「駅弁作りは最高のエンターテインメント」 その理由は?
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「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
2000年代以降、概ね1000円台のちょっといい駅弁で、旅の非日常感を演出しながら、さまざまな努力を重ねて、「冷めても美味しい」を追求してきた東京の駅弁。駅弁を製造する「株式会社日本ばし大増」は、この春、JR東日本クロスステーションフーズカンパニーとの合併が予定されています。合併後の未来をどのように描いているのか。そして駅弁作りで大切なものは何か。トップに伺いました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第40弾・日本ばし大増編(第6回/全6回)
東京・新宿と信州・松本を結ぶ特急「あずさ」が、多摩川を渡っていきます。一部列車は首都圏側が東京・千葉発着、信州側は大糸線に直通し、南小谷(みなみおたり)発着で運行される列車もある他、大月以東で富士急行線直通の特急「富士回遊」を併結する列車もあります。甲府・竜王発着の「かいじ」と合わせて、中央本線の新宿~甲府間は、毎時2本程度の特急列車が運行されています。
現在は、「あずさ・かいじ」が停まる新宿駅・八王子駅(注)の売店でも販売されているのが、「株式会社日本ばし大増」の各種駅弁です。日本食堂・日本ばし大増の味を受け継ぎ、江戸の繊細な味を駅弁に詰めこんで、早いもので20年。いったい、駅弁作りにどのような思いがあるのか、そして今後の展望は? 6回シリーズでお伝えしてきた「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第40弾・株式会社日本ばし大増編も、いよいよ完結です。
(注)八王子駅売店は2月12日で閉店予定。以降はNEWDAYSで駅弁を販売予定。
●「日本一の駅弁」を作るのが、首都・東京の駅弁屋さんの使命!
―日本ばし大増にとって、「駅弁作り」で最も大事なことは何ですか?
穐山:いろいろな方の努力、協力をいただいて、駅弁が「文化」として成立していることについては本当にありがたいと思っています。これをさらに文化として広めていくのが駅弁会社の役割だと考えています。日本ばし大増は、日本の首都・東京で営業しておりますので、「日本の食を作る」、そして「日本一の駅弁を作る」ことが私たちの役割と自負しています。これからも、日本を代表する弁当を作り続けていくことが大事だと考えています。
―そのなかで今年、JR東日本クロスステーションフーズカンパニーとの合併が予定されていますね。
穐山:弊社の尾久の工場は、開設から30年以上経過して、設備にも不具合が出てきています。設備更新をしたいところですが、尾久は上野東京ラインの直通サービスが始まったことでさいたま・東京・横浜へ乗り換えなしで行けるようになり、マンションなどの建設が相次ぎ、ここで工場の建て替えを行うのは難しいのが現状です。そこで今年(2023年)、JR東日本クロスステーションフーズカンパニーと合併し、埼玉・戸田の新工場に移転いたします。
●駅弁作りを「カッコいい仕事」に!
―新しい工場は、どんな工場になりますか?
穐山:現場最大の課題は、少子高齢化に伴う後継者の問題です。いまの工場は幕の内弁当を1つ作るのに、従業員に半身の体勢になっていただく必要があるほど手狭です。新工場では、最新技術を活用した広いスペースで弁当作りを実現することで、「日本食堂」「日本ばし大増」から受け継いできた職人技や知識を、若い世代に継承しやすい環境を整えます。「駅弁作り、カッコいいよね!」と言ってもらえる魅力的な業界にしたいです。
―確かに「駅弁作り」という職業が魅力的になれば、「駅弁文化」を継承していくことにもつながりますね。
穐山:モノには作る喜びがありますし、美味しいものを提供できれば、皆さんが笑顔になります。旅立つ皆さんへ美味しいものをお出しするという仕事は、最高のエンターテインメントだと思います。弁当作りはもっと誇りを持てる仕事なんです。だからこそ、人に喜びを届ける仕事を、いかに次の世代へ伝えていくか、それが工場の移転というタイミングでいま、私たちがやらなくてはいけない仕事だと考えています。
●鉄道150年の歴史と湘南の風を感じて、東海道の駅弁旅!
―戸田で製造しますが、「東京の味」はどう守り、発展させていきますか?
穐山:戸田でも「東京の味」を守っていきますし、そもそも「江戸の味」というものは、魚河岸等に全国から美味しいものが集まって成り立っていたわけです。いまも日本中の素晴らしい食文化が集まってくるのが東京であると考えれば、その食文化を最新の技術と伝統の技で弁当に仕上げていくのが、私たち「日本ばし大増」にできることです。隅田川・荒川を越えますが、やっていくことは変わりません。
―穐山社長お薦め、日本ばし大増の駅弁を“美味しくいただくことができる”車窓は?
穐山:私自身は神奈川・平塚の出身ですので、やはり、鉄道150年の歴史を紡いできた「東海道本線」でしょうか。特急「踊り子」「湘南」、あるいは普通列車の2階建てグリーン車でも、多摩川を渡って、列車が駅に着いて扉が開く度に、車内の空気が「潮の香り」に変わっていくと、自然と心がほぐれてきます。その車窓の移り変わりとともに駅弁とお酒を一緒に召し上がっていただけたら、もう“天国”気分で、お楽しみいただけると思います。
―日本の「駅弁」の今後、どのように考えていますか?
穐山:駅弁業界としては「もっと付加価値のあるもの」を作り出していけるように、地域や日本の文化をしっかり纏ったものを、日本のみならず世界の方に味わっていただくようにしていく。弁当の作り手も誇りを持って仕事ができる水準に押し上げていく。ちゃんと技があるものを作っていけば、価値があるものとして販売でき、豊かな暮らしとして還元できるわけです。駅弁が「文化」としてより認識されることが、より付加価値を生む源泉になると思います。
【おしながき】
・茶飯 玉子そぼろ 海苔 野菜の醤油漬け
・穴子煮 たれ
・赤かぶ漬け
日本食堂時代からさまざまな形で提供されている、東京駅のあなご駅弁。日本ばし大増が現在製造している「あなご弁当」(1500円)は、去年(2022年)9月22日に登場しました。柔らかく煮つけられ、甘いたれが光る2枚の穴子が、茶飯の上いっぱいに載っています。穴子と茶飯の間には玉子そぼろと刻んだ野菜の醤油漬、海苔が敷かれ、甘い味のなかに歯ごたえのある塩辛い味がときどき現れて、海苔の風味とともに食欲をそそってくれます。
首都・東京と全国各地を結ぶJRの各列車。その鉄道旅の食を、“旅のレストラン”として日本食堂は支えてきました。その系譜を継ぎながら、いまは東京の駅弁業者「日本ばし大増」として、東京らしさ、日本らしさにこだわった駅弁文化を、世界に視野を入れながら発信し続けています。「日本ばし大増」は春からJR東日本クロスステーションフーズカンパニーのブランドとなりますが、この志は世代を超えて受け継いでいって欲しいと願います。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/