日銀の「マイナス金利解除」はあくまでも金融を「正常化」するため

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テレビ東京・解説委員の山川龍雄が3月22日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日銀が決定したマイナス金利政策の解除について解説した。

参院財政金融委員会で答弁する植田和男日銀総裁=2024年3月21日午前、国会(春名中撮影) 写真提供:産経新聞社

参院財政金融委員会で答弁する植田和男日銀総裁=2024年3月21日午前、国会(春名中撮影) 写真提供:産経新聞社

日銀、マイナス金利解除

飯田)日銀のマイナス金利政策の解除について、どうご覧になりますか?

山川)日銀の植田総裁は、前任の黒田総裁が行った「異次元」と呼ばれる金融緩和について、少し強い言葉で言うと「異常だ」と思っていたのではないでしょうか。それを正常化するための第一歩を踏み出したのだと思います。

YCC、ETF、REITなど、既にやっていないものを「やりません」と言ったに過ぎない

山川)皆さん今回のことを「利上げが始まった」、あるいは「金融引き締めが始まった」などの見方をするのですが、あくまでも正常化するためなのです。しかも実態として、日銀がやっていなかったものを「やりません」と言ったに過ぎない。「マイナス金利だ」と大騒ぎしていますが、現在マイナス金利を負担している金融機関は、地銀の一部だけだったのです。メガバンクも関係なかった。

飯田)そうなのですか?

山川)それを今回は解除する。それから、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)も日銀はやっていませんでした。上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)に関しても、REITは2年前ぐらいからやっていませんし、ETFの買い入れもほとんど行っていなかった。つまり、今回は既にやっていなかったこと、ほとんど実体がないものを「もうやりません」と言ったに過ぎないのです。

春闘の結果を見て「やめます」と言ったのが今回の実態

飯田)現状追認のようなものですか?

山川)おっしゃる通りです。おそらく植田総裁が今回「やめる」と言ったものに関しては、ほとんど金融緩和の効き目はなく、どちらかと言うと副作用の方が大きいと思っていて、どこかのタイミングでやめなくてはいけないと考えていたのではないでしょうか。だからジワジワと実体のないものにしていき、「ここだ」とタイミングを見計らって発表した。今回の春闘では5%超という大幅な賃上げ率が示されましたが、このタイミングを見計らって、いままでやめてきたものを全部揃えて「やめる」と言ったのです。これが今回の実態ではないかと思います。

2%程度のインフレにはそこまで自信は持っていない植田総裁

飯田)解除は3月か4月と言われていましたが、「早ければ早い方がいい」になったのですか?

山川)ギリギリまで悩んだと思いますが、やはり最後に背中を押したのは春闘の結果だと思います。市場は「3.8%ぐらいの賃上げ率になる」という予想でした。しかし、第1回集計で5%を遥かに超えましたので、「このタイミングを逃すべきではない」と思ったのでしょう。一方、会見では賃上げを伴った好循環、2%程度のインフレと言っていますが、これに対して植田総裁も含め、本当に日銀メンバーも確信を持っていたかと言うと、そこまでの自信は持っていないと思います。

賃上げが中小企業にまで浸透するかどうか

飯田)賃上げに関しては、大企業中心に5%超の数字が出ましたが、「中小企業はどうか」というところですか?

山川)それは1つあります。従業員100人未満の中小企業で、労働組合に入っている人の比率は1%に満たないのです。100人に1人もいないのですから、中小企業で働く人からすると、春闘で「5%超の賃上げ」と言われてもほとんど関係ありません。非正規雇用も4割ぐらいいるので、そういう人たちにまで浸透するかどうか。

実質賃金がプラスに転じるなど、日銀が重視するデータが揃った時点で利上げに

山川)一方で、いまは実質賃金、いわゆる物価を勘案した賃金上昇はマイナスが続いていますから、年後半のどこかでプラスになるかなど、いくつか日銀が重視しているデータがあります。それが全部揃って「いい」という状態になると、いまは正常化ですが、そこから「利上げ」に持っていくことも考えるのではないでしょうか。

飯田)利上げに持っていく。

山川)また、意外にマーケットは安心してしまっていますが、いまは国債を大量に保有している状況で、どんどん積み上がっています。日銀の内部では利上げよりも、累積の国債保有額を減らす……いわゆる「量的緩和」から「量的引き締め」の議論が始まっています。今後のデータ次第ですが、日銀がそこをどうハンドリングするかも今後の注目点だと思います。

今後、日銀の国債保有額を減らすことが大きなテーマになる可能性も

飯田)今回、政策決定会合後に出た資料によると、いまは月6兆円ぐらいを買っており、当面は維持するという話でした。しかし、今度は売りどきを探すことになるのですか?

山川)おっしゃる通りです。いまはマーケットを落ち着かせたいので、月6兆円ぐらいを買っていき、いわゆる国債保有額を維持する。場合によっては金利が急上昇したとき、「国債をさらに買う」とも言った。あくまでも「そういう行動を取る。金融緩和が続く」というメッセージですが、日銀側はおそらく「そういう急激な金利上昇はもう起きない」と思っているのです。

飯田)急激な金利上昇はもう起きない。

山川)どちらかと言うと植田総裁は、全体的な国債発行額の半分以上を日銀が保有している状況は異常であって、副作用の方が大きいと思っているはずです。この先の物価や雇用、景気次第ですけれど、どこかのタイミングで保有額を減らすことが年後半の大きなテーマになる可能性があります。

国債を減らすことが与えるマーケットの影響は大きい

飯田)国債を売るとなると当然、国債の価格が下がり、金利が上がることになる。相場的には円高に振れる形になりますか?

山川)それもありますし、今回のマイナス金利の解除と比べると、マーケットとしてはインパクトが少し大きいです。「大量に保有する国債をどのタイミングで減らすか」は世界的なテーマになっており、マーケットに与える影響は大きいと思います。

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