小樽の駅弁屋さんの「駅弁づくり」のこだわりとは?

By -  公開:  更新:

【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

レトロな駅舎が魅力の函館本線・小樽駅。この小樽駅にも「駅弁」があることは、意外と知られておりません。それは小樽駅でしか買えないこと、しかも、販売個数が少ないこと。遠隔地で買えても百貨店等の「実演販売」に限られるからです。駅売りが厳しいなかでも、会社の方針を貫く理由は何か、トップに伺いました。

E5系新幹線電車「はやぶさ」、北海道新幹線・奥津軽いまべつ~木古内間

E5系新幹線電車「はやぶさ」、北海道新幹線・奥津軽いまべつ~木古内間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第46弾・小樽駅構内立売商会編(第4回/全4回)

青函トンネルを抜けた「はやぶさ」号が、北海道に入ってきました。平成28(2016)年3月、新青森~新函館北斗間が開業した北海道新幹線ですが、2030年度末の予定だった、新函館北斗~札幌間の開業は、工事の遅れなどで、遅れる見込みと報道されています。一方、函館市では北海道新幹線の函館駅乗り入れについて調査するとも伝えられており、並行在来線の扱いや貨物輸送など、新幹線を取り巻くさまざまな課題が山積しています。

小樽駅に入ってきた快速「エアポート」を見つめる、小樽駅構内立売商会・村上社長

小樽駅に入ってきた快速「エアポート」を見つめる、小樽駅構内立売商会・村上社長

北海道最初の鉄道「官営幌内鉄道」が通ったまち・小樽。かつての手宮線は、散策路として整備されています。そんな小樽にも、いずれは新幹線がやって来ます。でも、現在は新千歳空港からの快速「エアポート」が観光客の足を担います。開業延期報道もあって、まだ先を見通すのは難しい様子。今年(2023年)8月にお邪魔した小樽駅構内立売商会・村上功代表取締役インタビューのラストは、これからの小樽駅弁について伺いました。

H100形気動車・普通列車、函館本線・比羅夫~倶知安間

H100形気動車・普通列車、函館本線・比羅夫~倶知安間

●小樽に新幹線がやって来る……けれど!?

―小樽には近い将来、北海道新幹線がやって来ます。今後の見通しはいかがですか?

村上:北海道新幹線は、小樽駅から約4km離れた場所に「新小樽駅(仮)」が開設される予定です。それと前後して小樽駅周辺にも再開発計画があります。いま、弊社がある場所もどのようになるか決まっていません。文化財となっている現在の駅舎は活かしますが、弊社売店がある第一駅前ビルは、時期は決まっていませんが建て替えは決まっています。今後の見通しは立たないのが、正直なところです。

―どのように北海道新幹線を迎えたいと考えていますか?

村上:駅弁業者としては、新幹線のホームや売店でお越しになるお客様をお迎えしたい気持ちはあります。ただ、いまは安全のため、売り子がホームを歩くことができないルールになっています。小樽駅で3年間ほど売り箱を台において販売したことがありますが、惨憺たる結果でした。一方、小樽から先、余市・倶知安方面の在来線は廃線になります。東海道新幹線でも車内販売が終了する時代ですので、駅弁の見通しも難しいですね。

京王百貨店新宿店「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」・小樽駅構内立売商会のブース(2022年撮影)

京王百貨店新宿店「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」・小樽駅構内立売商会のブース(2022年撮影)

●これからも新鮮で安全な「日持ちのしない弁当」を作りたい!

―村上社長にとって、「駅弁作り」で最も大事なことは何ですか?

村上:安全で美味しい弁当を作ることです。先代社長(父)が常に言っていた「日持ちのしない弁当」を受け継いでいきたいです。私自身は30年、駅弁づくりに携わっていますが、小樽駅で販売している「かにめし」や「海の輝き」を、小樽と同じ味・容器で、新鮮な実演販売にこだわって、駅弁界を盛り上げていくしかないと思います。小樽に駅弁があることを知らないお客様も全国に多いので、駅弁を広めていくことも継続してやっていきたいです。

―「日持ちのしない弁当」にこだわる理由は?

