「元気な日産」……復活の萌芽は?
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「報道部畑中デスクの独り言」(第280回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、「元気な日産」復活の萌芽について---
「新型Z、お披露目できるということで、本当にうれしく思っている。過去のZのいいところを全部集めた美しいクルマに仕上がっている」
自動車業界、昨年(2021年)は新型コロナウイルスに加えて、カーボンニュートラルと半導体不足と、激動の1年でしたが、新年になって新型車が続々と登場しています。そのなかで今月(1月)開催された東京オートサロンでお披露目となったのが、新型フェアレディZの国内仕様。往年のファンは心ときめいたのではないでしょうか。
オートサロンのトークイベントでは、日産自動車の内田誠社長が「Zファン」の1人として登場。決算発表などで見せる難しい表情とは違い、若いころZに乗っていた写真をバックに冒頭のような熱っぽいコメントを寄せました。「50年以上も続いているZは日産を象徴するもの。他のやらぬことをやる精神、Zはそれを代表するモデル」とも語り、自信たっぷりの様子でした。
昨年は東京モーターショーが中止となり、国内の自動車が一堂に会する機会がお預けになりました。カスタムカーの祭典であるオートサロンが新型車発表の舞台になる……これも時代なのでしょう。
新型Zについて、ゲストの近藤真彦さんは「色気がある」と評しましたが、なるほど、それは的を射ていると思います。室内も伝統の3連メーターに加えて、運転席のディスプレイは液晶化され、しっかり時代の流れに対応しています。
新型Zはニッポン放送の近く、東京・銀座のショールーム「ニッサン・クロッシング」でも展示されましたが、透明感のある黄色(イカヅチイエローと呼ぶそうです)のボディは滑らかで美しく感じました。
思えば、日産は昨年暮れにもさまざまなトピックを放ちました。長期ビジョンでは、電動化に今後5年間で2兆円の投資、2030年度までの15車種のEV(電気自動車)投入、電動車比率50%以上の目標、全固体電池の2028年実用化……かなり思い切った内容が明らかにされました。
さらに4台のコンセプトカーを披露。昨年は中止となった東京モーターショーですが、もし開かれていれば、こうしたコンセプトカーがお目見えしていたことでしょう。
クロスオーバーEVの「チルアウト」、オープンカーの「マックスアウト」、ピックアップトラックの「サーフアウト」、SUVの「ハングアウト」……チルアウト以外の3台はバーチャルでの登場。「将来の技術の方向性」を示すものとされ、バッテリーは前述の全固体電池の搭載を想定しています。
以前、全固体電池について小欄では、加工によってシート状にもなり得るということを申し上げましたが、なるほどCGでは、薄型プレート状の全固体電池が中央底面に鎮座し、クルマの形が将来、相当自由になる……そんな期待を抱かせました(ただ、長期ビジョンについては、後日行われたトヨタ自動車の発表でかすんでしまうのですが……これについてはまた別の機会に)。
この他、昨年暮れには月面ローバ試作機も公開。「リーフ」「アリア」というEVが持つ、モーター制御と4輪制御の技術を応用したもので、月のような重力の小さな場所でしっかり路面を把握し、駆動力を確保できるかどうか、JAXAと共同研究を進めています。
日産にはかつて宇宙開発部門がありました。合併した旧プリンスの“遺産”で、ゴーン体制でのリストラ策「日産リバイバルプラン」でこの部門は売却されましたが、そのころのDNAがまだ残っているのでしょうか……。
また、約30年前のバブルの時代、「シーマ現象」と呼ばれブームを起こした高級乗用車「シーマ」。俳優の伊藤かずえさんが30年以上愛用して来た車両が職人によってレストア(復元)され、話題になりました。純白のシーマはクルマが熱かった時代のオーラを放っていたと思います。何よりも日産にはこうした旧車を愛するファンがまだまだ健在です。
現在のクルマでは「ノート」「ノート オーラ」がカー・オブ・ザ・イヤーを受賞。日産としては「リーフ」以来、10年ぶりの栄冠でした。
高度成長期、バブル期、ゴーン体制発足直後……日産の「攻めた時期」は何度かありましたが、少年時代、印象に残っているのは1979年(昭和54年)です。
「シルビア」(姉妹車「ガゼール」も登場)、「セドリック」「グロリア」「ブルーバード」「ダットサントラック」という基幹車種をモデルチェンジした他、「バイオレット」「オースター」「スタンザ」「スカイライン」「サニー」のマイナーチェンジと、ほとんどの乗用車を刷新するかのような展開でした。
日本初のターボエンジン搭載車を投入したのもこの年で、友人の間では、免許も持っていないのに大いに盛り上がったものでした。いまとなってはスカイラインを除き、すべてが懐かしい車名です。
今回の新型Z、月面探査用ローバ、カー・オブ・ザ・イヤー。このところの明るいニュースはそんな時代を思い出します。往年のファンにとっては、なるほど最近の動きは「元気な日産、戻って来たか」……そんな期待を抱かせるものかも知れません。
ただ、気になる点もないではありません。新型Zは特別仕様車のオンライン注文から始まり、発売は今年(2022年)6月下旬。2020年のプロトタイプの発表から約2年、予定より遅れに遅れての投入となります。先に発表された新型EV「アリア」も一部ラインナップの販売にとどまります。
半導体不足の影響も否めないと思いますが、このような小出しの売り方はわかりにくく、「はて?」と感じるのも正直なところ。月面探査用ローバの試作機も当然、市販化前提ではありません。
日産復活の萌芽は確かに見えて来ていますが、イメージ戦略の域を出ていない印象があり、本物かどうかを見極めるにはまだ時間が必要です。特に、トヨタの力強い動きを見ていると、心もとないことは否めません。
一方、これらの動きで評価したいのは、日産が歴史に向き合う姿勢を持ち始めていること。お伝えした通り、日産にはかつての名車を愛でるファンがまだまだたくさんいます。その歴史を生かしたクルマづくり……それは新興メーカーにはない“武器”になるでしょう。
トヨタ・日産の「ビッグ2」と言われた時代は昔。日産が向かう道は、トヨタとはもはや別のところにあるのは間違いありません。そうした視点でも日産の今後に注目して行きたいと思います。(了)
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畑中秀哉(はたなか・ひでや)
■ニッポン放送 報道記者・ニュースデスク。
■1967年、岐阜県生まれ。早稲田大学卒業後、1990年にアナウンサーとしてニッポン放送に入社。
■1996年、報道部に異動。警視庁担当、都庁担当、番組ディレクターなどを経て、現在は主に科学技術、自動車、防災、経済・政治の分野を取材・解説。
■Podcast「ニッポン放送報道記者レポート2022」キャスター。
■気象予報士、くるまマイスター検定1級。