老舗駅弁店のトップが語る、「駅弁」に大切な2つのマストアイテムとは?

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

広島の瀬戸内海沿いを走るローカル線・呉線は、瀬戸内海の絶景が楽しめる路線です。豪華列車の「トワイライトエクスプレス瑞風」も、山陽ルート・上りで運行される日は、早朝、呉線に入り、朝焼けに染まる瀬戸内海沿いをのんびり走ります。呉線の始発駅・三原で駅弁を手掛けて130年の「株式会社浜吉」の赤枝俊郎代表取締役は、「駅弁」に必要な2つの条件を語りました。いったい、その条件とは何でしょうか?

227系電車・普通列車、呉線・三原~須波間

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「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第35弾・浜吉編(第6回/全6回)

山陽本線の三原から分かれて瀬戸内海沿いを進み、海田市で再び山陽本線と合流する約87kmのローカル線・呉線。三原を出た列車は、まず沼田川(ぬたがわ)の鉄橋を渡り、筆影山の山すそをぐるりと弧を描くと、車窓が一気に明るくなって瀬戸内の海が開けます。現在、日中に三原を発車する呉線の列車は、概ね1~2時間に1本程度。多くは途中の広で、広島方面行きの列車に乗り継ぐダイヤとなっています。

株式会社浜吉・赤枝俊郎代表取締役

株式会社浜吉・赤枝俊郎代表取締役

呉線の始発駅・三原の駅弁を手掛けるのは、明治23(1890)年創業の「株式会社浜吉」です。かつて、呉線は軍港・呉を結んでいたことから、浜吉でも、軍隊向けの弁当「軍弁」を手掛けていました。このため、戦時中も農林省から米・砂糖の配給が十分にあり、弁当作りに活かされていたと言います。そんな歴史ある「浜吉」の赤枝俊郎(しゅんろう)代表取締役のインタビュー完結編。今回は、駅弁作りで大切なことを伺いました。

227系電車・普通列車、呉線・忠海~安芸幸崎間

227系電車・普通列車、呉線・忠海~安芸幸崎間

●駅弁で「旅の楽しさ」を作りたい!

―今年(2022年)は鉄道150年。そして7月で糸崎駅が開業130年になりますが、「浜吉」として、駅弁作りで大切なことは何でしょうか?

赤枝:「旅の楽しさをつくる」ことですね。そして、列車や乗り物に乗って景色を眺めながら、お弁当をいただいてもらうことです。まずは駅弁の「掛け紙」をじっくり見て駅弁を味わって欲しいです。できればポイと捨てずに、掛け紙は持ち帰って欲しい。持ち帰ってもらえるような駅弁を、我々も作っていかなくてはと思います。その意味でも、浜吉の名物「元祖珍辨たこめし」と、幕の内の「浮城弁当」には、伝統の綴じ紐を残しているんです。

―いま、「駅弁」が置かれている環境について、どう思いますか?

赤枝:弁当全体で考えると、弁当の種類や販売数、売店の数が多すぎると感じています。みんなが共倒れになってしまうのではないかということを危惧しています。駅を見ていても、ご利用になる方の人数より、弁当の供給食数のほうが多い状況です。お客様にとって、選択肢が多いのはいいことですが、選択肢が多すぎてもお客様は選べません。このため、福山駅では、浜吉の直営売店を在来線改札内と新幹線上りホームに絞り込みました。

浜吉売店(福山駅)

浜吉売店(福山駅)

●郷土色と掛け紙のある弁当が「駅弁」だ!

―最近は、「駅弁」と総菜弁当、コンビニ弁当の区別がつきにくいですよね。

赤枝:駅弁ならではの特性を、明確に打ち出していかないといけないと思います。駅弁は「郷土色豊かな食材」で作ったものであり、持ち帰りたい「掛け紙」であることが大事です。捨てられない掛け紙であれば、「あの旅行のときの記念だよ」と、あとから思い出話に花が咲きます。ただ、(食材の高騰や漁業資源の枯渇などで)駅弁に使える食材を(地元産で供給できず)、輸入に頼らざるを得なくなったりしているのは、本当に残念です。

―ニッポンの駅弁を盛り上げていく方法は、何かありますか?

