「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
全国各地で運行されるスイーツをテーマにした観光列車。平成27(2015)年から、福島を中心に運行されている「フルーティアふくしま」は、走るカフェとしてこの地域の“週末の顔”となっています。この車両を平日に活用、JRと温泉宿がコラボレーションした特別列車「福がくるくるフルーティア」が今月(11月)4、7、14、21の4日間、磐越西線・郡山~磐梯町間で運行されています。一体、どんな列車なのか、今回はスイーツ特別編でお届けします。
●JR東日本と星野リゾートがコラボ!
平日の昼前、赤く色づいた磐梯山をバックに、赤と黒の可愛い2両の電車が磐越西線を駆け抜けていきます。「福がくるくるフルーティア」は、JR東日本の社員が会津地域の観光振興等をテーマに活動する「会津若松エリアプロジェクト」と、星野リゾートの「磐梯山温泉ホテル」が、「福島の福」をテーマにコラボレーションした特別な列車。車内では、ホテルオリジナルのスイーツが提供され、乗車前後で磐梯山温泉ホテルの宿泊やアクティビティが楽しめるようになっています。
乗車口では磐梯山温泉ホテルの皆さんが、会津の郷土玩具「赤べこ」に扮してお出迎え。ホテル同様のホスピタリティで、スイーツやドリンクの配膳、お客様のアテンドに当たります。列車は、午前がホテル最寄りの磐越西線・磐梯町(11:10頃発)~郡山(12:50頃着)間での運行で、午後が郡山(14:07頃発)~磐梯町(15:37頃着)間の運行。それぞれ定員は36名で、ホテルの宿泊とセットになった旅行商品として販売されました。
「フルーティア」は、福島が誇るフルーツとカフェをイメージした「ティー(tea)」を組み合わせた造語。2両編成のうち、会津若松寄りの2号車が、2~4人掛けのボックスや1人でも利用可能なカウンター席など乗車スペースとなっています。また、郡山寄りの1号車にはカウンターがあって、スタッフの皆さんによって提供されるスイーツの最後の仕上げなどが行われるほか、ドリンクのおかわりなどにも対応するスペースとなります。
●福島の伝統を活かしたスイーツ、ドリンクは懐かしのポリ茶瓶で登場!
【ミニャルディーズ5種】
・和梨と酒粕クリームのプチシュー
・武者せんべいを用いたピーナッツ風味のフィナンシェ
田舎味噌のガナッシュとナッツのキャラメリゼ
・蕎麦の実の生チョコとそば粉のクッキー リンゴのコンポートと蕎麦
・洋梨とカシスのパートドフリュイ 梅酒のマシュマロ
・エゴマのサブレとリオレ 柿のゼリーとロースト
乗車すると5種のミニャルディーズ(ひと口サイズの菓子)が、会津三縁起の一つ「かざぐるま」の羽をイメージした器に用意されていました。地元名物の武者せんべいや人気の田楽のお店の味噌を使ったスイーツは、1つ1つに会津らしさが感じられる楽しい逸品です。さらに、ドリンクの「アイスマスカットティー」は、昭和40~50年代の鉄道旅のお供だった“ポリ茶瓶”で提供。ホテルのリピーターさん世代をくすぐる仕掛けとなっています。
●カラフルなフルーツと紅葉でお腹いっぱい!
磐梯山と、ほんの少し猪苗代湖を望みながら進んできた「福がくるくるフルーティア」は、関都駅で下り普通列車とすれ違い、上り快速列車を先に通すため、30分あまりの停車。これに合わせるようにぶどうのタルトが、なんと、会津の郷土玩具「赤べこ」の特別容器に載って登場しました。この日はシャインマスカット・ナガノパープル・ピオーネの3種だそう。こぼれそうなくらい山盛りのぶどうが見えると、ワクワクしますね。
【メイン】
・3種のぶどうのタルト 干し柿とアーモンドクリーム
(シャインマスカット・ナガノパープル・ピオーネ)
アカスグリ ダリアの花びら (花・ぶどうの種類は運行日によって変わります)
酸味が心地よい3種のぶどうに甘みが詰まった干柿、自然な甘さのアーモンドクリームが、本格派のタルトによく合います。そして、鉄道旅の食事は、車窓も大事なメニューの一つ。紫と緑のぶどうをはじめとしたカラフルなスイーツに、赤や黄色に色づいた会津の山が、彩りを添えます。まるで心のパレットに思いっきり絵の具をぶちまけたかのような開放感! やっぱり、食のある鉄道旅は、本当に楽しい時間だと、改めて感じることが出来ました。
●「福がくるくるフルーティア」利用者限定の特別ルームも!
このスイーツを提供した「磐梯山温泉ホテル」には、特別室「会津モダンスイート」もあり、旅行商品でも1日1組限定で、オプションプランとして販売されたといいます。こちらでも、たっぷり山盛りのドライフルーツセットと利き酒師が選定したという地酒が用意されているそう。ちなみに、福島県の地酒は全国新酒鑑評会の金賞銘柄数で9連覇中。鉄道旅は、自分で運転する心配がない分、心おきなくお酒も楽しめるのが嬉しいですね。
磐梯山温泉ホテルによると、春~秋は磐梯山周辺の山歩きの拠点とする方、冬はスノーリゾートを楽しむ方が多いといいます。地下1階の浴場に注がれる温泉は、源泉が40.5℃、ph7.6、成分総計1.195g/kgのナトリウムー炭酸水素塩・塩化物温泉。温泉資源保護のため、加温・加水・循環されていますが、木の香に包まれ、広いお風呂でゆったりすれば、旅の疲れも癒されそうです。
また、磐梯山温泉ホテルは、会津の文化を体験できるアクティビティが充実しています。赤べこや起き上がり子法師の絵付け体験ができるほか、夕食後には会津の民謡「会津磐梯山」の踊りと演奏が楽しめる「あいばせ!踊らんしょ!」も開催。酒好きの方には、“お燗名人”なる資格を持ったスタッフによる「熱燗講座」も魅力的です。旅の初心者はもちろん、旅慣れた方にも、きっと「発見」があるひと時になりそうです。
磐越西線の現役運転士でもある、JR東日本・会津若松エリアプロジェクトの日野さんによると、今回の列車は、磐梯山温泉ホテルの会津の歴史文化体験に対する取り組みに共鳴したJRから星野リゾートに提案する形で、約10ヵ月の準備期間を経て実現したといいます。このプロジェクトでは、2020年に駅弁膝栗毛で特集した会津若松駅弁「会津を紡ぐわっぱめし」の開発を行うなど、地域の魅力を発掘する取り組みが継続的に行われています。
秋の夕日を浴びた安達太良の山並みをあとに、下り列車の「福がくるくるフルーティア」が、磐梯町駅を目指してスピードを上げていきます。21日運行分の受付は終了していますが、ぜひ今後も継続を期待したいところ。特に日~月の宿泊者向けの旅行商品を設定した点が興味深く、現役世代も1日有休を取れば特別な鉄道旅が楽しめます。「福がくるくるフルーティア」の愛称は、“福が来る”と会津三縁起の一つであるかざぐるまの“クルクル”もかけたとのこと。列車をきっかけに平日も温泉に人が「来る」ことは、様々な人により“福”をもたらすはず。“福がくるくる”、新しい“福の循環”のきっかけにもなるか、期待が高まります。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/