第二次石破内閣発足……「新しい民主主義」は根付くのか?
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第392回)
衆議院選挙から半月あまり。第二次石破内閣が発足しました。4日間の特別国会を経て、今月下旬には臨時国会も召集される見通しで、年末に向けて政界は慌ただしい動きが続きそうです。
11月11日、特別国会の首班指名では1回目の投票で過半数に達する者がおらず、30年ぶりの決選投票となりました。結果は石破茂氏221票、野田佳彦氏160票。野党の多くは2回目も自党の党首に投票し、無効票は84を数えました。
さらに衆議院で17ある常任委員長のポストは、これまでの「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と野党側が大幅に増やしました。中でも論戦の主戦場となる予算委員会の委員長には立憲民主党の安住淳前国会対策委員長が就任し、野党躍進の象徴となりました。
少数与党の国会ではこれまでとは違った景色が見えてきています。衆議院選挙後、いわば「与野党の枠を超えた」協議が相次いで行われました。特別国会召集の日、自民党総裁の石破茂首相は国民民主党、立憲民主党のトップと相次いで会談しました。
立憲民主党の野田佳彦代表は「丁寧な議論をして熟議、公開の場で合意点を見致していく」と強調。国民民主党の玉木雄一郎代表は「いまこそ手取りを増やすべき」として、103万円を超えると所得税が発生する「103万円の壁」の見直しへの協力を求めました。これに対し、石破首相は「野党の意見を誠実に謙虚に承りながら、国民に見える形であらゆることを決定していきたい」と応じました。
どの党も過半数に達しない状態は「ハング・パーラメント(宙づり国会)」と言われます。ひとたびこじれれば、内閣不信任決議案が提出されうる緊張感の中、物事を前に進めるため、新たな合意形成の方法を模索することになります。こうした状況を各党はどのように考えているでしょうか。
「新しい時代に入った」と表現するのは立憲の野田代表です。11月5日、国民民主党との党首会談を終えて、「政党間の協議が活発になってきた、なるべくみんなの前で“見える化”して、どんな話し合いが行われたかを丁寧に公開していくのが大事、何度でも意見交換して一致点を見出していく熟議が大事。熟議と公開の時代に入ってきた」と述べました。
「公明党の役割はいよいよ大きくなった」と胸を張るのは公明党の斎藤鉄夫代表。かつての民主党政権で社会保障と税の一体改革をめぐり、自民・公明両党との「三党合意」にこぎつけた“実績”を挙げ、「これまでもいろいろな形で与野党合意を作り上げてきた。そういう丁寧な議論による合意形成はある意味、公明党の真骨頂でもある」と強調しました。衆院選で公明党は石井啓一代表(当時)が落選するなど、伸び悩みましたが、選挙後の各党協議を見ていると、これまでの自公連立の「しがらみ」から幾分解放されたような雰囲気も感じます。
一方、石破首相は特別国会後の深夜開かれた記者会見でこのように述べました。「ある意味でこういう状況は、民主主義にとって望ましいことかもしれない。与党が過半数を割ったことが望ましいということではなくて、より議論が精緻になるということ」。その上で、「丁寧にやりながら、なおかつ迅速に結論が出るという二律背反を満足させるためには、かなりの工夫が必要だ」と、厳しい現状認識を示しました。
そして、国民民主党の玉木代表は「この新しい状況をまだ正確に表現する言葉を政治的に見つけ出していないと思う。経験したことがない新しい状況だ」と分析します。その上で「与党は野党でいい意見があったら取り入れる“寛容と忍耐”、野党は“責任と提案”。国益にかなう国会を作り上げていこうという意識が両者に新たに課せられた義務として生まれてきている」と、与野党それぞれの責任の重さを強調していました。
海外でもハング・パーラメントのケースはあり、多くの場合、多数派を形成して連立政権を組みます。しかし、時として不安定な政治状況になることがあり、最近でもドイツで連立政権の枠組みが崩壊、12月にショルツ首相に対する信任投票が実施されることになりました。日本でも31年前にこの状況になり、非自民・非共産8会派が集まり過半数となった細川護熙内閣が誕生しました。しかし、8カ月あまりで退陣。それ以降は一時期を除いて枠組みを変えながらの連立政権が続いています。
年末にかけて、政治改革、経済対策をめぐる議論が続いていくでしょう。現在の少数与党の政権で、どのようにして合意形成をしていくのか、政権が早くに瓦解するのか、新たな連立の枠組みができるのか……「新しい民主主義」とでも申しましょうか、それはある種の「実験」でもあり、ことによると学術的な研究テーマになる可能性もあります。これまで与党の数の力で決まっていた枠組みが変わることで、党首会談、幹事長会談に国対委員長会談、政調会長会談など、各党個別の協議の場が各段に増えていくことでしょう。よく「政治は結果」と言いますが、今回ばかりは合意形成のプロセスも重要です。その分、メディアの負荷も大きくなりますが、合意形成の行方を「歴史の証言者」として、真摯に見つめていくことが求められます。
経験したことがない新しい状況……玉木代表の発言は11月12日の定例記者会見のものででした。前日には、玉木氏の不倫問題が発覚し、本人が謝罪会見を行いました。定例会見はその翌日に開かれましたが、ある記者が(記者名を明かすことは、小欄にとって何の意味もないのであえて伏せます)不倫問題も含め、1人で約20分もの質疑を続けました。
その後、各社が挙手をして司会者から指名され、質問のマイクが回るようになりました。私にもマイクが回ってきましたが、そこへ前出の記者がマイクなしで割り込み、再び質問を繰り出してきました。私は1問だけやり取りが終わるのを待ちましたが、記者がさらに質問を続けようとしたため、お預かりしたマイクで“質問権”を行使した次第です。その際、私はうっかりして名前を名乗るのを忘れてしまいました。
そんな“裏話(事実のみ)”を付け加えておきます。
(了)