それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』
おしゃれスポットとして人気の目黒区「自由が丘」。
その自由が丘駅から、歩いて5分ほどの住宅地に、「みどり湯」というお風呂屋さんがあります。
創業が昭和32年。その隣に、「みどり湯」が運営するギャラリー「yururi(ゆるり)」があります。
現在、こちらで『銭湯ハンコ作家 としぞーハンコの世界』が、1月22日、今度の日曜日まで開かれています。
廣瀬十四三(としぞう)さんは、日本でただ1人の「銭湯ハンコ作家」。横浜の出身の50代。
「小学一年の頃、家にお風呂がなく、いつも母に連れられて女風呂に入っていましたね。頭を洗う時、仰向けにさせられるんですが、天井を見ながら、早く男風呂に入りたいな、と思ったものです。」
大学を卒業後、大手電機メーカーのプログラマーになった十四三さん。
20代後半、一人暮らしを始めたアパートの、ユニットバスが小さい。「そうだ、銭湯に行ってみよう」と出かけてみました。
大きな浴槽の熱い湯に首まで浸かり、手足を伸ばした瞬間、「ああ、気持ちいいー!」。
この時〝銭湯熱〟に火が付きました。
30歳を過ぎて結婚。奥さんの実家の近く、足立区北千住に移り住むと、駅を中心に、十数軒の銭湯が元気に残っていて、どの銭湯も味があって面白い。
休日になると銭湯巡りをし、都内だけでも500軒の湯に浸かりました。
さて、ハンコですが、ペタン、ペタン!と押す、あの感触が、子供の頃から大好きだったという十四三さん。消しゴムハンコ作家のナンシー関さんの回顧展に出かけた時、5千個のハンコに圧倒されて、自分も作ってみたいと思います。
銭湯のご主人や文化人の顔を彫ってみようと、最初に選んだのが、イベントで知り合った銭湯研究家の第一人者・町田忍さん。完成したハンコをそっと見せると、「いいよ、これ!似てるよ〜」と大絶賛!
「絵やデザインを勉強したこともないので自信がなかったんですが、町田さんに後押しされ、『銭湯ハンコ作家』をやり始めて、2015年に脱サラし、これ一本で生きていこうと決めたんです。」
独立すると、食べていくために、仕事を取ってこないといけない。最初の営業先は、東京都浴場組合。
ここが主催する「東京銭湯お遍路巡礼スタンプラリー」のハンコが区の名前と、通し番号、銭湯の名前だけで、以前から、気になっていた。これじゃ味気ない。
「絵の入ったハンコを僕に彫らせてください」と直談判!その熱意に押されて、ハンコのリニューアルを許可してくれました。
最初に作ったのは、台東区上野にある「日の出湯」。
「ここの若奥さんは、パンダが大好きで、店内はパンダだらけ。この銭湯のウリが、古代ひのき風呂なので、パンダがお風呂に入っているデザインにしたんです。」
十四三さんは、銭湯を取材し、ご主人の要望を聞いてから、ハンコのデザインをするので、どれも特長がよく出ています。
番台に、スタンプラリーの台紙を差し出すと、ハンコを「ペタン!」。
もらったお客さんに、笑顔がこぼれます。
十四三さんが手がけた都内の浴場スタンプは、世田谷区、文京区、荒川区を中心に、現在63個。制作中のハンコもあるので、まだまだ増えていきます。
どこの銭湯からハンコを作るかは、十四三さんに任されています。
ある一軒を訪ねると、「うちはもうすぐ辞めるから、他を優先して」と女将さんに言われました。
それを聞いて、十四三さんは、「使用する期間が短くてもいいので、いますぐ作らせてください」と頭を下げると、「それなら、お願いします」となりました。
「出来上がったハンコを見て、女将さん、とても喜んでくださって、銭湯ファンからも好評で、お客さんも少しずつ増えていったんです。あれから1年が経ちますが、廃業したという話は聞いていません。」
独立して、今年3年目に入った十四三さん。
「子供の頃から、ハンコが好きで、銭湯好き。ただそれだけで飛び込んでしまったこの世界ですが、好きなことを夢中でやって、たくさんの大好きな人たちと知り合って、その人たちの、喜んだり驚いたりの顔が見たくて、きょうもハンコを彫っています。」
全国浴場組合の調べでは、平成28年4月1日現在、銭湯の数は、全国2,625軒。東京都は、612軒。
ここ10年、年に40軒のペースで廃業しているそうです。
その反面、元気な銭湯も多く「みどり湯」の女将さんの話では、
「うちの場合、若い方のお客さんも多く、経営も順調なんですよ。自宅にお風呂があっても、銭湯のお湯は、格別ですから、美容や健康にいいし、460円でリラックスできると、お年寄りから家族連れ、小さなお子さんにも銭湯は人気ですよ。」
みどり湯の営業時間は、午後2時15分から午前0時まで。
定休日は、木曜日。
去年、富士山のペンキ画を塗り替えて、とっても綺麗な銭湯です。
2017年1月18日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
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