赤枝:力を入れた鯛の駅弁は当たらず、ご飯の上にあなごを並べた駅弁が当たるのが、駅弁の難しいところです。その意味では、手間をかけたものが評価される、しっかり売れる幕の内弁当を作りたいです。例えば、駅弁各社で幕の内をテーマに競作して(幕の内のブランド価値を上げる)取り組みをしても面白いと思います。(開発は)とても難しいですが(駅弁文化を守るためには)大事なことだと思います。でも、ここが駅弁の原点ですから。

キロ47形気動車・快速「etSETOra」、呉線・須波~安芸幸崎間

キロ47形気動車・快速「etSETOra」、呉線・須波~安芸幸崎間

●瀬戸内海を眺めて「浜吉」の駅弁を!

―赤枝社長お薦め、「浜吉」の駅弁を美味しく食べられる車窓は?

赤枝:やっぱり、広島の駅弁は「呉線」でいただくのがいいでしょうね。三原駅を出てから、須波から忠海にかけて、瀬戸内海を眺めながらいただくのが、いちばん美味しいと思います。とくに、週末を中心に運行されている観光列車の「etSETOra」でしたら、ゆったりと駅弁も楽しめるかと思います。

―これから、どんな「駅弁」を作り続けていきたいですか?

赤枝:「etSETOra」の前身、「瀬戸内マリンビュー」が登場したころ、呉線をテーマにした「瀬戸内さざなみ弁当」という駅弁を作りました。そのとき、浜吉の駅弁の装丁を手掛けるデザイナーさんが、こんな詩を作ってくれました。

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『波穏やかな瀬戸の海
島々を行き交う船を眺める旅は
なんとものどかで心地よい』

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赤枝:この詩に合う駅弁を、これからも意識して作っていきます。

漫遊弁当

漫遊弁当

掛け紙をじっくりと眺めて、旅気分を楽しめる浜吉の駅弁といえば、「漫遊弁当」(1180円)かも知れません。掛け紙に描かれている絵は、プロデザイナーさんがイメージを膨らませて描いた絵だということですが、少し前まで呉線を走っていた、2両編成の黄色い電車が、須波付近の海岸を行く雰囲気が感じられて、旅情を誘われます。「駅弁」は食べる前に掛け紙を「愛でる」ことも大事なんです。

漫遊弁当

漫遊弁当

【おしながき】
・白飯
・煮穴子
・牛肉旨煮
・焼き鮭
・玉子焼き
・海老天
・鶏の唐揚げ
・椎茸煮
・酢の物(ごぼう、なます)
・ちりめん山椒佃煮
・わさび菜
・香の物

漫遊弁当

漫遊弁当

広島県産「恋の予感」を使った白いご飯の上に煮穴子と牛肉の旨煮が載り、2つの味が楽しめる「漫遊弁当」。おかずにも「浮城弁当」でおなじみの焼き鮭とこだわりの玉子焼きが入って、浜吉の駅弁のいいトコ取りが楽しめる構成となっています。初めて三原や福山で駅弁を買い求める方、どの駅弁にしようか迷ってしまうという方は、この「漫遊弁当」を選んでおけば、どの駅弁の味も満遍なく楽しめることでしょう。

N700S新幹線電車「のぞみ」、山陽新幹線・福山~新倉敷間

N700S新幹線電車「のぞみ」、山陽新幹線・福山~新倉敷間

今回、浜吉の歴史を辿って感じたのは、明治から昭和まで、陸上交通と水上交通の結節点で潤い、平成以降は航空交通との結節点も押さえて、駅弁文化を守ってきたということ。そして愛情が込められたお米1粒1粒が、とても美味しい駅弁を作っていると感じました。7月から岡山エリアでデスティネーションキャンペーンが始まりましたが、岡山と合わせて、広島・備後地方にも足を運んで、掛け紙を愛でながら、伝統の美味しい駅弁を味わってみてはいかがでしょうか。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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