コロナ禍で活きた「駅弁」! その理由は?

By -  公開:  更新:

【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

令和2(2020)年から2年以上続くコロナ禍。これに伴い、世の中は大きく変わっています。福島・小名浜で食のテーマパークを展開していた小名浜美食ホテルは、新たに参入した「駅弁」が、その屋台骨を支えることになりました。コロナ禍で生まれた変化に、どのように対応しているのか? トップに食へのこだわりと合わせて伺いました。

キハ110系気動車・普通列車、磐越東線・いわき~赤井間

キハ110系気動車・普通列車、磐越東線・いわき~赤井間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第38弾・小名浜美食ホテル編(第5回/全6回)

常磐線のいわき駅から分岐して軽快に駆け抜けていくのは、磐越東線のディーゼルカー。磐越東線は、福島・浜通りのいわきと、中通りの郡山を約1時間40分で結ぶ路線です。全線を直通する列車は、朝夕中心に1日6往復(一部列車は小野新町駅で乗り換え)。この他、いわき駅を発着する列車には、いわき~小川郷間を走る区間列車が、朝夕1往復ずつ加わります。

小名浜美食ホテル・鈴木社長

小名浜美食ホテル・鈴木社長

「福島県の酒蔵を巡って、仕込み水を飲み比べましたが、浜通り・中通り・会津で、全部味が違うんです」と話すのは、小名浜美食ホテル(株式会社アクアマリンパークウェアハウス)の鈴木泰弘社長。“美食”と名乗る屋号だけあって、食へのこだわりも強いようです。インタビューの4回目は、米と食材へのこだわりからコロナ禍でのご苦労まで、たっぷりとお話しいただきました。

水田が広がる福島県の中通り

水田が広がる福島県の中通り

●福島県産の米、魚の食文化にこだわった駅弁作り

―駅弁の基本・ご飯には、どんなこだわりがありますか?

鈴木:福島県産のブランド米です。品種も混ぜています。福島県でも中通り、郡山周辺の米を使用しています。福島の米は、中通りも寒暖差があり、水がいいので美味しいです。ブレンドしている理由は、日持ちさせるためです。製造した翌日でも、美味しくて柔らかく、粘りのある食感が維持できるように米屋さんに頼んで、オリジナルの組み合わせを作ってもらっています。季節と気候で炊き方や炊き上がったあとの冷却温度帯も変えています。

―魚介系の駅弁が多いですが、このご時世、仕入れでご苦労がありますよね?

鈴木:でも、いわきは海のまちですので、魚介の駅弁にこだわるしかありません。コロナ禍では日本中からウニがなくなりました。いま、国内のウニはチリ産が多いんですが、現地工場が感染症拡大防止のために閉鎖され、日本への船便も運休してしまいました。流通が止まってしまったことが価格高騰以上に痛かったです。仕入れはいわき中央卸売市場や豊洲市場、カジキは三浦半島の三崎、気仙沼へ買い付けに行くこともあります。

江ノ電弁当

江ノ電弁当

●地域の食文化を「駅弁」で発信!

―地元の食材についてはいかがですか?

鈴木:メヒカリやカツオは、小名浜産です。現実問題、魚介で地産地消をすべてやろうと思ったら無理ですので、できるのは「地元の食文化を守ること、継承すること」なんです。例えば、小名浜の「うにの貝焼き」を地元産のうにでやると、それだけで1万円はします。でも、高いからやめてしまうのではなく、もともと、この地域にはうにの貝焼きという食文化があるということを、チリ産のうにを使いながらでも、駅弁で発信するのが大事だと思います。

―一方で「江ノ電」(神奈川県)の駅弁も作っていますね?

