「報道部畑中デスクの独り言」(第300回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、JAXA宇宙飛行士・若田光一さんへのインタビューについて---
小欄「報道部畑中デスクの独り言」も、2017年5月の連載開始以来、今回で300回目を迎えました。多くの駄文を重ねてまいりましたが、今後とも徒然なるままにしたためてまいります。お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
さて、300回目の小欄、テーマは「宇宙」です。JAXA宇宙飛行士の若田光一さんがいよいよ来月(10月)、宇宙への長期滞在に臨みます。
若田さんは日本航空のエンジニアを経て宇宙飛行士になり、1996年の初飛行以来、これまで4回の宇宙飛行の経験を持ちます。4回目の宇宙では日本人として初めて国際宇宙ステーションの船長を務めました。現在59歳、今回は日本人では最高齢での宇宙飛行になります。
今回、東京・有楽町のニッポン放送と、アメリカのヒューストンをオンラインで結び、若田さんへの単独インタビューを行いました。
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(畑中)ようやく打ち上げの日が決まったということですね?
(若田)日本時間ですと10月4日未明になりますが、クルードラゴン、「Crew-5」に搭乗して半年間滞在するということです。発表になりましたけれども、打ち上げまでひと月を切ったところで、本当にいよいよだなという実感を持っています。
(畑中)今回で5回目ということですが、やはりいままでの4回とはまた違う思いと言いますか、緊張感のようなものはあるのでしょうか?
(若田)5回目ということで、米国とロシアの宇宙飛行士以外では初めてのケースになるという、貴重な飛行機会を与えていただいたことに感謝しています。やはりベテランの宇宙飛行士として、仲間、特にルーキーの宇宙飛行士の皆さんを支える、チーム全体でミッションを成功させて成果を創出していくという、成果の創出を最大化させることは私の役割だと認識しています。
(畑中)打ち上げのときは毎回、緊張というか……。
(若田)やはり乗り込んだあと、いよいよこのときがきたと、訓練してきて自分が力を発揮するときがきたというワクワク感というか、ミッションに臨む喜びのようなものがあります。それと、失敗が許されないという。私にとっていちばんの恐怖は、事故の恐怖ではなく、自分が犯す可能性がある失敗に対する恐怖だと思いますが、そういう意味では緊張感は毎回あるのかなと思います。
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すっかりベテランの風格を感じる若田さんです。今回宇宙に向かうのは、若田さんの他は初飛行の宇宙飛行士であり、そういったことも責任感ある発言につながっているようです。
ただ、そんなベテランの若田さんでも、不思議なめぐりあわせと言いますか、船外活動の経験はないのだそうです。その辺りも聞いてみました。
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(畑中)今回が5回目の宇宙ということですが、若田さんは、船外活動の経験がないのですか?
(若田)そうなのです。実はこれまでのフライトのときも、船外活動の訓練と資格は持って宇宙に行き、実際に私が宇宙で使う宇宙服や宇宙の手袋は全部軌道上にあったのです。けれども、たまたま計画された船外活動がなかったり、船外活動服のトラブルのようなものがあって、これまでの飛行では残念ながら機会がありませんでした。今回は同様に訓練を進めてきて、認定を受けていますので、実施されればぜひ船外活動をしたいなと思っています。新しい、新型の太陽電池パネルを宇宙ステーションに取り付けるという、船外活動で太陽電池パネルの基部構造だとか、太陽電池パネル自体を取り付けるような作業が数回実施される可能性があるのですね。まだ確定はしていませんけれど、そういった作業が実際に実施されることになれば、そのなかで船外活動をする機会があるのかなと思っているので期待していますし、実際にこれまでの通算では100回以上、6時間にわたる船外活動のプールでの訓練をしてきています。実際、太陽電池パネルを取り付ける作業も含めて、いろいろなトラブル……機器の故障があったとしても、それを直すための船外活動(の訓練)もこれまで徹底的に行ってきていますので、いかなる作業を担当することになっても、確実に船外活動を実施できるのではないかなと思っています。
(畑中)満を持してという気持ちでしょうか?
(若田)これまで機会がなかったということと、私も前回のフライト後にも申し上げましたけれど、生涯現役で有人宇宙活動を支えたいなと思っていますので、そういう意味でも月・火星探査に向けて船外活動というのは、根幹となる重要な技術になると認識しています。今回そういった経験をさせていただきたいなと思っていますので、準備は確実に進めていきたいと思っています。
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若田さん、船外活動への意欲は十分のようです。新型太陽電池パネルについては、土台の構築を野口聡一さん、星出彰彦さんが船外活動で担ってきましたが、若田さんが日本人として、そのバトンを受け継ぐのか注目です。
さて、若田さんの長期滞在を控えるなかで、宇宙開発の分野では月・火星探査への本格的な第一歩を踏み出そうとしています。それがアメリカ主導の「アルテミス計画」です。
SLSと呼ばれるロケットに搭載される「ORION=オライオン」という宇宙船で、まずは無人で月の周辺を回ります。そして、2024年に人間=宇宙飛行士4人を乗せて月を周回し、2025年にはいよいよ人類が月面着陸するというシナリオです。ただ、第1弾となる無人飛行は技術的な事情で2回延期されていて、打ち上げは早くとも今月(9月)下旬とみられます。
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(畑中)いよいよアルテミス計画が本格的に始動します。打ち上げの延期が続いて、いま「産みの苦しみ」という感じもしますが、若田さん自身が期待することは何ですか?
(若田)アルテミス計画、そのなかでゲートウェイ計画の方には、日本も重要なパートナーとして参加することになっています。いま国際宇宙ステーションで、地球低軌道でさまざまな技術蓄積を日本はしてきたわけですね。ISSを通じて獲得してきた技術、人材はきちんと有効に活用して使い、次の有人宇宙活動の拠点である月面、そういったところでも日本の技術、日本の人材が世界において主体的な形で貢献することにより、プレゼンスを発揮できるのだろうと思います。本当に重要な飛躍の時代を迎えているのかなと思いますので、今回アルテミス1号機、試験機ですが、打ち上げに注目して見守りたいと思います。産みの苦しみと話しましたが、やはり新しいものをつくって打ち上げるとき、特に試験機はさまざまなトラブルが起こりがちなので、まさにそのために試験飛行は計画されています。経験を積んで、ミッションの成功に導いて欲しいなと思っています。
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「飛躍の時代」に向けて……若田さんが向かう国際宇宙ステーションでも、月面探査につながる実験が行われます。その具体的な内容については次回に譲ります。(了)
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