シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」(vol.1「祇園」編)~伊東駅「いなり寿し」(600円) 【ライター望月の駅弁膝栗毛】

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全国の駅弁をほぼ毎日アップし続けている「ライター望月の駅弁膝栗毛」。

これから不定期ですが、望月が駅弁屋さんの厨房を訪問、駅弁作りの現場に迫っていきたいと思います。
題して、シリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」。
果たして1つの「駅弁」が出来るまでに、どんな物語があるのか?
第1弾はこの週末、女子ゴルフの「フジサンケイレディスクラシック」が開催されている静岡県伊東市へ!
JR伊東線・伊東駅の駅弁を手がける「祇園」さんを訪ねます。

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東海道本線・熱海駅に入ってきたのは、東京駅・朝9時ちょうど発の特急「踊り子105号」。
「踊り子105号」は熱海で前10両の伊豆急下田行と、後5両の修善寺行に分かれます。
グリーンのストライプが印象的な185系電車は、1981年デビューなので今年で丸35年。
日中は「踊り子」、朝夕は主に「湘南ライナー」として、東海道本線を中心に活躍を続けています。
昔ながらの大きなモーターの音と、特急車両なのに「窓が空く」のが、何とも言えない魅力です。

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熱海駅から伊豆急下田行の「踊り子」号に乗り込んで20分あまり。
「踊り子」号はJR伊東線と伊豆急行線の境界駅・伊東駅の1番線に到着。
その1番線にお店を構えるのが、伊東の駅弁を手がける「祇園」です。
ちなみに、乗務員の交代後に流れ出す伊東駅の発車メロディは、童謡「みかんの花咲く丘」。
1946年、伊東で行われたラジオの生中継用に東海道線の列車の中で作られた歌なんだそう。
(参考:日本コロムビアHP)

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同じ1946年、実は伊東でもう一つの名物が生まれていました。
それが「祇園」の「いなり寿し」
当時はまだ、決して食料が豊富だったとは言えない時代。
伊東温泉を訪れた人のお腹を満たしてくれたのが、甘い油揚げに白米の寿し飯が詰まった「いなり寿し」でした。
それはきっと、忘れられない旅の思い出になったことは想像に難くありません。

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今年で誕生70年、今も伊東で愛され続けている「祇園」の「いなり寿し」。
この「いなり寿し」は、一体どのように作られているのか?
今回は特別に「祇園」の本店にある厨房に入らせていただきました。
先立ってまずは、望月も「白衣」を着用。
衛生に細心の注意を払ってお邪魔します。

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伺ったのは、駅弁の売店が最も繁忙時間帯となる昼前。
でも、厨房のほうは、駅弁を作っている方も少なめ・・・。
実はお昼向けの駅弁の調製は、午前中早い時間帯が中心なんだそう。
昼前に作っているのは、需要少なめな午後のニーズに応えるものなんですね。
恐らく早朝~朝はピリッとした空気が張り詰めていることでしょう。

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まずは、肝心な「米」の貯蔵庫から。
「祇園」では「いなり寿し」のほか「とりめし」「幕の内弁当」をはじめ数々の駅弁が作られています。
もちろん100%「国産米」で、コシヒカリをベースとしたものだそうです。

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お隣では、といだ白米が水に浸されていました。
実はコレ、翌朝に炊く米の仕込みなんだそう・・・。
昼前の駅弁屋さんでは、既に翌朝の準備が始まっていたのです。

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仕込まれた白米は「10」個あるガス釜で一斉に炊かれます。
早朝時間帯はほぼ毎日、この釜がフル稼働なんだそう。
10か所から湯気が立ち上り、米の匂いが立ち込める様子を想像するだけでも壮観です。
ちなみに、伊東市の水は通称「水道山」といわれる火山の湧き水が供給されています。
実は伊東、日本有数の水に恵まれた街でもあるんです。

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「いなり寿し」に使われる米は酢飯。
炊き上がった白米は、この機械で酢と混ぜ合わされて「酢飯」となります。
この酢の配合比率には「決まったもの」があるそうですが、知るのは担当者のみという「企業秘密」。
「祇園」秘伝の技がこの機械に隠れているのです。

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続いてやって来たのは、甘くて香ばしい匂いが立ち込めるもう1つの部屋。
白い湯気が湧いているのは・・・お揚げを煮詰めている鍋ではないですか!
醤油と砂糖でやや濃いめの味付けをしているといいます。
「祇園」の女将さん曰く「今回がメディア初公開!」とのこと。
とても貴重な瞬間に立ち会うことが出来ました。