村上:先代社長からはずっと「日持ちする弁当を作ってはいけない。輸送駅弁は絶対にするべきではない」と言われてきました。輸送駅弁はどうしても輸送に時間がかかるため、ご飯が固くなるなどの影響があるんです。確かに、輸送駅弁は、売り上げは上がります。でも、長い目で見たときに(駅弁の価値を下げてしまうので)絶対によくないと言いました。これからも日持ちのする食材を使わず、遠隔地で販売するなら実演販売でやりたいです。

733系電車・普通列車、函館本線・朝里~銭函間

733系電車・普通列車、函館本線・朝里~銭函間

●冬の石狩湾を眺めて、小樽の「駅弁」を!

―各社さん、さまざまな形で「輸送駅弁」をされていますよね?

村上:弁当店として葛藤はあります。東京駅の「駅弁屋 祭」に実演ブースがあったとき、朝5時半の開店から仕込んでいましたが、6時には大混雑です。これだけ人がいて北海道の名を冠して輸送駅弁をやったら、会社がもっとラクになるだろうとは思いました。でも、もしも何かあったら、「小樽の駅弁に間違いはない」とお求めいただいたお客様の信頼を取り戻すのは容易ではありません。だから、(私が臆病なのかも知れませんが)怖いんです。

―村上社長のお薦め、小樽駅構内立売商会の「駅弁」を美味しくいただくことができる、鉄道の車窓はどこですか?

村上:やはり、函館本線の南樽(南小樽)、築港(小樽築港)を過ぎて、石狩湾の海岸線ギリギリのところを銭函へ向けて走る区間です。あの景色が素晴らしいです。とくに冬は雪が列車の窓によく当たります。私も本州へ行くとき、東京から帰ってきたとき、あの景色がいちばん心に沁みますね。最近は駅弁を食べにくい車両も多いですが、指定席「uシート」もありますので、ぜひ石狩湾を眺めながら、小樽の駅弁を味わっていただきたいです。

(2023年8月取材、株式会社小樽駅構内立売商会・村上功代表取締役インタビュー)

幕ノ内弁当

幕ノ内弁当

正直、さまざまな取引先から、「輸送駅弁をやりませんか?」というお話を受けることもあるといいますが、その都度、会社の方針と合わないのでお断りしていると話す村上社長。その代わり、「小樽駅構内立売商会の駅弁や地元向けの弁当は、自社調理分に関しては、無添加で作っているので賞味期限が短いんです」と胸を張ります。小樽駅の「たるしぇ」でわずかに販売されている「幕ノ内弁当」(750円)も、そんなこだわりの駅弁の1つです。

【おしながき】
・白飯(北海道産米) ごま しぐれ昆布
・海老の天ぷら
・蒲鉾
・玉子焼き
・シュウマイ
・豚の角煮
・ゆでアスパラガス
・ポテトサラダ
・煮物(人参、椎茸、がんもどき)
・うぐいす豆

幕ノ内弁当

幕ノ内弁当

蒲鉾、玉子焼きなど、定番のおかずが入りながら、海老天と北海道らしくアスパラガスで、クロスさせた盛り付けが目を引く小樽駅構内立売商会の「幕ノ内弁当」。いまでは希少な3桁の価格帯も魅力的です。ちなみに小樽駅の売店と第一ビルの売店での販売の他、市内のスーパーなどへ納入しているのはもちろん、小樽へ多く訪れる修学旅行生やまちで頻繁に行われる映像作品のロケも、大切なお客様だといいます。

721系電車・快速「エアポート」、函館本線・小樽築港~朝里間

721系電車・快速「エアポート」、函館本線・小樽築港~朝里間

石狩湾に沿って小樽からの快速「エアポート」が新千歳空港を目指します。訪れた8月は青い空と海が広がっていましたが、これからは白波が打ちつける冬の海となっていきます。1つのヒット駅弁に恵まれるまでに5年以上の歳月をかけ、鉄道の旅と駅弁を深く愛した先代社長の教えを胸に、真摯に「駅弁」を作り続けている駅弁屋さんが小樽にはあります。そこで出逢える美味しい駅弁は、自分の足で旅に出た人だけのご褒美なのです。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

Page top