あけの語りびと

映画『こころの通訳者たち』プロデューサーが運営する「シネマ・チュプキ・タバタ」

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

映画『こころの通訳者たち』プロデューサーが運営する「シネマ・チュプキ・タバタ」

映画「こころの通訳者たち」は、10月1日(土)から先行上映されます

JR田端駅の北口を下りて5分ほど歩いたところに、小さな商店街があります。その商店街をぶらぶら歩いていくと、座席が20席という、これまた小さな映画館「シネマ・チュプキ・タバタ」が見えてきます。「チュプキ」とは、アイヌ語で「自然の光」という意味だとか。

目の不自由な方には「音声ガイド」を、耳の不自由な方には「字幕」を、子ども連れの方にはガラス越しに映画が見られる完全防音の個室を、車椅子の方には劇場の後ろのスクリーンが見やすい専用スペースを……。ここは、誰でもいつでも安心してみんなが一緒に映画を楽しめる、日本で唯一の「ユニバーサルシアター」です。

代表の平塚千穂子さんは、50歳。この映画館をつくるまで、いろいろと長い道のりがありました。

平塚さんが映画の素晴らしさに出会ったのは高校生、音楽の授業で「ウエスト・サイド・ストーリー」を観たときでした。将来は教師になりたいと思い、早稲田大学教育学部に進みます。しかし、本当にやりたいことは何か、自分の進路に悩んでしまいます。

学生時代、平塚さんにはお気に入りの喫茶店がありました。「私もこんなお店を開いてみたい! そうだ、喫茶店で働いてみよう」と思い、就職活動もしないでいると、「喫茶店をやらせるために大学に行かせたわけではない!」と父親が激怒。平塚さんは家を出て一人暮らしを始めます。

映画『こころの通訳者たち』プロデューサーが運営する「シネマ・チュプキ・タバタ」

「シネマ・チュプキ・タバタ」代表・平塚千穂子さん (C)Chupki

その後はカフェで働き、店長にもなりますが、人間関係などのトラブルで喫茶店を開く夢ははかなく消え、将来が見えない日々が続きます。「あのとき名画座に救われたんです」と平塚さんは振り返ります。

「自分の居場所がなくて、名画座で1日中、映画を観て過ごしましたね。映画を観ながら自分を見つめ直し、自分と対話もできました。同じ空間で、全く知らない人が泣いている……そういう距離感がある映画館はすごくいいな、と安らかな気持ちになったんです」

暗い映画館で、平塚さんの心にパッと「光」が差し込みました。27歳のとき、高田馬場の名画座「早稲田松竹」でアルバイトを始めた平塚さん。そのころ、チャップリンのサイレント映画『街の灯』を、視覚障害者に向けて上映するバリアフリー上映会の企画に出会います。

それがきっかけで、「目の不自由な方にも映画の楽しさを伝えたい」と音声ガイドを制作し、20年以上、言葉で映画を届ける活動を続けてきました。上映会を開くたびに、ふくらむ夢があったそうです。それは誰にでも「光」を当ててくれる場所……「映画館」をつくることでした。

映画『こころの通訳者たち』プロデューサーが運営する「シネマ・チュプキ・タバタ」

舞台手話通訳付きリーディング公演『凛然グッドバイ』の記録映像『ようこそ 舞台手話通訳の世界へ』より (C)Chupki

映画館をつくるとなると、最低でも1000万円規模の資金が必要です。そんなお金はどこにもありません。「夢は夢で終わるのかな」と思っていた平塚さん。ダメ元で開業資金を募ったところ、まるで映画のような奇跡が起きたそうです。

わずか3ヵ月で500人以上から、1800万円もの募金が集まりました。20年以上も音声ガイドを制作し、上映会を続けてきたことで、平塚さんを応援する人がたくさんいたのです。

こうして、2016年9月1日にオープンした「シネマ・チュプキ・タバタ」。新旧とりまぜて、選りすぐりの映画を1日4~5本ほど上映しています。そんなある日、平塚さんの元に少し難しい相談が舞い込みます。

映画『こころの通訳者たち』プロデューサーが運営する「シネマ・チュプキ・タバタ」

音声ガイド制作中の平塚千穂子さん(奥)と彩木香里さん(手前) (C)Chupki

耳の聴こえない人にも演劇を楽しんでもらうため、「舞台手話通訳者」に挑んだ3人の女性を描いた短編ドキュメンタリーが、もともとありました。舞台手話通訳者は、通常の手話通訳とは違い、演出家の指導のもと通訳者も1人の出演者として舞台に立ち、ときには一緒に演じながら台詞や情景を観客に伝えます。

このドキュメンタリーを、目の見えない人に音声ガイドで伝えたい……いままで取り組んだことがない難題にチャレンジする長編ドキュメンタリーを、平塚さんのプロデュースで制作することになったのです。

いざ撮影が始まると、平塚さんもスタッフの方々も、舞台手話通訳者の表現をどのように音声ガイドにしたらいいか、頭を悩ませ、壁にぶつかります。暗中模索のなかでもいつも笑顔と笑い声があふれ、1つ1つ解決していきました。

見える人、見えない人、聴こえる人、聴こえない人。障害のあるなしも超えて「こころ」のバトンをつないでいく……そんなドキュメンタリー映画『こころの通訳者たち What a Wonderful World』が完成し、2022年10月1日から「シネマ・チュプキ・タバタ」で先行上映されます。

映画『こころの通訳者たち』プロデューサーが運営する「シネマ・チュプキ・タバタ」

映画館の2階(事務所兼スタジオ)で音声ガイド制作中の平塚さん

「シネマ・チュプキ・タバタ」のパンフレットには、平塚さんがこの映画館に込めた想いが綴られています。その一部を最後にご紹介します。

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ここはとても小さいけれど
いろんな人に会える場所
出会う映画は宇宙規模

夜の海を照らす月のように
大地を育む太陽のように
チュプキの光が
みんなの心に届きますように
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映画『こころの通訳者たち』プロデューサーが運営する「シネマ・チュプキ・タバタ」

「初めて来る方は、気付かずに通り過ぎてしまうことがあるんですよ」と平塚さん

■CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)
住所:東京都北区東田端2-8-4(JR山手線・京浜東北線「田端駅」北口から徒歩5分)
電話:03-6240-8480
定休日:水曜定休

■「CINEMA Chupki TABATA」公式サイト
https://chupki.jpn.org/

■映画『こころの通訳者たち What a Wonderful World』
https://cocorono-movie.com

■映画『こころの通訳者たち』劇場情報
<先行上映>
・東京:CINEMA Chupki TABATA 10月1日(土)より

<全国順次ロードショー>
・東京:K’s cinema 10月22日(土)~
・千葉:キネマ旬報シアター 11月5日(土)~11月18日(金)
・神奈川:横浜シネマリン 11月19日(土)~12月2日(金)

番組情報

上柳昌彦 あさぼらけ

月曜 5:00-6:00 火-金曜 4:30-6:00

番組HP

眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ

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