コロナ禍で氷の注文が激減。老舗の氷屋さん「中央冷凍産業」が苦しい中でも貫いた創業以来のポリシーとは?

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ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」(毎週土曜日8時30分~10時50分)の番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【東京新聞プレゼンツ10時のグッとストーリー】

今年の夏も暑い日が続きましたが、この季節に欠かせないのが「氷」です。まるでガラスのように透き通った氷を、飲食店やバーなどに運ぶのが「氷屋さん」。今日は創業73年、東京にある老舗の氷屋さん「中央冷凍産業」のストーリーをご紹介します。緊急事態宣言によって、都内ではお酒が出せなくなった影響で、氷の注文が激減。ピンチに陥った社長が苦しいなか、頑なに貫いた創業以来のポリシーとは…?

コロナ禍で氷の注文が激減。老舗の氷屋さん「中央冷凍産業」が苦しい中でも貫いた創業以来のポリシーとは?

東京・神田駅から歩いて数分、JRの高架下にある「中央冷凍産業」。終戦から3年後の1948年、銀座で創業し、帝国ホテルの真裏で商売を始め、銀座のお店や一流ホテル、宮内庁にも氷を届けてきた老舗の氷屋さんです。4年ほど前、創業した場所が再開発の対象になり、神田に移転しました。

マイナス10度になる保冷庫で、自ら大きな氷柱を運んでいるのが、3代目社長の伊藤弘光(いとう・ひろみつ)さん・47歳。「うちは創業以来、社長自ら現場に出て、氷を運ぶのがモットーなんです。祖父も父もそうでした。」氷柱は非常に重く、うっかり落としたらヒビが入り、売り物にならなくなってしまいます。結構な重労働ですが、学生の頃から、夏休みになるとアルバイトで家業を手伝っていた伊藤さん。「自分は長男ですけど、氷屋を継ぐ気は全然なかったんです。大変だし、先生になりたかったんで…」

ところが、自ら現場で懸命に働く父親の姿を見ているうちに「身内の自分が支えないと。」という思いが強くなり、25歳のとき中央冷凍産業に入社。弟と一緒に、2代目社長の父をサポートしました。

「氷の品質には自信があります」と胸を張る伊藤さん。ガラスのように透き通った氷を作るためには、まず原料の水から不純物を完全に取り除き、さらに水の中に含まれる空気を集め、これも除去します。こうして作った「純水」を急に凍らせず、家庭用冷凍庫よりも温度が高いマイナス10度の冷凍庫で、48時間かけてゆっくりと凍らせていきます。こうやって手間を掛けることで、白く曇ったところが一つもない美しい氷=「純氷(じゅんぴょう)」が出来上がります。

素材にこだわる銀座の老舗や、一流のバーテンダーに長年愛されてきた、中央冷凍産業の氷。伊藤さんは2011年、正式に父の後を継いで3代目社長に就任しました。しかし去年、新型コロナの直撃を受け、飲食店やバーからの注文が激減。宴会もなくなったため、ホテルからの注文も減り、去年は月の売上げが前年に比べ9割減った月もありました。創業以来、最大の危機に……。

仕事がなくなった一部の従業員には休んでもらうことにしましたが、雇用調整助成金も利用して、伊藤さんは給料を満額支給。この夏は、社長自ら、休業中の従業員の自宅を一軒一軒訪ね、「申し訳ない。これ、少ないけど……」と夏のボーナスの明細を、直接手渡しました。

「会社がどんなに苦しくても、従業員の生活だけは、何としても守らないと。」と言う伊藤さん。それは祖父の代からの教えでもありました。初代社長の祖父は、面倒見がいいことで知られ、多くの従業員を雇っていたので、儲けはほとんどなかったそうです。そのかわり社長を慕って人が集まり、彼らが上質の氷を作ることで、顧客の厚い信頼を勝ち取ってきました。

「父からもよく聞かされました。『とにかく、人を大切にしろ』と。」と言う伊藤さん。とはいえ、出口がなかなか見えない新型コロナ禍。立ち止まっていては、会社も存亡の危機に陥ってしまいます。

そんななか、伊藤さんが活路を見出したのが、透明な氷の美しさを利用したアート「氷の彫刻」です。フリーの彫刻師と契約する一方、伊藤さんも社長自ら、ノミを持って作品を創ります。「今、都内で氷の彫刻を手掛けている氷屋はうちだけになりました。お客さんのご要望は、可能な限り形にしていきます。この前は、バラが中に入った“氷のイス”を作りました。」と言う伊藤さん。これをきっかけに、氷に興味を持つ人が増えたら……という思いもあってのことです。

コロナ禍で氷の注文が激減。老舗の氷屋さん「中央冷凍産業」が苦しい中でも貫いた創業以来のポリシーとは?

また、業界全体を盛り上げるため「東京アイスアカデミー」という団体の会長を務め、純氷の魅力を伝える映像を作ったり、公式サイトでは純氷を楽しめる街のお店を紹介しています。「バーテンさんの中には、『氷は調味料』と言う人もいるんですよ。今は、家でお酒を飲む“宅飲み需要”が増えていますから、個人宅に直接、透明な純氷を宅配するサービスも始めています。状況は厳しいですが、“氷屋からいい氷を買う”という文化がなくならないよう、頑張ります!」

中央冷凍産業ホームページ

https://chu-rei.co.jp

東京アイスアカデミー・公式サイト

http://www.icenet.jp/index.html

 

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