魚は「安ければいい」ではなく、価値相応の値段で買って食べるべし
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黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(5月20日放送)に「株式会社ウエカツ水産」代表取締役の上田勝彦が出演。これからの日本の水産業について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。5月16日(月)~5月20日(金)のゲストは「株式会社ウエカツ水産」代表取締役の上田勝彦。5日目は、これからの日本の水産業に必要なことについて---
黒木)気候変動の影響で海も変わってきています。日本は海に囲まれた国でもありますが、その辺りはどのように考えていらっしゃいますか?
上田)いま温暖化ということが言われていますが、海のなかで起こっていることは、必ずしも温暖化だけではありません。温度が高くなるところもあれば、逆に低くなるところも出てきています。地球は全体で収支をつけますから。
黒木)低くなるところもあるのですか。
上田)「海の魚が変わりつつある」と言われ始めたのが、大体20数年前なのですが、太平洋のマグロ漁業においてそれが出てきました。そのあとポツポツと変化が出てきた。ところがこの10年、5年と最近になって、そのいろいろな変化が加速しています。
黒木)加速されているのですか?
上田)ブリだは富山の氷見が有名ですよね。しかし、いまやブリの主産地は北海道です。サワラも、もともとは瀬戸内海エリア、日本海の一部での高級魚だったものが、いまは津軽海峡を越えて北海道まで行きそうな勢いです。
黒木)改善策についても考えていらっしゃるのですよね?
上田)自然相手の仕事というのは、どのような状況だとしても、その状況に寄り添うしかありません。いままで安定的に獲れていたサケがいなくなり、「困った、困った」と言っているだけでは仕事はできません。
黒木)困っているだけでは。
上田)変化していく自然界に対して、どのようにアジャストできるのか。今度は人間側の問題になります。目新しいものは消費者にとっても、目新しいものなので異文化なのです。「利用度の低い魚」などと言いますが、珍しいわけです。珍しいものはそうそう食べませんよね。ただ、それらを慣れさせていく。そのような伝え方をしていかなければいけません。
黒木)いままでは食べて来なかったものの美味しい食べ方を伝えていく。
上田)そのようなことも大切だと思います。海や魚がいまどのような状況になっているのかということも重要です。一方で、一般の消費者の方たちにお願いしたいのは、頑張って売っている人たちがいる限りは、頑張ってそこは支えてもらいたいということです。
黒木)消費者の方にも。
上田)「安ければいい」ではなく、価値相応の値段で買って食べて支える。生産者と消費者のお互いが支え合うわけです。そのような関係に持っていければ、日本も捨てたものではないと思いますが、いまはそのような状況にあまりなっていないので、なんとか解決していきたいですね。
黒木)それは日本人の魚離れがあるのですか?
上田)実は魚離れという言葉ができたのは約40年ほど前なのです。
黒木)そんなに前なのですね。
上田)いまやその当時の5分の1です。まだまだ減り続けている状況です。魚が減っていると言いながら、いま「魚を輸出しましょう」という話もあるぐらいです。つまり、日本のなかで、これだけ水産物に恵まれていることを横に置いておいて、他所から油ぎった魚を輸入してそちらを食べて、日本国内のものは売れないので輸出しようという流れも出てきています。
黒木)売れないのですか?
上田)日本国内では売れ行きが悪いのです。スーパーでいま最も人気があるのはサーモンだそうです。養殖されたサケマス類は、すべてサーモンと呼んでいいそうですが、あのように人工的に入れた油や付けた色などを好んで食べる国民になってしまっているのです。
黒木)では、消費者の意識改革が必要ということなのですね?
上田)そうですね。ところがこの意識というものはジワジワと継続していかなければ変わらないものです。
黒木)だから、上田さんは魚の伝道師でいらっしゃるのですね?
上田)勝手に名乗っているだけですけれどね。
黒木)日本はいま国産のものを輸出しようとしているのですね。
上田)これからもっと輸出しようという動きがあります。美味しい魚が外に行ってしまって、「それでは国内には何が残るの」という話にもなります。
黒木)もったいないですね。
上田)島国日本で、魚を味わう喜びがどんどんと廃れていくということでもあります。その鍵を握るのが魚、米、野菜、そして、肉とか乳というようなものです。昔の昭和30年代、40年代の世界で、いちばんバランスが取れている日本の食の形なのです。
黒木)日本で獲れた魚をみんなで食べていきましょう、ということですね?
上田)平たく言えばそうですね。
上田勝彦(うえだ・かつひこ)/ 株式会社ウエカツ水産 代表取締役
■1964年・島根県出雲市出身。
■幼少のころから魚に興味を持ち、釣りと魚の研究三昧の日々を送る。
■長崎大学水産学部在学中から「シイラ漁船」に乗り込み、漁師として活動。卒業後は漁師の道に進もうと考えるも、1991年水産庁入庁。
■瀬戸内海漁業調整事務所勤務、調査捕鯨業務、マグロ漁場開拓業務などの業務を経て、本庁に復帰し、水産物普及業務に邁進。
■2015年に退職し、「ウエカツ水産」を起業。「生産」「流通」「小売」「飲食」「家庭の食卓」を柱に、魚食文化普及に尽力。
■漁港で活け締め(神経締め)の技術指導、料理店やスーパーの厨房で魚の扱いを指南、YouTubeから家庭に向けて魚料理の仕組みを伝えるなど、さまざまな活動を実施。
■あらゆる現場に足を運び、漁業、水産、魚食に関わるすべての人に向き合い、「魚を食べる意味」を伝え続けている。
■著書に『旬を楽しむ魚の教科書』『ウエカツの目からウロコの魚料理』『ウエカツさん直伝! 子どもが食いつく 魚レシピとヒミツ』
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