国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が12月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。台湾総統選について解説した。
台湾総統選、2回目の政見発表
2024年1月13日に投開票日が迫る台湾総統選をめぐり、与野党3候補によるテレビ政見発表会が26日に行われた。総統選の動向を左右し得る若い世代の票の取り込みを目指し、3候補は教育や子育て支援の充実、治安の維持、エネルギー問題などを訴えた。
飯田)民主進歩党の頼清徳氏、野党第2党・民衆党の柯文哲氏、国民党の侯友宜氏、この3人がそれぞれ訴えました。大接戦のようです。
神保)来年(2024年)以降の東アジアの安全保障情勢を決める、最も重要な選挙の1つが、いよいよ投票まで3週間を切ったわけです。3候補三つ巴の状況で、予想が難しい展開になってきました。
侯友宜氏の支持率が上がり、三つ巴の状況に
神保)11月に野党候補を一本化する動きがありました。国民党の侯友宜さんと、民衆党の柯文哲さん。これを一本化すれば、「頼清徳さんは相当追い込まれるだろうな」と見ていましたが、結局どちらが上に立つかがまとまらず、物別れに終わってしまった。しかし、「これで頼清徳さんの勝利は固いだろう」と11月に思っていたところ、ここへ来て野党、特に侯友宜さんの支持率が上がる傾向にあり、面白いですね。世論調査にフェイクが入っているのではないかなど、いろいろ言われています。
飯田)摘発もあったようですね。
「一本化できなかった」という政治ドラマによって、野党が注目された
神保)何を信じていいのかという問題もありますが、いろいろな会社の平均値を取ると、侯友宜さんの支持率が上っているのは事実のようです。台湾の人々は、11月の「一本化できなかった」という政治ドラマを楽しんだのではないでしょうか。つまり、野党が注目されたわけです。これまで十分に光が当たってこなかった野党の中身と人となりがわかり、それによって支持が集まったのではないかという説もあります。
飯田)なるほど。
神保)いまのところ、そう簡単に頼さんが圧勝できるわけではなさそうなので、まだわからない状態ですね。
前回の教訓から総統選に反発して脅すようなことはしない中国
飯田)各新聞が特集記事を組んでいますが、今回は以前のように、中国からの目立った工作や脅しのようなものはないそうです。
神保)中国が総統選に反発して演習したり、脅したりすると、むしろ中国が最も望まない民進党の候補者の追い風をつくってしまうかも知れない。それを学んだのだと思います。今年(2023年)に入ってから、全人代でもそうですし、習近平氏の演説もそうですが、台湾に関する原則論は言うものの、必要以上に脅してはいません。北風と太陽で言うならば、生ぬるい北風です。
飯田)太陽とまではいかないのですね。
神保)台湾のなかで「もしかすると中国は大丈夫なのではないか。両岸関係の対話も可能なのではないか」と匂わせ、選挙に影響を与えようとしているのだと思います。どこまで成功しているかは未知数ですが、少なくとも「頼清徳さんが台湾の人々の支持を一方的に獲得する」という状況ではない。それが大きなポイントだと思います。
現状維持を、「アメリカとの関係と防衛の強化」によって保つのか、「中国との安定的な関係」によって保つのか
飯田)蔡英文氏の2期目が決まった前回の総統選では、目の前で香港の民主化デモが潰されていく過程があった。当時とは違うわけですね。
神保)国民党の総統だった馬英九さんがいたときは、台湾に言わせれば、いわゆる「1992年コンセンサス」があったのです。「一つの中国」という原則はあるけれど、そこには2つの解釈、つまり台湾独自の解釈がある。しかし、「一つの中国」を基盤に両岸関係を進めようという流れがあり、両岸の対話が始まったわけです。
飯田)そのときは。
神保)その先にある姿が中国の言う「一国二制度」だとすると、「香港で全然うまくいっていない」というところが、台湾の失望を招いたわけです。当然、国民党にとってはマイナスだし、民進党にとっては「仕方がない。香港のようにはなりたくない」という部分があった。ただ、ここへ来て「そこまでいかなくても、より平和的な両岸の対話があってもいいのではないか」と思う層も台湾にいることがわかった。台湾の人々が求める現状維持に関して、「アメリカとの関係と防衛の強化によって保つのか、それとも中国との安定的な関係によって保つのか」という考え方が台湾のなかにあるかも知れない。それが今回の選挙で明らかになると思います。
飯田)それによって、情勢そのものがどう変わっていくのか。加えてアメリカ大統領選も絡んできます。
神保)まず頼清徳さんが勝利した場合、やはり中国は台湾への厳しい姿勢を確実なものにすると思います。両岸関係の緊張は避けられない。だからと言って、侯友宜さんが勝つことで直ちに平和的な発展があるとも言い難い。それほど台湾社会はこのアイデンティティを深めていると思います。
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