青山学院大学客員教授でキヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司と東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠が8月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。利用者情報を韓国IT大手に提供し、総務省から行政指導を受けたヤフーについて解説した。
総務省、十分な事前周知なしにネイバーへ位置情報を提供したヤフーに行政指導
総務省は8月30日、IT大手ヤフーに対し、検索サービスの利用者の位置情報を事前に周知せず、韓国IT大手ネイバー(NAVER)に提供していたとして、利用者への事前周知や安全管理の徹底を求める行政指導を行った。ヤフーは5月18日~7月26日までの間、検索エンジン開発の一環で、国内の利用者の検索データをネイバー社に試験的に提供。この際、利用者に十分に周知せず、延べ約410万人分の位置情報を提供した。
飯田)市原市の40代男性の方から、「峯村さんがすっぱ抜いたLINEの韓国でのデータ移転問題。親会社の韓国が関わっていましたが、ヤフーも……。ネット企業の情報漏えいの危険を感じました」というメールをいただきました。峯村さんは朝日新聞にいた時代、LINEのデータ移転問題について、スクープを飛ばしました。
峯村)朝日新聞での最後の仕事でした。
飯田)新聞協会賞を受賞されています。
「LINE個人情報管理問題」と構図が同じ ~ヤフーの日本の情報がネイバーに取られ、さらに深刻な問題
峯村)あのときは会社側も反省して、「韓国へはデータを移しません。中国のアクセスも切りました」という話で決着していました。ところが、今回もまったく構図が一緒なのですよね。
飯田)当時と。
峯村)私が報道する直前ですが、LINEとヤフーが合併し、基本的にヤフーがLINEと一緒に巨大なプラットフォームを誕生していました。今回はLINEではなく、一緒になったヤフーの日本のユーザーの情報が、(初代LINE株式会社の)親会社である韓国のネイバーに取られているという意味では、さらに深刻な問題です。
飯田)資本関係も絡んでくるという。
峯村)そうですね。まだ韓国の支配体制が全然変わっていないというのが、現在のヤフーとLINEの状況なのだろうと思います。
行政指導だけではこの体質は変わらない ~厳しく罰するなど、抜本的な措置が必要
飯田)当時は「日本企業なのだから独立している」という建前で言われていました。
峯村)まさに韓国のネイバー支配を象徴するような事件です。それを裏付けられる話になりますし、前回もそうでしたけれど、結局、今回も電気通信事業法の行政指導だけで終わってしまうのです。罰則を厳しくするなど抜本的な措置を取らない限り、この体質は変わらないでしょう。
飯田)結局、データの保管等々のコストが安いなどの理由が当時も言われていました。その部分と、次への開発に向けてデータが欲しいのだと。
位置情報は脅しにも使え、究極的には無人機で人を殺害することもできる ~位置情報は最も重要な情報
峯村)これが本当に開発に必要なのかどうかは疑問ですし、情報のなかでも位置情報は最も大事です。「誰がどこにいるのか」が正確に把握できるわけですし、軍事的にも使えるわけです。例えばターゲットの人間を殺すときにも不可欠です。なぜこの情報を韓国側が入手したのか。これはもう少し闇が深そうな感じがします。
飯田)「お前はあのとき、なぜあそこにいたのだ?」ということから、いろいろな協力が得られたり。
峯村)「いかがわしい店に行っていただろう」などという脅しに使うこともできます。究極的に言うと、無人機などで相手を殺すときにも、位置情報は重要になります。
ロシア連邦保安局(FSB)はIT各社のサーバー内を裁判所の令状なしで勝手に見ることができる ~タクシーサービスやフードデリバリーもあるロシアIT大手「ヤンデックス」
飯田)ロシアでは、データを使った情報戦は進んでいるのでしょうか?
小泉)ロシアには「ヤンデックス」という、「ロシア版ヤフー」と呼ばれる大手IT企業があります。ここは先進的で、自分たちでタクシーサービスやフードデリバリーサービスも行っているので、位置情報を相当持っているのだと思います。
飯田)タクシーにフードデリバリー。
小泉)国内に関しては、こういうデータがロシア連邦保安局(FSB)に抜かれ、見られているのです。法的にFSBはIT各社のサーバー内を、裁判所の令状なしで勝手に見られるようになっています。
飯田)そうなのですか?
小泉)2014年以降、そうなっています。情報機関がその気になれば、人々の生活が筒抜けになってしまうのは(今回の件と)同じ状況だと思いますし、ある意味、ロシアの方がいろいろな意味でIT化が進んでいる部分があるので、ますます情報機関に筒抜けになりやすいのだと思います。ロシア人は、すべてのものをためらいなくIT化してしまうのです。
核爆弾を「何時にどこに落とせば、どのぐらいの被害が出るか」ということがわかってしまう ~「都内のこの時間帯には、何区に何万人ぐらいいる」という情報を持つIT企業
小泉)位置情報の軍事利用に関して言うと、私だったら昼間と夜間の人口動態の違いを見たいですね。中国人民解放軍の核戦略ターゲティングを行う人であれば、それを知りたいと思うのではないでしょうか。
峯村)確かにそうですね。
小泉)「何時にどこに落とせば、どのぐらいの被害が出るか」を知りたいと思うのです。「都内のこの時間帯には、何区に何万人ぐらいいる」という情報を最も多く持っているのはIT企業です。ある意味では抑止力に関わる情報でもあると考えて、位置情報を扱った方がいいと思います。
NTTの改革は経済安全保障面とセットで議論するべき
峯村)しかも約410万人の位置情報です。安全保障上で言うと、もちろん一般の人だけではなく、官僚や政治家も全部紐づいてしまっていますから、リスクのある話だと思います。
飯田)位置情報で言うとIT企業もそうですし、あるいは各々スマホを持っているので、携帯電話の事業者もその情報を持っています。今般、NTT法を改正して株式を売り、それを防衛予算に組み込むという話もありますが、経済安全保障面でどうするかについて、もっと議論する必要があるかも知れませんね。
峯村)セットの話ですね。ただ、NTT法の改正に関しては、約40年前の法律ですから。社名も許可なしでは変えられないとか、開発も自由にはできないという縛りがあります。20年くらい前は世界のなかでも大きな会社でしたが、いまや世界のランキングから外れています。
飯田)そうですよね。
峯村)経済安保面を考えながら、日本のリーディングカンパニーとして改革するのは大事だと思います。
自衛隊の隊員の自殺相談やいじめ相談も漏洩していた ~日本もしっかりとしたプラットフォームをつくるべき
飯田)他にも、日本の自衛隊等の情報が抜かれているのではないかという話も出ています。
峯村)基本的に、しっかりした日本のアプリがないことが問題なのです。LINEの一件があった際に問題だったのは、自衛隊の隊員の自殺相談やいじめ相談などを行っていたのですね。
飯田)自衛隊が。
峯村)こんな情報、敵国から見たらよだれが出ますよね。「この部隊はこんなに病んでいるのか」とか、「ここはいまワークしていない」ということがわかってしまうわけです。安全保障に直結する話ですから、この辺りの問題は国がもっと引き締めた方がいいですよね。
飯田)もちろん商業的な競争もあるけれど、それとは別の部分でプラットフォームとして1個持っておく。
峯村)安全保障の一環として、国が多少お金をつぎ込んでもつくるべきだと思いますね。
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