あけの語りびと

雑味・焦げ味・人間味……衝撃を受けたコーヒーの「原始的なつくり方」とは

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

雑味・焦げ味・人間味……衝撃を受けたコーヒーの「原始的なつくり方」とは

鉄ナベでコーヒー豆を煎る、石川智史さん

人間が感じる味の種類は、「甘味・酸味・塩味・苦味・うま味」の5つが基本だそうです。味覚に大きな影響を及ぼすのが幼少期で、いろいろな味や美味しいものを食べることで、味覚の幅が育ちます。

今回ご紹介する石川智史さんは、静岡県浜松市生まれの40歳。小さいころはおばあちゃん子で、美味しい静岡茶を朝昼晩、一緒に飲んだのが石川さんの味覚の原点になりました。

高校を卒業後は上京し、飲食関係の会社に就職。20歳になると、観光で訪れた沖縄の海の美しさに衝撃を受け、移住を決意します。脱サラして民宿を始めますが、2年後にその民宿を譲ってアメリカに渡ります。

当時、石川さんは自信に満ち溢れた青年で、夢も多く、「世界を見てやろう」とカリフォルニアのレストランで働きながら、自分探しの旅を続けました。25歳のとき、一旦帰国した石川さんに人生の転機が訪れます。

雑味・焦げ味・人間味……衝撃を受けたコーヒーの「原始的なつくり方」とは

石川智史さん・亜紀乃さんご夫婦

「沖縄市に『原点』という老舗のコーヒー専門店がありまして、旨いだけではなく品があり、運命的なコーヒーとの出会いでしたね」

「こんな旨いコーヒーをつくりたい」と石川さんは独立し、「ロースター」と呼ばれるコーヒー豆の焙煎業を始めます。味に関して人一倍自信を持っていましたが、思ったような味が出せず、コーヒーの奥深さに悩み続けます。

そのうち自信を失い、たった3ヵ月で閉店……残ったのは借金だけでした。それでもコーヒーのことが頭から離れず、深い闇のなかでもがく日々が続きました。そんな石川さんを支えてくれたのが、沖縄で知り合い、28歳で結婚した妻の亜紀乃さんでした。

「あのとき妻がいなければ、いまごろどうなっていたことか……」

仕事を転々としながらゴミ処分場で働いていたとき、一歩足を踏み外したら命を落とすような暗いボイラー室で、石川さんは考えたそうです。

「俺はこのままコーヒーを諦めていいのか。旨いコーヒーをつくれず逃げ出すのか……。いや、そうではないだろう?」

精神的にも落ち込んでいた石川さんは、このとき心を決めて、コーヒー発祥の地・エチオピアへと旅立ちます。

雑味・焦げ味・人間味……衝撃を受けたコーヒーの「原始的なつくり方」とは

エチオピアで鉄ナベを使った焙煎を学ぶ

世界で最も貧しい国のひとつ、エチオピア。コーヒーとともに暮らす人々に触れて、石川さんは心が癒され、元気を取り戻します。

「もう一度コーヒーにかけてみよう」と、妻の実家がある沖縄県うるま市で、自家焙煎珈琲店『Tettoh Coffee(テットウコーヒー)』を2015年にオープン。すぐ横に鉄塔が立っていることから、この名をつけました。

開業して3年後、石川さんは再びエチオピアを訪れます。今度は電気も通っていないコーヒー農園で、労働者と一緒に働きました。しかし休憩時間、自分が焙煎したコーヒーを彼らに飲んでもらうと、みんな首をかしげ、まずそうな顔をしたそうです。

そこで石川さんは、エチオピアのコーヒーを淹れてもらいました。鉄ナベを使ってコロコロとコーヒー豆を転がしながら、原始的な方法で煎るのだそうです。そのコーヒーを一口飲んだ石川さんは、目を丸くします。

「何だ、この味は……自分のコーヒーとまったく違う!」

雑味・焦げ味・人間味……衝撃を受けたコーヒーの「原始的なつくり方」とは

「Tettoh Coffee」外観

舌の上でじっくりコーヒーを味わうと、3つの味がわかって来ました。雑味、焦げ味、そして人間味のある癒しの味わいでした。最新型の焙煎機では、この味は絶対に出せません。「自分に足りない味はこれだったのか!」と、石川さんは悟ります。

そのときに飲んだ、雑味・焦げ味・人間味が味わえるコーヒーは、石川さん自ら鉄ナベで焙煎し、「エチオピア」という名で提供しています。

意外と知られていませんが、沖縄でもコーヒーが栽培されています。しかし収穫量が少なく、収入も安定せず、兼業農家がほとんど。石川さんが暮らすうるま市にも、数名のコーヒー豆の生産者がいるそうです。

その1人である伊波善弘さんは、剪定したときに捨ててしまうコーヒーの葉っぱを再利用して、リーフティーをつくっています。「香ばしくてまろやかで、もっと売れてもいいはず」……そう思った石川さんがプロデュースし、「伊波さんのコーヒーリーフティー」は税込250円で売り出され、評判を呼んでいます。

雑味・焦げ味・人間味……衝撃を受けたコーヒーの「原始的なつくり方」とは

コーヒー農園で伊波さんと

「沖縄コーヒーはまだまだこれからですが、可能性を秘めているので、生産者とともに世界が認める味に育てて行きたいですね」と言う石川さん。現在の夢も伺ってみました。

「妻には大変な思いをさせました。いまも苦労をかけっぱなしですが、引退後は静かな山奥か、誰も来ない海辺で、妻だけが来店する小さなコーヒー店を開業するのが夢です。感謝を込めて、美味しいコーヒーを淹れてあげたいのです」

1杯のコーヒーに魅せられた石川さん。あくなき探究の日々は、これからも続きます。

雑味・焦げ味・人間味……衝撃を受けたコーヒーの「原始的なつくり方」とは

最新型の焙煎機でコーヒー豆を煎る石川さん

■『Tettoh Coffee(テットウコーヒー)』
住所:沖縄県うるま市栄野比717-A
電話:098-989-3803
営業時間:8時~16時
定休日:日曜日・第4月曜日

■Tettoh Coffeeのホームページ
https://tettohcoffee.square.site/

■YouTubeチャンネル「Tettoh Channel」
https://www.youtube.com/channel/UCRgywycyxpOgulhA7IDkfHg

番組情報

上柳昌彦 あさぼらけ

月曜 5:00-6:00 火-金曜 4:30-6:00

番組HP

眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ

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