犬にも増えていると言われる、ガン。
多額の費用をかけて手術や苦しい抗がん剤治療をしても、完治する保証はありません。
もし愛犬がガンと診断されたら、あなたはどうしますか…?
今回は実際にガンのひとつ・骨肉腫と闘った犬と飼い主の奇跡の物語をお届けします。
■「心の準備をしてください」。苦悩の日々は突然始まった
都内で暮らす山田武生さんの愛犬は、イタリアングレーハウンドの「ぱう」。
穏やかな性格、整った優しい顔だちのぱうは、山田さん自慢の愛犬です。
ぱうは体も強く、生まれてから9年間、病気やケガとも無縁。
毎日、山田さん夫妻の愛情にたっぷり包まれて、幸せな日々を送っていました。
そんな山田家の生活が一変したのは、平成25年7月初旬のこと。
突然、ぱうの右頬が大きく腫れ始めたのです。
数日前に歯茎から少し出血があったので、歯周病かな?と思っていました。
という山田さんは、歯科医にぱうを連れて行きました。
歯科医の診断は予想通り「歯周病」。
抗生物質を処方されて呑み始めたものの、ぱうの頬の腫れはまったく引きません。
胸騒ぎがした山田さんは、「歯の病気ではないのかも?」と思い、かかりつけの獣医に診てもらうことに。
ぱうの口内を診た獣医師が発した言葉は、思いがけないものでした。
悪性腫瘍の可能性があります。これから病理検査をしますが、万が一のことを考え、心の準備をしてください。
そして数日後の7月19日、山田さんに告げられたぱうの病名は、なんとガンの中でも特に悪性で致死率が高いとされる「骨肉腫」。
初期ではあるものの発症したら転移してることが多い病気のため
事実上の死の宣告ともいえる診断結果に、一瞬、目の前が真っ暗になりました。
この日から、山田さん一家の長い闘いの日々が始まったのです。
■治療しなければ余命数ヶ月。手術しても右目摘出!?飼い主の選択は…?
骨肉腫の診断に戸惑いながらも、山田さん夫妻が決めた治療方針は次の3つ。
・治る可能性があるなら、できる限りの治療をする
・治る可能性がないなら、ぱうが苦しむ期間が長くなる延命治療はしない
・最後までぱうの大好きな「食べる」「走る」「寝る」をさせてあげよう
そしてかかりつけ医から紹介された日本小動物がんセンター(所沢市)で、再度精密検査を受けることに。
検査は丸一日を要し、費用が13万円もかかる大がかりなものでした。
もしも転移がみつかれば、積極的治療はできないため余命は数ヶ月との宣告を受けました。
しかも、手術ができたとしても右目摘出は免れないかもしれないと告げられ、絶望的な気持ちで検査結果を待ちました。
検査の結果、幸い転移はなく、積極的な治療が受けられることを決定。
さらに上手くいけば右目摘出は免れそうだと聞いて、ほっと安堵したのも束の間、山田さんはまたもや重要な決断を迫られることになりました。
治療法として「手術プラン」を選ぶか、それとも「放射線治療プラン」を選ぶのかの選択です。
どちらのプランにもメリットとデメリットがあり、一長一短。しかも手術は50万円、放射線治療は70万円といずれも多額の費用がかかります。
しかもどちらを選んだとしても完治の可能性は未知数。
どうすべきか夫婦で悩んだ末、手術プランを選択。
確実にガン細胞を切除できること、そして骨肉腫の激痛からぱうを解放してあげられることが決断の決め手でした。
7時間にも及ぶ大手術を受けることが決まったぱうは何も知らず、いつもどおりキラキラと輝く目で山田さん夫妻を見つめていました。
■術後2年が経過、ぱうの今は…?
そして平成25年8月4日午前9時、いよいよぱうの手術が始まりました。
途中、手術室から検査時よりも腫瘍が大きくなっているため、切除部位を大きくしなくてはならないこと。
眼球摘出の可能性も出てきたことを伝えられました。
ぱうのあのきれいな瞳が1つ失われてしまうことを考えるとやりきれない思いでしたが、ぱうの命が助かるのなら仕方がありません。
運を天に任せ、ひたすら祈り続けました。
そして7時間後、長い長い手術は終わりました。
すぐにでも面会したい山田さんでしたが、術後のぱうを興奮させないために、遠くからそっと覗くことしか許されません。
それでも、ぱうが生きていること、そして右目摘出が免れたことが嬉しくてたまりませんでした。
面会が許されたのは、翌5日。
病院に到着した山田さん夫妻の目に飛び込んできたのは、意外にも元気そうなぱうの姿!
ただ、エリザベスカラーの中に納まった顔は腫瘍切除のために右頬が大きくえぐり取られ、目の周辺は痛々しくはれあがっていました。
でも目の輝きは、いつものぱうのまま。『オレ、がんばったよ!』と誇らしげな顔をしていました。
手術は無事成功。
でも、ぱうの病気は完治したわけではありません。
毎日の抗がん剤投与に毎月1度の検査、徹底的にたんぱく質を除いた食事など、山田さん夫妻とぱうは懸命に病と闘い続けました。
そして犬のガン治療において一区切りとされている術後1年が経ち、さらに2年が経った今も、ぱうのガンは再発・転移をしていません。
以前のように元気に走り回り、食欲も旺盛。毛艶も良く、瞳もきらきらと輝いています。
ぱうと今も一緒に暮らせていることに、心から感謝しています。
でも、同時に『本当にこれでよかったのか?』ってずっと思い続けているんですよ。
できることなら、ぱうに聞いてみたい。
手術をすべきだったのか?
2年間の抗がん剤は本当に必要だったのか?
そもそも寿命は自然に任せて、あのまま人生ならぬ犬生をのんびり楽しんでいたかったのか?
って。
残念ながら、その答えをぱうの口から聞くことはできません。
いずれにせよ、犬の一生は人よりも短いので、ぱうはおそらく僕たちよりも早く死に近づいていくはず。
そのときも僕らは再び、延命か否かの決断をしなくてはいけないと思います。
どちらを選んでも苦しくて悲しい決断になりますが、人間のエゴで愛する犬を苦しめることだけはしないようにしなくては…と肝に銘じています。