それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』
けさは、ミルクスタンドのお話です。
JR秋葉原駅、その総武線のホームに、『ミルクショップ酪(らく)』があります。
「らく」は、酪農の「酪」と書きます。
昼下がり……、サラリーマン、おじさん、おばさん、学生さんが、次から次へと、牛乳を買って、その場で飲んでいます。
このミルクスタンドを経営しているのが、「大沢牛乳株式会社」。
会社は「電気街口」を出て「AKBカフェ」の隣の「ガンダムカフェ」、その横を入っていくと、高架下に、「大沢牛乳株式会社」が見えてきます。
支配人の稲村さんに、その歴史を伺いました。
秋葉原駅のホームに「ミルクスタンド」を開いたのは、戦後間もない、昭和25年のことだそうです。
昭和30年代の「高度経済成長」、昭和から平成へ向かう「バブル景気」、「24時間、戦えますか!」そんな企業戦士の朝食を支えたのが、ミルクスタンドでした。
十秒ほどで飲み干して、満員電車へ吸い込まれていきましたね。
餡パンはポケットに突っ込んで、会社で食べたんじゃないかな
当時は、白牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳など、5種類ほど。
それが今では、十倍の50種類に増えています。
白牛乳だけでも、大手メーカーのほかに、福島や群馬、飛騨といった地方の牛乳も扱っています。
『ミルクショップ酪』の営業時間は、朝6時半から夜9時まで。
ここで1日に飲まれる本数は……、何本だと思います?
聞いてビックリ! 多い日で3000本!
自動販売機の、パック入りの牛乳は、手軽ですが、やはり、牛乳ビンで飲む牛乳の方が、格別に、うまいんですね!
一番忙しい時間帯が、朝8時半ごろ。
それでも、「スイカ」といった電子マネーは、導入しません。
十円単位なので、現金のほうが3倍速い、と稲村さんは言います。
ほら、八百屋さんが、吊るしたザルに、バラ銭を入れて、夕方のお客さんを、さばいているでしょう。
あれと同じ!
商品を、いちいちレジに通して、ここにタッチしてください、ピピッ!
なんて、やってたら、行列が出来ちゃうからね。
ベテランの従業員、永沢光子さんに話を伺うと、注文の声は、「牛乳!」とか、「シロ!」とか、または、「明治!」「メグ!」「飛騨(ヒダ)!」と様々なんだそうです。
永沢さんは、それを一瞬で聞き分けて、牛乳を用意します。
牛乳の値段は、120円から150円。人気の餡パンは100円。
餡パンと牛乳で、220円です!
と言いながら、手は牛乳の蓋を開けています。
中には、一万円札で払うお客さんもいますが、そんなことでは、バタついていたら、仕事になりません。
さすが、ベテランの永沢さん。
数秒のやりとりでも、毎日のことだと、顔なじみも出来るそうです。
お嬢さん! 牛乳!
と、毎朝、声をかけてくるお客さんが、ぱったりと姿を見せなくなった。どうしたんだろう?
いつしか年月が流れた、ある日のこと、
お嬢さん、牛乳!(あ、あのときの、お客さん!)
もうリタイアされている様子で、背広じゃなくて、普段着姿です。
いまも元気でいられるのは、毎日ここで牛乳を飲んだおかげだよ。
と嬉しい言葉をかけてくれます。
ここ、長いね。
もうすぐ70年なんですよ。
お店じゃなくて、お嬢さんがだよ。
私? 私は、もうすぐ30年。お嬢さんが、おばあちゃんに、なっちゃったわ。
かつての企業戦士……、
あの頃は、十秒ほどで飲み干していた牛乳を、このときは、ゆっくり、味わいながら帰っていったそうです。
また来るよ!
の言葉を残して……。
2016年4月27日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