「駅弁の日」制定30周年! なぜ4月10日は「駅弁の日」なのか?

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

伊東線・伊東駅で販売されている、祇園の「おにぎりランチボックス」

画像を見る(全10枚) 伊東線・伊東駅で販売されている、祇園の「おにぎりランチボックス」

4月10日は「駅弁の日」です。この日が「駅弁の日」と制定されたのは平成5(1993)年。今年(2023年)は、ちょうど「駅弁の日」が制定されてから30年の節目に当たります。これに合わせ、「駅弁の日」を制定した日本鉄道構内営業中央会に加盟している駅弁業者・26社では、共同の取り組みも行っています。今回は4月10日が「駅弁の日」になった理由と背景を、日本鉄道構内営業中央会の松橋信広事務局長に伺いました。

E257系電車・特急「踊り子」、東海道本線・早川~根府川間

E257系電車・特急「踊り子」、東海道本線・早川~根府川間

駅弁の日30周年! 「おにぎり駅弁」特集(第1回/全6回)

本格的な春の到来が感じられる4月。全国の鉄道沿線では、南から北へ桜の花が咲き、各路線の看板列車が花吹雪のなかを駆け抜けていく風景が観られます。時間に余裕があれば、桜前線を追いかけながら各地の美味しいものをいただいて、全国を旅したいもの。春の日差しと暖かな空気、そして花のある風景は、自然に「旅に出たい」という気持ちにさせてくれますね。

北国でもようやく春の兆しが感じられてくる4月10日は、平成5(1993)年に「駅弁の日」となりました。制定したのは、全国の多くの駅弁業者が加盟している「日本鉄道構内営業中央会」。その事務方として、令和2(2020)年から、多くが創業100年超の駅弁各社とともに駅弁文化の発展に奔走しているのが松橋信広事務局長です。「駅弁の日」が制定されて30周年の節目に際し、改めて「駅弁の日」とは何か、お話しいただきました。

日本鉄道構内営業中央会・松橋信広事務局長

日本鉄道構内営業中央会・松橋信広事務局長

松橋信広(まつはし・のぶひろ)
一般社団法人 日本鉄道構内営業中央会 事務局長

昭和31(1956)年2月6日生まれ(67歳)、秋田県秋田市出身。昭和55(1980)年、国鉄に入社し、羽越本線・新屋駅(秋田県)に配属され、貨物列車関連の仕事に従事する。その後、秋田鉄道管理局で直営ハンバーガー店「パナデリア・アッキー」を各駅に展開したことをきっかけに、JR発足後もNREに出向するなどして、車内販売や寝台特急の食堂車、新幹線の「グランクラス」や駅ナカ開発など、構内営業関連の仕事をさまざまな角度から担当した。令和2(2020)年から現職。

古きよき駅弁の立ち売りイメージ(崎陽軒横浜工場)

古きよき駅弁の立ち売りイメージ(崎陽軒横浜工場)

●駅弁と駅弁文化をアピールしていく日として、「駅弁の日」を制定!

―そもそも、なぜ「駅弁の日」が制定されたのでしょうか?

松橋:昭和59(1984)年ごろから構内営業者の間で、駅弁の「シンボル」を作りたいという機運がありました。そこでまず、昭和63(1988)年に、日本鉄道構内営業中央会(以下、中央会)加盟の業者が、駅弁の掛け紙に付けることができる「駅弁マーク」を作りました。しかし、その後、中央会非加盟業者による弁当販売が行われるケースも生まれてきたことで、駅弁と駅弁文化を広くアピールしていく日として、「駅弁の日」を作りました。

―「駅弁の日」は、どのようにして4月10日に落ち着いたのでしょうか?

松橋:これは、駅弁の「起源」とされる駅が、いくつかあるためです。明治18(1885)年の宇都宮駅説(注)が有力とされていますが、他の“起源とされる駅”の構内営業者も、会員にいます。加えて、7月は高温多湿な時期ですので、食品衛生上、駅弁のイベントを行いにくいということで、春の行楽シーズンの4月に、「弁」の文字が4と十の組み合わせであること、「当」は「十」につながるということから、4月10日を「駅弁の日」といたしました。

(注)明治18(1885)年7月16日、日本鉄道(現・東北本線)宇都宮駅で、最初の駅弁が販売されたとされる説。

「駅弁マーク」が入ったJR東日本クロスステーション(日本ばし大増)の幕之内弁当

「駅弁マーク」が入ったJR東日本クロスステーション(日本ばし大増)の幕之内弁当

●「駅弁マーク」をお客様の“信頼の証”に!

―一方、「駅弁マーク」の制定からは35年ですが、このデザインには、どんな意味があるのでしょうか?

松橋:外枠で「経木」の折箱、枠のなかの十字は“弁当の仕切”で「和」を象徴させて、赤丸は「日の丸弁当」と「人々との交流の暖かさ」を表現しています。駅弁の文字は、「幕の内弁当」が歌舞伎由来であることにちなんで勘亭流の字体を使い、「駅弁」を日本の食文化として世界にもっと知って欲しいという願いを込め、ローマ字表記を加えました。このデザインまでに、およそ20の案があって、侃々諤々の議論が行われたと聞いています。

―ただ、最近は「駅弁マーク」がなくても、駅に並ぶ弁当も少なくありませんね?

