青森の駅弁屋さんが感じる、駅弁作りの難しさと新鮮な喜びとは?
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「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
東京から東北新幹線「はやぶさ」で約3時間の青森。豊かな大自然と美味しい食べ物、身も心も温まる温泉に恵まれ、訪れるたびに心癒される県です。そんな青森の玄関口、新青森駅の駅弁を手掛けるようになって、10年あまりが経った駅弁屋さんの関係者は、いま、どんなことを感じているのか、そしてこれからの見通しは? 「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第42弾・幸福の寿し本舗編は、いよいよ今回で完結です。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第42弾・幸福の寿し本舗編(第6回/全6回)
津軽富士・岩木山をバックに、りんご畑のなかを、五能線の普通列車がトコトコ走ります。五能線は、奥羽本線の東能代(秋田県)と川部(青森県)の間を、日本海に沿って走るローカル線。観光列車「リゾートしらかみ」が有名ですが、普通列車も健在で、長年、国鉄生まれの車両で運行されてきましたが、いまはステンレスの新型車両が活躍しています。山を望み、海を眺めて、駅弁とのんびり過ごす、普通列車の旅もまた楽しいものです。
そんな青森の駅弁を手掛けているのが、ご当地パン「イギリストースト」でおなじみの工藤パンの子会社・幸福の寿し本舗です。「去年(2022年)からは、駅弁を作る全てのものが値上がりしている」と話すのは那須尚幸営業部長。毎月、値上げをせざるを得ないくらい厳しい環境ではあるものの、「屋号の由来となった津軽の笹寿司は、これからも守り続けていきたい味」と胸を張ります。
●駅弁作りは難しい……でも、評価してもらえるのが、すごく新鮮!
―東北新幹線全線開業から10年あまり、「幸福の寿し本舗」が駅弁を作るようになって、どんな感想を持ちましたか?
那須:駅弁は飲食業のなかでは商品開発が難しいカテゴリーと感じます。それというのも、駅弁をお求めになるお客様は年配の方が多いからです。年配のお客様は(豊富な人生経験ゆえ)味にこだわりがあって、さまざまな駅弁を見てきている方が多くいらっしゃいます。駅弁の味はもちろん、掛け紙や容器の外観に我々もこだわりを持たないとご満足いただけないと感じます。普通のコンビニや総菜の弁当開発とは違って、一筋縄ではいきません。
―「駅弁」でもやっていけると、手ごたえを感じたタイミングはありますか?
那須:お客様に直接評価をいただく機会である「駅弁味の陣」です。ここで評価をいただくことは大きな励みになります。とくに「海鮮小わっぱ」は、駅弁大名(3位)をいただくことができました。それまでコンビニ弁当の売り上げ数値とだけ向き合ってきた世界だったので、「駅弁」は違った世界であることが新鮮です。駅弁味の陣では、今後も毎年、新作駅弁を出していけるように頑張っていきたいです。
●駅弁も「見た目が9割」!?
―幸福の寿し本舗にとって、「駅弁作り」でいちばん大事なことは何ですか?
那須:駅弁はやっぱり「見た目」が勝負だと思います。見た目がよくないと手に取っていただけませんから。ただ、手に取っていただいたはいいけれど、ふたを開けてみて残念……ということもあるのが正直なところです。「なかが見えないのが駅弁」と各社様から教えていただきましたので、手にとっても開けても期待を裏切らない、ワクワク感のある駅弁を作り続けていくことが大切ではないかと思います。
―ニッポンの「駅弁」を、どのように盛り上げていきたいですか?
那須:個人的な思いになってしまいますが、コロナ前、インバウンドで盛り上がって海外へ進出される駅弁屋さんも増えていました。最近は、海外からのお客様も戻ってきています。その意味でも、海外からのお客様が召し上がっても美味しい駅弁を“青森発”で作りたいと思っています。そして、日本の駅弁文化を海外へも発信していく……、その意志を持って、駅弁を作っていきたいと考えています。
●五能線「リゾートしらかみ」で、絶景を眺めながら駅弁を!
―今後、北海道新幹線が延伸されると、新青森が「途中駅」となりますよね?
那須:新函館北斗までの現段階では大きな変化はありません。青森を目的地とされる方も多くいらっしゃいます。でも、札幌まで延伸されると変わってくるのかなと危機感は持っています。ただ、旅行されるお客様は、(特急料金も新青森で一旦、区切られることもあり)青森で一旦降りられ、観光等を楽しまれて札幌へ……という動きもされるのではないかと。ですから、「本州最北端」としての魅力を磨いていくことが大事ではないかと思います。
―幸福の寿し本舗の駅弁を“美味しくいただくことができる”、お薦めの鉄道の車窓は?
那須:新青森駅から出る列車で最も車窓を楽しめる列車は、快速「リゾートしらかみ」です。五能線の絶景区間ではゆっくりと走ってくれます。普段、マイカー生活をしている人でも、「あの列車は乗りたい!」という憧れの列車です。ぜひ海鮮系の駅弁をお求めいただいて、ご乗車いただくと美味しく召し上がっていただけるのではないかと思います。弊社も以前、深浦のマグロを使った駅弁を作っていました。もう一度、ぜひ復活させたいと思います。
幸福の寿し本舗が昨秋、「駅弁味の陣2022」に出品したのは、「津軽づくし弁当」(1300円)でした。もともと、2021年に行われた「青森デスティネーションキャンペーン」に合わせて、JR盛岡支社とタイアップ。津軽線(青森~三厩間)の魅力を発信する駅弁として、津軽半島をはじめとした青森の食材にこだわって開発されました。掛け紙も大きく津軽半島と津軽線の地図が描かれ、代表的な津軽の方言も記されています。
【おしながき】
・白飯(青森県産「青天の霹靂」使用)
・長谷川自然牧場・自然熟成豚の味噌炒め
・青森トラウトサーモンの酢漬け 青森県産ベニズワイガニ いくら 錦糸玉子
・陸奥湾産ほたての照り焼き
・玉子焼き
・できるだしの煮物(れんこん、椎茸、人参、絹さや)
・東北ピクルス(十和田市産ごぼう・長芋使用)
深浦で育てた稚魚を今別や三厩のいけすで大きく成長させた青森県産トラウトサーモンやベニズワイガニなどを盛り付けた海鮮ご飯と、鯵ヶ沢の自然熟成豚を味噌だれで味付けした焼肉ご飯の2つの味が楽しめる「津軽づくし」。おかずには陸奥湾産ほたての照焼きや青森ならではの出汁を使った煮物、さらに地酒を使ったピクルスも入って、青森らしさ満載の駅弁に仕上げられています。
七戸十和田駅を通過した東北新幹線「はやぶさ」号が、新青森駅を目指して一気に駆け抜けていきます。海の幸、山の幸、さまざまな食材に恵まれている青森県。私自身は、夏の下風呂温泉でいただく新鮮な透き通ったいかさしが大好きです。もちろん青森市をはじめ、各地で温泉が湧き出して、温泉好きにもたまらない青森県。この夏は、新幹線に乗って、まぶしい緑を眺めながら、美味しいものをお腹いっぱいいただいてみてはいかがでしょうか。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/