小樽駅ではなぜ、うにの駅弁を休み、穴子や肉の駅弁を販売するのか?
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「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
駅弁が売れる駅は、だいたい3つあると考えています。新幹線の停車駅、在来線特急の始発駅、そして温泉のある駅です。いずれにも当てはまらない駅で、いまも駅弁が販売されている場合は、大都市で人口に恵まれているか、あるいは駅弁屋さんが頑張っているかのどちらか。小樽は新千歳空港行・快速列車の始発駅ではありますが、特急は無し。それでも、地元密着の駅弁屋さんが、さまざまな工夫をしているようです。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第46弾・小樽駅構内立売商会編(第3回/全4回)
函館本線・長万部~小樽間の通称、山線の車窓の友といえば、何といっても羊蹄山です。羊蹄山は標高1898m、蝦夷富士と呼ばれて、日本百名山の1つにも数えられています。麓を走る函館本線の普通列車も、いまは最新のH100形気動車による運行となりました。小樽~倶知安(くっちゃん)間は毎時1本程度、倶知安以南、長万部(おしゃまんべ)へ直通する列車は、1日下り4本、上り5本となっています。
平成元(1989)年に、村上社長のお父様が受け継いだ「小樽駅構内立売商会」。当時は、建て増しに建て増しを繰り返した木造の社屋で、当初は、衛生的な駅弁の製造環境を作るところから始まったといいます。それでも従業員を1人も辞めさせることなく、パートの方のなかには、駅弁のレシピ、味付けの仕方を、大学ノートにびっしりと書き留めていた方もいらっしゃったそう。今回は、小樽駅弁の食材や味付けなど、こだわりを伺いました。
●美味しくなった北海道産のお米!
―小樽駅構内立売商会では、どんな米を使っていますか?
村上:北海道産のななつぼしです。以前は、ニセコエリアの蘭越産にこだわった時期もありましたが、米屋さんをやっている私の高校の同級生に、冷めても美味しいご飯を炊くために、米の配合をしてもらいました。以来、その配合した米を使っています。もちろん、その年の米の出来不出来によっては、事前に連絡をいただいて、道内で産地の変動はあります。でも、だいたい同じ地域のお米ですね。いまは、北海道の米がとても美味しくなりました。
―食材の地産地消には、どの程度こだわっていますか?
村上:いくらは北海道産を使っています。しかし、正直なところ、地産地消は難しいです。小樽ではシャコくらいしか獲れません。ホタテの稚貝はあっても、噴火湾へ行って育てられ、噴火湾産として出荷されます。カニも北海道産は、駅弁(の価格帯)としては無理です。ただ、道東で獲れる花咲ガニは、北海道内で入りやすいので、今後は花咲ガニの弁当を企画したいとは思っています。
●「うに」駅弁、価格高騰のウラ側とは?
―「海の輝き」も駅売りは休止を強いられていますが、「うに」は大変ですね?
村上:うにはチリからの輸入に頼っています。駅弁の安全上、うには蒸しうにが基本です。しかし、以前使っていた蒸しうには、仕入れることができなくなってしまいました。いまは、日本に入ってくるうにが、寿司屋さんの需要が多く、輸出元の手間が少なくて、利益率も高い「ブランチうに(半生のうに)」が基本になってしまったんです。これに加え、コロナ禍やチリの地震で加工場が倒壊するなどの被害が追い打ちをかけた格好です。
―「半生のうに」で調理すると、どうしてコストが高くなるのですか?
村上:弊社では蒸しうにを煮ることで味付けをしています。ただ、100gの蒸しうにを煮ても、それほど量は変わりません。でも、100gの半生うにを蒸して煮ると、4割くらい目減りして60gくらいの蒸しうにになってしまいます。それもちゃんと出来上がればいい方で、場合によっては、うにがドロドロに溶けてしまうこともあるんです。このため、うにを使った駅弁は、従来の量を確保するだけで、大幅にコストがかかるようになってしまったんです。
●駅売りでは、地元の方に愛される味を!
―調味料、調理方法のこだわりはありますか?
村上:北海道は「甘い味付け」が好まれる土地柄です。赤飯も甘納豆ですので。砂糖は、北海道のてんさい糖を使っています。やや、水分が多いのですが、決まったてんさい糖を使わないと、弊社の駅弁の味は出すことができません。例えば、「海の輝き」の玉子は、特別に甘めの味付けをして、なかから少し出汁がジュワッと出てくる厚焼き玉子に焼き上げ、食べやすい大きさにほぐしています。
―ここ数年、小樽駅の売店をのぞいていて、駅弁のご当地色が薄めになっているように感じるのですが?
村上:小樽駅の駅弁は、「かにめし」で1日10個前後売れればいい方です。お求めになるのは主に地元のお客様です。かにやうにの弁当では、目新しさを感じてもらえません。そこで、私たちが実演販売で各地へ行って味わってきた「天むす」「あなごめし」などさまざまな味を小樽の皆さんの味覚に合わせて提供しています。観光のお客様向けの弁当も作りたいですが、弊社を支えて下さっているのは、何といっても地元の方なんです。
「小樽の駅弁屋さんへ行くと、何か変わったものが置いてあるよね」と、地元の方に思ってもらえたらと話す小樽駅構内立売商会の村上社長。その意味では、同じ北海道でも十勝地方の名物を活かした「小樽豚丼」(1000円)も、変わりダネ駅弁の1つと言っていいかと思います。小樽駅構内立売商会オリジナルのたれを、北海道・空知産の豚肉に絡めて、焼き上げています。賞味期限は短めですが、自社調理分については、添加物・保存料なしで提供しています。
【おしながき】
・白飯(北海道産米)
・豚肉焼き ごま
・ポテトサラダ
・コーン
・紅生姜
小樽観光をする方は、寿司屋通りへ行ったり、三角市場などで海鮮料理をいただくことが多いもの。村上社長も「海鮮駅弁は催事ではブランド力は高いが、駅売りしては非常に厳しい」と話します。そのなかで魚介類の高騰もあり、地元の方のニーズに寄り添う形で、肉駅弁も手を抜くことなく、しっかり手作りしていることに好感をおぼえます。旅行者の方も、「小樽でなぜ肉?」と訝しく思わず、駅弁屋さんのご苦労を思い浮かべて欲しいものです。
羊蹄山をあとに、山線の臨時特急「ニセコ」号が、函館を目指します。北海道新幹線が新函館北斗から延伸された際は、途中、新八雲(仮)、長万部、倶知安、新小樽(仮)の各駅が作られ、札幌へとやってくる予定です。並行在来線となる函館本線の山線区間は廃線となるそうですが、現状、小樽寄りでは、朝夕中心に混雑する時間帯もあるようです。地域の方に有益で、新幹線と組み合わせた旅行者にもありがたい方策を望みたいものです。
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/