鈴木:弊社は、鎌倉駅西口にイタリアンのお店も出しています。それというのも、私がサーフィンをやりますので、若いころから湘南にはよく足を運んでいて、好きなエリアなんです。当然、江ノ電も大好きで、弊社から駅弁の提案をいたしました。関係各所の皆様にご協力をいただき、(このエリアの駅弁を販売している)大船軒さんにも話を通した上で、1年以上をかけて、令和元(2019)年に江ノ電・鎌倉駅での販売を実現しました。

2020年に全線で運転を再開した常磐線~E657系電車・特急「ひたち」、常磐線・大野~双葉間

2020年に全線で運転を再開した常磐線~E657系電車・特急「ひたち」、常磐線・大野~双葉間

●コロナ禍で生まれた「飲食や観光を敬遠する層」に、どう対応するか?

―令和2(2020)年3月の常磐線運転再開に合わせて、意欲的な新作を作られていて、私も大変美味しくいただきましたが、コロナ禍での影響は大きかったですよね?

鈴木:気合を入れて「浜べん」と「フラべん」をはじめ、数種類の駅弁を開発いたしました。運転再開に合わせ、常磐線沿線と東京都内主要駅で大々的にキャンペーンを打つはずでしたが、全部キャンセルになってしまいました。この損失は大きかったです。令和2(2020)年4~5月の緊急事態宣言の間は、小名浜美食ホテルの店舗も全部閉めました。営業再開後も、さまざまな自粛があって、飲食店は思うような営業ができませんでした。

―コロナ禍を乗り越えるために、どんな取り組みをされていますか?

鈴木:去年(2021年)から「駅弁」の営業に力を入れて、百貨店の催事など、数字を何とか伸ばしてきました。いまは「駅弁」が小名浜美食ホテルを支えていると言っても過言ではありません。コロナ禍で、社会に一定の「(公共の場での)飲食や観光を敬遠する層」ができています。(需要が元に戻ることは期待できませんので、)今後も、駅弁や冷凍駅弁の充実、お店も改装し、イートイン・テイクアウト・名物の物販をハイブリッドに組み合わせていきたいです。

鰹づくし

鰹づくし

令和2(2020)年3月の常磐線全線運転再開に合わせて、「JF福島漁連」との協力で、登場した小名浜美食ホテルの駅弁の1つが、「鰹づくし」(1000円)です。スリーブ式の包装にも「常磐線全線開通記念」の文字が躍ります。パッケージに燦然とマークが輝く「常磐もの」とは、いわき市の水産物と水産関係者の総称なんだそう。駅弁を通じて、地元・いわきの味が楽しめるのは、とてもありがたいですね。

【おしながき】
・ご飯(福島県産米) 錦糸玉子
・鰹の竜田揚げ
・鰹のおろし煮
・鰹のフレーク
・煮物(椎茸、人参)
・大根のしそ巻き

鰹づくし

鰹づくし

竜田揚げ、おろし煮、フレークと鰹を3つの味で楽しめるのが、小名浜美食ホテルの「鰹づくし」。ふたを開けると、錦糸玉子が敷かれ見た目も明るく、華やかな雰囲気。その上にごろごろと地元産の鰹が載っています。簡単な煮物と、いわきの名物・大根のしそ巻きも付いて、ご当地ならではの味が楽しめる駅弁に仕上がっています。全国的にも鰹メインの駅弁は少数派。その意味でも、ロングセラーになっていって欲しい駅弁の1つです。

E657系電車・特急「ひたち」、常磐線・泉~湯本間

E657系電車・特急「ひたち」、常磐線・泉~湯本間

小名浜の玄関口・泉駅を発車した仙台行の特急「ひたち」がスピードを上げていきます。上野~仙台間は約4時間半の所要時間。上野から約2時間15分のいわき駅は、まだ全行程の中間地点といったところです。次回、いよいよ小名浜美食ホテル(株式会社アクアマリンパークウェアハウス)・鈴木社長のインタビューは完結編。駅弁に参入して丸7年、携わって気づいた魅力やこれからの展望について伺います。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

Page top