それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
上柳昌彦あさぼらけ 『あけの語りびと』
ホンダの原付バイク「モンキー」が、8月いっぱいで生産終了します。
初代モンキーは、1967年の発売で、今年50周年。
小さくて愛らしいデザインと定評のあるホンダのエンジンで、半世紀にわたり根強い人気を誇ってきましたが、今年から強化された排ガス規制をクリアできず、生産終了に……。
中高年の男性には、ちょっと寂しいニュースですよね。
そんなモンキーより、さらにひと回り小さなバイクが元気です。
その名も「仔猿(コザル)」。
調布市の二輪車設計事務所「CKデザイン」が発売する「仔猿」は、公道を走れるバイクとしては、世界最小だそうです。
「仔猿」の生みの親、佐々木和夫さんは元ホンダの技術者で、二輪車の車体設計を担当していました。
当時、設計図は手描きの時代で、平面図に立体的なボディーを描く佐々木さんの腕は天才的で、業界でもその名は知れ渡っていました。
ホンダの研究所で出世街道をひた走っていた佐々木さん。
ホンダの「ナナハン」が若者の憧れだったころ「自分が思った通りのバイクを作りたい」と、1980年に独立。
たった一人で二輪車のデザイン会社を始めました。
最初はいくつか仕事が入って来ましたが段々なくなり、バイクショップを回ったりバイク雑誌でコラムを書いたり、まだ30代だった佐々木さん、家族を支えるために必死でした。
朝、「行ってきます!」と家を出ても仕事はなく、昼ご飯を食べるお金もなく、百円のアイスで空腹をしのぎました。
資金も底をつきいよいよ倒産か、と諦めかけたとき、顔見知りだったヘルメットメーカーの社長さんから技術顧問の話があり、どうにか倒産の危機を免れました。
その頃に開発したのが、「全天候型バイク」でした。
さっそく、おそば屋さんに売り込みに行くと「雨の日にわざわざそんなバイクに乗らなくても、カッパを着れば十分だよ」と話も聞いてくれません。
ところが時代はバブル景気を迎え宅配ピザが人気になり、この「全天候型バイク」が配達にピッタリ!
売れに売れて大ヒット!年商数億円!従業員10人をかかえて「ビルを買おうか!」という話が持ち上がりますが、佐々木さんは「俺は金儲けのために、バイクのデザイン会社を始めたわけじゃない」と、自分の夢に向かって走り出します。
ドイツのオートバイメーカー「ホレックス」の製造権を買い取り、世界最速レベル、単気筒オートバイの生産に乗り出します。644cc、時速200キロのレーシングタイプ。
真っ赤なボディーでドイツの専門誌にも紹介されるほど、発売前から大きな話題になりました。
まずは50台を製造しドイツへ売り込もうと思った矢先、あの東西ドイツの統一で経済ショックが起こり、佐々木さんに残ったのは「億単位」の借金だけでした。
「従業員にやめてもらうのが一番つらかった」という佐々木さんは、また一から出直すことになりました。
ある日、フリーマーケットでホンダの汎用エンジンを見つけます。
ポンプや草刈りに使われる31ccの小さな4サイクルエンジンです。
「見れば見るほど、素晴らしいエンジンでね、その時、ふと本田宗一郎さんの声が聞こえたような気がしたんです。『君だったら、このエンジンで、何を作るんだい』とね。」
こうして作り上げたのが、世界最小バイク「仔猿」でした。
「友達を数えたら36人いて、そこで36台作って押し売りしたんです。友達はいい迷惑だっただろうね。ところが意外なことに反響がよくて『このバイク、面白いよ』とか『初めてバイクに乗った日を思い出したよ』とか、みんな子供のように喜んでくれてね」
こうして、2003年に発売した「仔猿」は今年、累計販売台数1000台を突破しました。
「仔猿はキットの発売もしていて、夏休み、親子で組み立てたいと注文が来るんですよ。いま原付バイクはスクーターばかりですが、跨いで乗るバイクの面白さをもっと知ってもらうためにも、仔猿は、未来のライダーへ贈る、私の子供だと思っています」
佐々木さんの年齢は、60代。
「ずっと64歳のまま」だそうです。
8月5日6日、今度の土日、軽井沢で、仔猿ミーティング「仔猿モーターサイクルショー」が開かれます。
全国から、仔猿のオーナーやファンが軽井沢に集結します。
詳しいことは、「CKデザイン」のホームページをご覧ください。
2017年8月2日(水) 上柳昌彦 あさぼらけ あけの語りびと より
朗読BGM作曲・演奏 森丘ヒロキ
番組情報
眠い朝、辛い朝、元気な朝、、、、それぞれの気持ちをもって朝を迎える皆さん一人一人に その日一日を10%前向きになってもらえるように心がけているトークラジオ