松橋:確かに、最近は「駅弁マーク」が入っていない弁当でも、高い評価をいただいている弁当も多くあります。加えて、(駅ナカの商業施設が充実したことで)総菜弁当なども、販売されるようになりました。中央会の加盟業者も、大きな危機感を持って、駅弁作りに取り組んでいます。「駅弁マーク」の入った駅弁がお客様にとっての“信頼の証”となって選んでもらえるように、もっともっと努力していかなくてはならないと思います。

4月1日から販売を開始した各社の「おにぎり駅弁」(左から沼津・桃中軒「静岡おにぎり弁当」、伊東・祇園「おにぎりランチボックス」、小田原・東華軒「箱根山麓豚とあじわい梅のおにぎり弁当」)

4月1日から販売を開始した各社の「おにぎり駅弁」(左から沼津・桃中軒「静岡おにぎり弁当」、伊東・祇園「おにぎりランチボックス」、小田原・東華軒「箱根山麓豚とあじわい梅のおにぎり弁当」)

●この春は、「おにぎり駅弁」と一緒に鉄道の旅を!

―毎年、「駅弁の日」には、中央会でもさまざまな取り組みを行っていますが、今年はどんな取り組みを行っていますか?

松橋:昨年の駅弁の日は、コロナ禍でも旅の醍醐味である駅弁を忘れないで欲しいとの思いで「おにぎり駅弁」企画を展開してご好評をいただきました。今年も「駅弁の日制定 30周年記念 『おにぎり駅弁』企画2023」を、全国26の構内営業者が参加して行っています。一部入れ替わりはありますが、去年より総数で5社増えました。指定の「おにぎり駅弁」をお求めいただいたお客様には、駅弁業者がある、地元のお薦め観光スポットを載せた「駅弁カード」もお渡しいたします。

(注:「おにぎり駅弁」の販売駅、販売方法、販売期間は、駅弁業者によって異なります。また「駅弁カード」も、業者によっては数量限定です)

―松橋事務局長が思う、旅で「駅弁」をいただく魅力は?

松橋:駅弁のある旅は、やっぱり“非日常”なんです。駅弁とともに旅をした思い出は、そのあとも、ずっと心に残り続けます。最近は、都市部の主要駅で全国の駅弁が買えることが増えてきましたが、そこで販売されている駅弁は、全国の一部の駅弁です。現地でしか販売されていない駅弁を土地の空気を感じながら味わっていただくのは、極上のひとときです。ぜひ、春のお出かけシーズン、鉄道で旅をして、駅弁を味わってみてください。

伊東線・伊東駅で販売されている、祇園の「おにぎりランチボックス」

画像を見る(全10枚) 伊東線・伊東駅で販売されている、祇園の「おにぎりランチボックス」

【おしながき】
・おにぎり(しゃけ、わかめ)
・鶏の唐揚げ
・卵焼き
・たくあん

伊東駅弁・祇園の「おにぎりランチボックス」

伊東駅弁・祇園の「おにぎりランチボックス」

JR伊東線と伊豆急行線が接続する伊東駅で、昭和34(1959)年から、駅弁を手掛けているのが「祇園」です。「おにぎりランチボックス」(580円)は、鮭とわかめのおにぎりに、祇園自慢の鶏肉のから揚げ、玉子焼き、たくあんが入ったシンプルな構成。いまの時期だけ「おにぎり駅弁企画」の記念ラベルとなっています。伊豆の温泉宿でいっぱいご飯をいただいても、列車のなかでちょうどよく食べられるサイズが嬉しいですね。

「おにぎり駅弁企画」の駅弁カード

「おにぎり駅弁企画」の駅弁カード

今回は、4月1日に販売を開始した小田原・伊東・沼津の各駅を巡って、「おにぎり」駅弁に同封されている(一緒に手渡される)駅弁カードを入手しました。小田原・東華軒は小田原城、伊東・祇園は大室山、沼津・桃中軒は千本松原が紹介されており、収集する楽しみもそそられます。松橋事務局長によると、この駅弁カードには「駅弁を新たな旅のきっかけにして欲しい」という願いが込められていると言います。

E231系電車・普通列車、東海道本線・沼津~三島間

E231系電車・普通列車、東海道本線・沼津~三島間

長年、駅弁各社では地域ごとに、「駅弁の日」に合わせて、普段は旅に出られない福祉施設に入所中の皆さんへ駅弁を届ける取り組みなどを行ってきました。こういった地道な活動に加え、「おにぎり駅弁」のような企画も行われるようになってきた「駅弁の日」。30年の節目を迎え、一層、私たちの暮らしのなかで“実感できる”記念日に進化しています。この春は、「駅弁」片手に、美しい車窓を眺めながら、鉄道の旅を楽しんでみませんか。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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