昼11時過ぎの釧路駅3番ホーム。
ひときわ多くのお客さんで賑わっているのは、釧網本線の観光列車「くしろ湿原ノロッコ」号です。
“ノロッコ”とは、「ノロノロ走るトロッコ列車」の意。
窓が大きく開くオープンエアの車両が連結され、眺めのいい場所ではゆっくりと走ってくれます。
DE10形ディーゼル機関車がノロッコ専用客車4両を従え、さあ、釧路湿原へ出発です。
「くしろ湿原ノロッコ号」は、夏を中心に釧路~塘路間でほぼ毎日運行される臨時列車です。
2号車から4号車までがトロッコ車両で指定席、1号車は普通の客車で自由席。
自然の風を楽しむなら、乗車券のほかに乗車日1か月前から全国のみどりの窓口で販売されている指定席券を購入して、トロッコ車両に乗り込みたいところ。
釧路発なら6人ボックスシートの窓側進行方向となる、出来るだけ若い番号の奇数番A席が理想ですが、団体さんが押さえていることも多いので、偶数番でもA席が取れたらOKです。
『ボクもノロッコ乗りたいよォ~!』
チッー!と啼いて大きな窓から、セミがやってきました。
これもオープンエアのトロッコ車両ならでは!
啼き声からするとエゾハルゼミでしょうか?(昆虫に詳しい方はご自身で種類を特定下さい)
でも、この子は指定席券を持っていないので、窓から再び出ていっていただきました。
釧路を出て最初の見どころは、「岩保木(いわぼっき)水門」。
岩保木水門は昭和6(1931)年、治水と釧路川に木材を流して運ぶために作られましたが、ノロッコ号が走る釧網本線が開通したことで、木材“流送”に使われたことは無かったのだそう・・・。
今、大きく見えるのは、平成に入って完成した「新・岩保木水門」なんだそう。
この辺りのうんちくは、地元のボランティアの方が車内放送でイロイロと喋ってくれます。
「くしろ湿原ノロッコ号」に乗っていつも思うのは、釧路駅を発車する時から、“駅を出たら即、湿原”みたいな感覚を持っていらっしゃる方がとても多いこと。
でも、釧路市は人口17万人あまりの“都市”ですので、列車も暫くは市街地を走ります。
“くしろ湿原ノロッコ号”も本領を発揮するのは、ほぼ釧路湿原~塘路間。
なので、釧路湿原駅到着までのおよそ25分は、「駅弁タイム」にするのがお薦め。
今回は、釧路駅ではおなじみ「いわしのほっかぶり」(1,080円)をご紹介しましょう。
釧路駅では、改札外・キヨスクの隣にある「釧路市水産加工業協同組合 シーフードショップSKIP JR釧路駅店」で販売されている「いわしのほっかぶり」。(予約は090-2073-3958、売店直通)
調製元は「弁当工房引田屋」で、釧路駅弁・釧祥館による駅弁マークの入った公式駅弁ではありませんが、札幌~釧路間の特急「スーパーおおぞら」に車内販売があった時代は、車内にも積み込まれていたこともあり、時刻表等にも掲載される実質的な「駅弁」として広く認知されています。
掛け紙を外すと、甘酢っぱい匂いがフワッと香ってきて、食欲をそそります。
いわしの握りを甘酢大根で包んだ様子が“ほっかぶり”に見えることからの秀逸なネーミング。
脂がのったイワシと甘酢大根が、口の中に入るとまろやかに感じるから不思議です。
1ついただくと、2つ3つとスグに箸が進んで、男性ならあっという間に完食!
全8カン、女性2人旅なら半分ずつシェアしてもちょうどいいくらいかもしれません。
ノロッコで乗り合わせたお客さんからも、羨ましがられること間違いナシ。
早めのお昼で腹ごしらえを済ませれば、列車は釧路湿原駅を発車したところ。
若い奇数番A席を薦めるのは、進行方向に向かって座れるからです。
木立の中を走っていた列車が、平原へ走り出していく瞬間がたまらないんですよね。
今回は逆向きに座っていたので、残念ながら見逃してしまったのですが、10年前(2007年)に乗った時の画像が手元に残っていましたので、こんなイメージということで・・・。
「くしろ湿原ノロッコ号」最大のハイライトが、細岡~塘路間!
弧を描く釧路川に沿って、ゆ~っくり、ゆ~っくりノロッコが走る瞬間です。
そこへ上流から、カヌーで川下り中の皆さんがやって来て、互いに手を振り合うのがお約束。
鉄道とカヌー、見ず知らずの人でも、大自然を楽しみたいという思いは共通のもの。
手を振る行動を通じて、互いに“繋がった”ような気持ちになれる充足の時間です。
上流と下流で標高差がおよそ120mという、日本屈指の高低差が少ない川「釧路川」。
それゆえのゆったりとした流れ、繰り返す蛇行など、釧路川に沿って走る釧網本線の列車からは、北海道ならではの景色が楽しめます。
周囲に道路がない所も多く、これは「鉄道旅」だから楽しめる風景!
特に釧路発の「くしろ湿原ノロッコ」号は、後半の20分あまりを集中して楽しみましょう。
釧路駅からおよそ50分、「くしろ湿原ノロッコ2号」は終着の塘路駅に到着。
20分あまり停まって、12:17発の「くしろ湿原ノロッコ1号」として折り返します。
ちなみに、先に走る列車が2号で後の列車が1号となっているのは、網走と釧路を結ぶ釧網本線が網走起点で、釧路発の列車は「上り列車」となるため。
釧路行の1号は、最後尾のディーゼル機関車が、前の客車を「押して」走っていきます。
塘路駅近くの展望台に登れば、湿原をバックにひと休み中のノロッコ号が・・・。
塘路周辺で、時間をかけてたっぷり湿原を満喫するもよし、カヌーで下るもよし。
まだまだ乗り足りない方は、ノロッコで折り返して行くのもアリでしょう。
自然がいっぱいの釧路湿原を手軽に楽しめる釧網本線の旅。
ぜひ自然・人とのふれあいを楽しみながら、駅弁と共にノロッコ号の世界を堪能しましょう。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/