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味付けされたお揚げは、しっかり冷ましてから使います。
実はこれも「明日の仕込み」なんです。
駅弁屋さんの時計は「18時間」くらい先に進んでいるといってもいいくらい。
ちなみに「祇園」のお揚げは富士山の麓・静岡県富士市にある、大正3年創業「丸喜食品」から仕入れたもの。
富士山の湧水に恵まれた富士市周辺は、最近「スイーツがんも」をはじめ、豆腐や油揚げ作りが注目のエリアですね。

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ああ!極甘の煮汁がお揚げに沁み込んでいく!!!
「祇園」の「いなり寿し」のジュワっと感は、ココから生まれるのか!?
実は「丸喜食品」の油揚げは、静岡県内の他の駅弁屋さんにも納入されているそう。
私はその駅弁屋さんのいなりずしもいただいたことはありますが、食感は「祇園」と全然違うんです。
「いなり寿し」ってホントに奥が深い!!

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こうして出来上がってきた「いなり寿し」が経木の折詰に・・・。
「祇園」の駅弁は、昔ながらの経木を使った折詰が多く使われているのも特徴。
1500年ともいわれる「折詰」の歴史を、キチンと守っている点にも胸がときめきます。
調製個数が少ない時は、掛け紙を手作業でセロハンテープ止めしていくことも・・・。
そんな「いなり寿し」を手にしたときは、ちょっとレアかも!?

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通常、調製個数が多い時には、機械で自動包装を行っていきます。
包装された「いなり寿し」がドォーッと流れてくる様子も壮観!
この時点で製造日時、賞味期限等のシールを貼りつけて「いなり寿し」の出来上がり。
ちなみに、この機械も、稼働し始めてから60年以上なんだとか。
弁当だけでなく、機械への愛情もスゴイ!

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出来上がってきた「いなり寿し」が店頭に並びました。
伊東市街地の中でも源泉が多いエリアにある「祇園」の本店。
昼どきとなれば、地元の皆さんが訪れて、次々と買い求めていきます。
温泉街の昼というのは、宿の方はチェックアウト~インの合間で清掃などに追われる時間。
一方で土産物店は、チェックアウトしたお客さんの接客に追われる時間。
だからこそ観光客だけでなく、地元の皆さんにも軽くつまめる「いなり寿し」が重宝されてきたといいます。
そんな様々なお客さんを、若女将が爽やかな笑顔と凛とした雰囲気で迎えます。

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「いなり寿し」を販売する際に、必ずお客さんに確認していることがあるといいます。
それは「普通のいなり寿し」か「海苔巻入りのいなり寿し」であるかということ。
包装にも大きく「海苔巻入り」とロゴが刷り込まれています。
実は接客1つにも「祇園」ならではのルーティンがあったのです。
ちなみに「海苔巻」は、祇園オリジナルの味付けによる「かんぴょう巻き」です。

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今回は改めて、ベーシックな「いなり寿し」(600円)をいただきます。
6個入り600円の「いなり寿し」が出来上がるまでには、仕込みから1日以上。
その間には、様々な「伝統の技」が注ぎ込まれていました。
70年以上売れ続ける商品、そして「駅弁」として売られる商品は「違う」んです。
こういった手間のかかったストーリーを踏まえると、掛け紙1つ外すにも愛おしい!

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昔からの伝統を受け継ぐレトロな掛け紙。
温泉地・伊東らしい「温泉マーク」が入っているのも旅情を誘います。
たっぷりの煮汁がしみ込んだ揚げであるが故に「いなり寿し」がラッピングされているのも特徴。
「駅弁」「土産」という要素を考えると「持ち運び」に主眼が置かれますよね。
185系「踊り子」の背面テーブルにも、ちょうどよく収まる大きさというのが有難い。

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ラップを外せば、ツヤツヤと輝く「いなり寿し」が目の前に・・・。
辺りには揚げの甘い匂いと酢飯のツンとした香りが入り混じります。
あの、なぜか欲しくなる、魅惑の「いなり寿しの匂い」。
伊東の温泉で海鮮いっぱいの宿ごはんを食べた帰りでも、コレならお腹にしっかり入ります。
いや、入れないともったいない!

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今となっては貴重な国鉄型電車が活躍する、伊豆への特急「踊り子」号。
この「踊り子」よりも長く、観光客に地元に愛されている駅弁が伊東にはあります。
次回、この「いなり寿し」をはじめとした伊東の駅弁がいかに生まれ、育まれてきたか探っていきます。

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
「ライター望月の駅弁膝栗毛」
(取材・文:望月崇史)

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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