双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦が3月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日本製鉄のUSスチール買収に否定的な考えを表明したバイデン大統領について解説した。
アメリカのバイデン大統領が日本製鉄のUSスチール買収に否定的な考えを表明
日本製鉄による米大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収計画をめぐり、バイデン大統領は「国内で所有・運営されるアメリカの鉄鋼企業であり続けることが不可欠だ」とする声明を発表した。日本製鉄は2023年12月、USスチールを買収することで両者の間で合意したと発表していたが、バイデン大統領の声明は買収に否定的な考えを示したことになる。
日本製鉄による買収がなくなれば先がないUSスチール
飯田)そもそもトランプさんは批判していました。
吉崎)完全に政争の具になってしまいましたね。もともとは去年(2023年)の夏にUSスチールが経営に行き詰まり、「身売りも含めて検討する」と株主に言ってしまっているのです。それに対して、日本製鉄が手を上げた。買収の話がなくなれば、日本製鉄は「仕方ない、他を探そう」となるのですが、USスチールは先がないのですよ。向こうの労働組合は日本のような企業内組合ではなく、全鉄鋼労働者の組合ですから、そこを優先するのです。でも、会社は困りますよね。
買収を妨げると「フレンド・ショアリングはどうなるのか」
吉崎)この件に関して、アメリカで出ている記事をかなり読みましたが、そのなかに「フレンド・ショアリングはどうなるのか」という記事がありました。フレンド・ショアリングとは「経済安全保障のために、なるべくサプライチェーンは友好国と一緒にしよう」というものです。友好国として真っ先に名前が挙がるのは日本であり、「日本なら騙したりしないだろう」となるのですが、「その相手にこれを言っていいのか。日本を怒らせるかも知れないぞ」という内容でした。アメリカ国内でも、そういう受け止め方をしている人はいるのです。
飯田)冷静に受け止めている人もいる。
「結婚相手は親が決めた人と」と言っているのと同じで、入口から間違っているフレンド・ショアリング
吉崎)しかし、私はアメリカのフレンド・ショアリングは嫌だなと思っています。「友達かどうかを決めるのは我々だ」という、いかにもアメリカらしい態度がけしからんと思うのです。商売とは本来そういうものではなく、たまたま気の合う人がいて、「一緒に何かやってみよう」となるものではないですか。
飯田)お互いに儲けられるかも知れないから。
吉崎)しかし、アメリカの言うフレンド・ショアリングは「結婚相手は親が決めた人と」と言っているのと同じような話で、そもそも入口から間違っています。よくアメリカの民主党系は、このような頭でっかちなことを言いますが、商売したことのない人たちが考えるからそうなるのでしょう。日米にとって不幸なパターンですね。
中国やインドに対抗するためにも規模を広げたい日本製鉄 ~金を掛けずに技術を手に入れられるUSスチール
飯田)習志野市の“オイドン”さん(61歳・会社員)からメールをいただきました。「買収できたら日本製鉄にメリットはあるのでしょうか? 記憶に新しいのが、東芝の米原発会社(ウエスチングハウス)買収による巨額損失の件です」といただきました。
吉崎)東芝の件は原子力ですが、今回は鉄鋼ですからね。粗鋼生産量で言うと日本製鉄は世界第4位で、USスチールは世界27位なのです。鉄は完全な装置産業なので、日本製鉄としては、これから中国やインドの会社に対抗するためにも規模を広げたい。それが1点目です。2点目に、世界でいちばん高品質な鉄を買ってくれるのはアメリカなのです。であればアメリカに確たる足場をつくっておきたい。例えばEV向けの自動車鋼板ですが、EVはエンジンが重いので鉄板を極力軽くしなければいけない。そんなものをつくれるのは日本製鉄ぐらいしかいません。
飯田)軽くて強いものをつくれるのは。
吉崎)日本製鉄としては、自分にできてUSスチールに絶対できないものを彼らにつくらせたら、確実に儲かるわけではないですか。だから極めてリーズナブルな作戦だと思います。
飯田)彼ら(USスチール)としても、お金を掛けずに技術開発できる部分もあるのですか?
吉崎)買収されてしまえば、それが手に入るわけです。
「もしトラ」リスクの典型
飯田)企業買収に関しても、大統領選挙が濃厚に絡んでくる。
吉崎)「もしトラ」リスクの典型ですよね。しかもUSスチール本社があるペンシルベニアは、激戦州の1つですから。バイデンさんにしてみると、ここを1つでも獲られたら大変なので、背に腹は代えられない状況です。
飯田)なりふり構っていられない。
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