それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』
「ヴィラデスト ヴィニュロンズ リザーブ シャルドネ2014」
カタカナ読みの苦手な私が、力をふりしぼって読ませていただきました。
何の名前か分かった方は、かなりの食通か?のん兵衛か?または政府関係者の方でしょう。
今、ご紹介したのは、今回の伊勢志摩サミットのワーキング・ディナーで各国首脳に出されたワインの名前なんです。
生まれは、長野県東御市(とうみし)のワイナリー・・・。
東御市のワインは、もう一銘柄、赤ワインも選ばれており、信州ワインの実力が、ここからもうかがえます。
4年前、この東御市でたった一人、ぶどう農園にチャレンジした人がいます。
飯島規之(のりゆき)さん、50歳。
飯島さんは、元・競輪の選手。
4千メートル個人追い抜きなどトラック種目が得意で、国内の大会では何度も日本一に輝き、2001年マレーシアで開かれたワールドカップでは銀メダルを獲得しました。
「特に自転車に思い入れがあったわけではないんです。ただ、競輪なら一歩ずつ努力を積み上げていけば、必ず芽が出ると思ったんです」
こう語る飯島さんは、中学・高校時代は棒高跳びの選手。
“一歩ずつ”の精神は、棒高跳びで培われたようです。
40歳になり選手生活のピークを越えたころから、次の人生を考え始めた飯島さんの脳裏に、ワイン作りが浮かんだのは、なぜでしょう?
「海外遠征をしたとき、レセプションやパーティーで必ず出るのがワイン。ワインは、喜びの酒なんです。家族や友だちや恋人と喜びを分かち合う。そんな酒を造る裏方になれたらな・・・と思ったんです」
そういえば、ワインでヤケ酒というのは、あまり聞いたことがありません。
こうして、何も知らないまま飛び込んだのが、長野県の農業大学校。
週に二日、ワイン農家での実習がありました。
飯島さんの心は決まりました。
「よし!ぼくも、東御で・・・ワインを作ろう!」
自分のぶどう農園の名前は「シクロ・ヴィンヤード」
フランス語で自転車を意味する「シクロ」と名づけました。
「ヴィンヤード」はぶどう農園のことです。
ぶどうの木にとって大切なのは、日当たりと水はけの良さ。
それに、昼と夜の寒暖差も欠かせません。
東御は、その点において申し分のない土地でしたが、ほかの点では、苦労続きの連続でした。
借りた土地は、雑木が生い茂った傾斜地。伐採作業も大変でした。
北は浅間山、南は蓼科山から吹き降ろす冷気で、霜の被害が発生。
せっかく植えたぶどうの苗木が枯れ「もう、ダメだ」と思ったことも二度、三度・・・。
しかし、妻の祐子さんを、さいたま市の家に置いたまま、飯島さんは孤軍奮闘!最初の一年を、たった一人で頑張りぬきました。
こうした姿に、まず反応を示したのは、地元の農家やぶどう農園の人たち。
「あっついね~! ほらジュースをどうぞ。水分補給をしなくちゃ」
「遠くから水を運ぶのは大変だ。水やりの時は、うちの井戸を使えばいい」
「うちの休ませてる田んぼ、あすこにもぶどうを植えたら、どうかね?」
最初は口もきいてくれなかった人たちが、実はみ~んな親切であることが分かりました。
こうして4年。今では2.2ヘクタール=およそ6,650坪の土地に、4,300本のぶどうを植え付けています。
2年目からは、妻の祐子さんも呼び寄せました。
「勉強しながらの二人三脚でした。妻には本当に感謝しています」
飯島さんはこの春、自分のワインを初めて、市場に出しました。
数は800本とわずかでしたが、祐子さんと二人、涙の乾杯をしました!
ラベルには、自転車の競技用語で「パシュート」=追い抜き、探求、追求~いう意味の言葉が印刷されています。
これは、奥さんの祐子さんが命名した名前なんです。
2016年6月1日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
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