いまの岸田政権に「セキュリティ・クリアランス制度」と「能動的サイバー防御」についての法案を通すことは難しい 通常国会1月26日召集へ

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国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が12月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。2024年1月26日に召集となる通常国会について解説した。

2023年12月25日、挨拶する岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202312/25keidanren.html)

2023年12月25日、挨拶する岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202312/25keidanren.html)

政府・与党、通常国会1月26日召集へ

政府・与党は12月26日、2024年の通常国会を1月下旬に召集する方向で調整に入った。東京地検特捜部が自民党派閥の政治資金規正法違反事件を捜査しており、その行方を見極めるためにも、1月上旬や中旬は避けるべきだと判断。複数の政府・与党幹部によると、召集日は26日が軸だが、22日あるいは29日とする案も残っている。

飯田)現在、一連の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件は捜査中ですが、いろいろと影響が出てきました。通常国会は例年、1月に召集されますが、これが動くことになります。

「セキュリティ・クリアランス(適性評価)制度」と「能動的サイバー防御」についての法案審議はどうなるのか

神保)岸田政権はボロボロな状態で、通常国会や予算委員会も難航が予想されます。ただ、私も重視している「重要法案の審議があるのではないか」と言われています。その1つが「セキュリティ・クリアランス(適性評価)制度」です。もう1つは、積み残された課題としての「能動的サイバー防御」です。

飯田)能動的サイバー防御の導入について。

神保)この2つを通常国会で扱ってもらえると、この問題の流れは来年(2024年)よくなると思います。両方とも個人のプライバシーに関わるもので、国民のセンシティビティが高い領域なので、「これを議論できるのか」ということと、与党がボロボロの状態だと、公明党との協力がスムーズに進まないのではないでしょうか。

飯田)公明党との協力が。

神保)防衛装備移転の問題でも、公明党は粘っていますよね。「そう簡単に自民党には同調しないぞ」という感じがあります。セキュリティ・クリアランスと能動的サイバー防御も、同じような展開になるのではないかと思います。

ハト派層の票を得るためにも、自民党にベタ折れできない状況の公明党

飯田)防衛装備移転で公明党が粘っているのは、特に多国間での共同開発です。イタリア・イギリスと戦闘機の共同開発を行おうとしていますが、その戦闘機を第三国に売る場合、どうするのかという話があります。

神保)そもそも公明党はハト派で、平和の党としてのアイデンティティがあります。しかし、「安全保障関連法案への協力を通じて、そのアイデンティティが変わってきている」という自覚があるのでしょう。「いつまでもタカ派の案件に引きずられてなるものか」という気概を持った方もいるはずです。しかも与党が弱っているので、どこまで譲歩する必要があるのか。当然、次の選挙を見据えてハト派層の票を得るためには、自民党にベタ折れするのも厳しい状況です。それらすべてが法案審議にかなり影響を及ぼすと思います。

セキュリティ・クリアランス制度が必要だということは、みんなわかっている

飯田)セキュリティ・クリアランス制度は情報を扱う際、適格性を事前に審査してステータスを付与するものです。この必要性は以前から言われていました。

神保)政府と企業の秘密保護に関する厳格な制度をつくり、しかもそれに携わる人の資格要件を認定する制度があるわけです。それによって秘密度の高い情報の共有レベルが上がるので、産業間もしくは国際的な産業協力が飛躍的に進むのではないかと言われている。特にこの制度が国際的に通用するものになれば、「産業保全協定(ISA)」内に入り、国際的な政府調達、防衛産業、軍事産業に関して、日本企業がスタートラインに立つことができるのです。

飯田)日本の企業が。

神保)現在はそれがないので、スタートラインに立つまでにいろいろな制度要件をクリアするため、別の手続きをしなければならない。それが終わったころには、他の国が動いてしまいます。しっかりと競争要件を整えるためにも、セキュリティ・クリアランス制度が大事だということは、みんなわかっているのです。

飯田)そこはわかっている。

神保)例えば、「資格要件をどう審査するのか」という問題があります。家族を遡って「この人は安全です」というような制度は、日本のなかでは特殊な公務員以外なかったので、それを民間企業に対しても行う。あるいは企業のなかでセキュリティ・クリアランス要件を得た人、得ていない人を分け、「すみません。飲み会であっても私はこんなことは言えません」という状況が一般的になるようにする。それが企業文化として、社会のなかで「普通だ」ととらえられるようになるためには、やはり時間が必要だと思います。

与野党対立法案になりそうな「セキュリティ・クリアランス制度」と「能動的サイバー防御」

飯田)プライバシーに相当踏み込むので、与野党対立法案になりがちですよね。

神保)それは能動的サイバー防御にも言えることです。仮にいろいろな形で通信の秘匿に関する問題に踏み込んでいくと、憲法21条の「通信の秘密」に関わる。そのため、「電気通信事業法」や「不正アクセス禁止法」の改正などからスタートすると思いますが、平常時から怪しい人たちのトラックをしっかりと監視することで、安全を高める必要があります。一方、めぐりめぐってプライバシー侵害のような案件につながった場合はどうするのか。その辺りが問題だと思います。

政治的ポイントを減らす覚悟がなければ通せない法律 ~減らすポイントがない岸田政権がこの法案に踏み込めるのか

飯田)この手の与野党対立法案は、政治的なコストが掛かりますよね?

神保)安倍政権時における特定秘密保護法も、同じような性質を持った法律でした。当時も大きく支持率を減らす、「政治的ポイントを減少させる覚悟を持ってやらなければいけない」という法律だったと思います。ところが、いまの岸田政権は「減らすポイント」さえない状況なので、本当にこういう法案に踏み込めるのかという問題はあると思います。

飯田)他方、外務大臣の期間が長かった岸田総理からすると、法案の必要性を痛いほどわかっているところはあるでしょうね。

神保)総理・官房長官の両方とも外務大臣経験が長いですよね。

飯田)林芳正官房長官もそうですね。

神保)この2人の外政案件に対する感度は、相当高いと思います。

「マイナス圏内」に入る覚悟で法案を通す方向にいけるのか

神保)内政を見ると、政治的な資産としてのポイント数が足りなくなっている。これは大きいですよね。

飯田)腹をくくって突入できるのか。

神保)冗談めかして言うと、「マイナス圏内にいよいよ突入か」というような気概を持ってやらないと、なかなか扱えない法案だと思います。

飯田)来年の通常国会までにどうなっているのか……。総理周辺などでは、「経済はよくなっていくだろうから、少しは回復するだろう」という話も聞きますが。

神保)でも、永田町の見通しはズレていることが多いですよね。今回、安倍派が次々に閣僚を辞任し、「それによって国民の支持が回復する」という見通しを述べる方もいましたが、普通に考えれば、あり得ない話だと思うのです。そういう見通しの甘さと妙な楽観主義が、支持率のわりには危機感が薄い状況につながっているような気がします。

各国、G20を盛り上げるモードにはならない

飯田)外交にも既に影響が出ていて、来月(2024年1月)に予定されていた南米歴訪が見送りになるという話が出ています。

神保)外交日程にも影響が出そうだし、特に南米は移動に時間が掛かります。「それほど長期間、国内を空ける余裕はない」と判断したのかも知れません。

飯田)でも、G20の議長国はブラジルです。重要な国が多いですよね。

神保)内政がどうしても重視されますし、2024年は各国で主要な選挙が行われますから、なかなかG20を盛り上げるモードにはならない気がします。

飯田)アメリカも大統領選を控えています。

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