラウドファンディングで支援してもらっても、焼け石に水かな……と思っていたのですが、いざ始めてみたら反響の大きさに驚きましたね。デジタル世代の若い人には、活字が逆におしゃれなのです。活字の魅力をもっともっと発信し、これからも活字文化を残すことが、私に残された仕事だと思いました」
活版印刷業界は、後継者不足にも悩んでいます。金属活字は使えば使うほど欠けたり、摩耗してしまうため寿命があります。活字鋳造職人は高齢化が進み、平工社長の知る限りでは、全国に4~5人ほどとなってしまいました。
その1人が、「築地活字」で働く大松初行さんです。19歳で鋳造職人になり、現在76歳。活字づくりは1000分の1ミリの精度が求められ、長年の経験から微妙なズレを修整しつつ、活字をつくり続けています。今回のクラウドファンディングでは、「鋳造技術の継承に興味がある人材を募集した」と言う平工社長。
「基礎を学ぶコースを支援の返礼として入れさせていただき、すでに募集枠がいっぱいになりました。この文化・技術を絶やしたくないという応募者の熱意に応えて行くためにも、ここで諦めるわけにはいかない。そう心に固く刻みました」
「築地活字」の活字鋳造機は新型コロナに負けじと、きょうも「カッタン、カッタン」と鳴り響きます。
■株式会社「築地活字」
住所:〒232-0014 横浜市南区吉野町5丁目28-2(三進興業ビル1F)
電話:045-261-1597/ファクシミリ:045-261-5890
メール:info@tsukiji-katsuji.com
営業時間:08:30~17:00
休業日:土・日・祝日
■クラウドファンディング(※2021年9月30日まで)
https://wonderfly.ana.co.jp/cf/ideas/1016
番組情報
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