“まさか”と思うな、“もしや”と思え……山際大臣辞任の1日

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「報道部畑中デスクの独り言」(第306回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、山際大臣の辞任について---

新型コロナウイルス感染症対策分科会であいさつする山際大志郎経済再生相=2022年9月16日午前、東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

画像を見る(全3枚) 新型コロナウイルス感染症対策分科会であいさつする山際大志郎経済再生相=2022年9月16日午前、東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

経済再生担当大臣を務めた山際大志郎氏が、10月24日に辞任しました。

「後出しじゃんけん」「瀬戸際大臣」と言われながらも、ある意味、開き直る形で大臣を続けてきましたが、次から次へと出てくる世界平和統一家庭連合=旧統一教会との接点を示す事実に世論の厳しさも増し、岸田総理大臣も看過できず、事実上の「更迭」という形になりました。

この日の国会でも野党から追及がありました。衆議院予算委員会では2019年に韓鶴子総裁と撮った写真について問われ、山際氏は答弁します。

「その方をどこかでお見かけしたことがあるという記憶があった。写真を提示されたこの機会だったのかな。私と代表の方だけが切り取られたような写真になっている」

「(覚えているかどうかは)定かではありません」

「明確にそこの部分の場面を、私が思い浮かべられることはありません」

さらに、質問をした立憲民主党の後藤祐一議員に対して気色ばみます。

「政治家として写真を撮る行為は、ごく普通に毎日毎日行われているもので、何か特別なものではない。毎日のように先生だって一緒に写真を撮りませんかと言って、撮ることはいっぱいあるんじゃないですか。何か特別な方にお会いしたということではない」

委員会でそんな追及が続いていたころ、テレビが速報を打ちました。

「岸田首相、山際氏の交代を検討」

検討という表現はいささか微妙ではありましたが、国会にいた同僚の小永井一歩記者とともに、まさかのときの体制を組みました。夕方には総合経済対策の骨格を話し合う経済財政諮問会議があり、その後、山際大臣の主管大臣としての会見が予定されていました。仮に当日中の辞任はないにしても、会見では質問が集中することは間違いありません。

「夜は長いな……」

こう覚悟し、突発の事態に備えました。

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)日本本部(東京都渋谷区) 2022年7月20日  JIJI PRESS PHOTO / MORIO TAGA 写真提供:時事通信社

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)日本本部(東京都渋谷区) 2022年7月20日  JIJI PRESS PHOTO / MORIO TAGA 写真提供:時事通信社

一方、山際氏の答弁をどう聞いていたのか……岸田総理は午前の衆議院予算委員会でこのように答弁します。

「これまでも説明責任を果たすよう指示をしてきた。やり取りを聞いてさらなる質問を受けるなかで、説明責任をさらに果たしてもらわなくてはいけない。しっかりと努力してもらわなくてはならない」

さらに午後の参議院予算委員会では山際氏交代検討の報道に関し、「丁寧に応えるのが閣僚の役割だ」と否定します。

ただ、これらの総理の物言いは以前と違い、やや突き放した感じに聞こえました。思えばこの辺りで、すでに伏線があったのかも知れません。とは言え、経済財政諮問会議、山際大臣会見の日程を考えると、当日中の辞任はない可能性も捨てきれませんでした。

総理出席の国会審議が終わった午後4時過ぎ、私は総理官邸に、小永井記者は自民党に張り付いていました。午後4時20分に総理は官邸に戻ります。5時以降、自民党では役員会、官邸では経済財政諮問会議が控えていました。いずれも本来ならば総理出席の機会です。

しかし、総理は官邸から出てこない、自民党役員会は欠席。「もしかして」「やはり」……それぞれの現場がざわつくなか、経済財政諮問会議も経済界の主要メンバーが一向に姿を見せず、官邸スタッフから「中止」の案内。これで決まりとばかり、数分後に各局が「山際氏大臣辞任」の一報と相成りました。

午後7時過ぎ、山際氏が官邸のエントランスに現れると、瞬く間に記者が囲みます。山際氏は、いま辞表を提出したことを明らかにした上で、「予算委員会が一巡して、これから国会審議に障らないようにするべきではないかと自分自身で考えてきたが、このタイミングを逃すわけにはいかないかなと思った」と、辞任の理由を述べました。

私は巷間「後出しじゃんけん」「瀬戸際大臣」と言われていることについての感想を尋ねました。すこぶる「俗」な質問でしたが、それについての回答は以下でした。

「閣僚というのは重い説明責任を負っている。自らの事務所に資料がないということで、外部からの指摘に対応せざるを得なかったのは事実。それを何か言っても仕方がないこと、事実が出てくれば、それに対してきちんと調査をし、丁寧に説明することを尽くしてきた。その姿勢を崩さずにやりたい」

円安、物価高の経済対策、新型コロナウイルス対策など課題山積、解決待ったなしのなかで、その要となる経済再生担当大臣、コロナ対策担当大臣の辞任は、岸田政権の混迷を象徴する事態と言えます。後任には後藤茂之前厚生労働大臣が就任しました。

政界では「(総理は)解散についてだけはウソをついてもいい」と言われますが、こと人事に関してもそれが当てはまるのでしょうか。「あの時点では辞任(あるいは更迭)は考えていなかった」と言い訳されそうですが、安倍元総理、菅前総理の辞任も、もろもろもみ合いがあった末に、急転直下の表明でした。まさに政界は「一寸先は闇」と言わざるを得ません。

取材ではいつも「“まさか”と思うな。“もしや”と思え」と言い聞かせていますが、まさにその通りの1日となりました。(了)

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