福山城築城400年記念駅弁に「隠れ」たものとは?
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「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
山陽本線が通る、中国地方の瀬戸内海沿岸。山「陽」地方ではありますが、ばら寿司、もぐり寿司など、ちらしずしの具材は「隠れ」る食文化が受け継がれています。備後地方・福山の食文化「うずみ」もその1つ。2022年の福山城築城400年を記念し、「うずみ」をテーマに生まれた新作駅弁をいただいてみました。
広島・福山のまちをあとに、N700S新幹線電車の「のぞみ」が東を目指します。東海道・山陽新幹線を直通する車両は、どの編成も同じ顔に見えるという方もいると思いますが、違いが随所に「隠れ」ています。とくにN700Sは、顔つきが若干シャープな印象となって、顔の両脇にSを表現するラインが増えています。また、LEDライトが採用されたこともあり、夜の新幹線ホームで待っていると、明るく見えて「Sが来たな」とわかりやすいものです。
JR福山駅前にそびえる「福山城」は、去年(2022年)8月末に築城400年を迎えました。福山城は元和8(1622)年に建てられて、昭和20(1945)年の空襲で焼け落ちましたが、昭和41(1966)年にコンクリートで再建され、去年まで“令和の大普請”と称し、大規模な改修工事が行われました。これにより、城の北面にあった全国唯一の「鉄板張り」が復元。新幹線ホームからは「隠れ」て見えるので、やっぱりここは下りてみたくなりますね。
この福山城築城400年を記念して、広島・糸崎を拠点に、備後地方の駅弁を手掛ける「浜吉」が、福山駅向けに昨年(2022年)9月2日、新作駅弁「うずみいなり」(1200円)を発売しています。「うずみ」とは、具をご飯の下に埋(うず)めて食べたことが始まりといわれる福山の郷土料理のこと。浜吉では、この料理をヒントに、“一風変わったいなり寿司”を作ってみたと言います。これもまた、「隠れ」がキーワードになった駅弁と言えましょうか。
【おしながき】
・酢飯 油揚げ おぼろ
・玉子焼き
・たこ煮
・かき煮
・焼穴子
・煮物(人参、筍)
・菜の花のおひたし
「うずみいなり」のふたを開けると、一面のお揚げにちょっとビックリ。甘い香りのお揚げを丁寧にはがしていくと、浜吉自慢の煮だこや牡蠣が登場。穴子は焼き穴子としたことで、味わいにいいアクセントが付いています。これを酢飯やお揚げと一緒に食べ進めていくと、ユニークな味のハーモニー。「うずみ」の由来は諸説あるものの、江戸時代の倹約政治が起源とか。瀬戸内ならではの「隠れ」た食文化に光を当てた、応援したくなる新作です。
岡山と広島・備後地方で活躍が続く、国鉄生まれの車両。なかでも「湘南色」の2編成は公式に運行時間が発表されていませんので、どこで出逢えるかは運次第。その意味でも、「隠れ」た人気者とも言えそうです。そして駅弁もまた、パッケージを見ただけでは中味を想像するしかなく、「隠れ」ているのが基本。何かと「明朗」であることがよしとされる昨今、じつは「隠れ」たところにこそ、物事の魅力があるのかも知れません。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/