【ライター望月の駅弁膝栗毛】
紀勢本線(亀山~新宮間)、参宮線などの普通列車として活躍するのがキハ25形。
まるで電車のように見えますが、れっきとした「ディーゼルカー」です。
ここ数年で、一気に東海エリアの非電化路線における主力となりました。
紀勢本線のキハ25形は主に1500番台で、3ドア・ロングシートの暖地向け車両。
混雑する朝夕は車掌さんのいる4両で、日中や夜はワンマン運転の2両編成で運行されます。
そんな紀勢本線・松阪駅で駅弁を販売するのが、「新竹商店」。
平成20(2008)年から四代目の社長を務めるのが、新竹浩子(あらたけ・ひろこ)社長です。
“ぴーちゃん”の愛称で親しまれ、ファンも多い名物社長。
実は私が構成を担当したニッポン放送制作の番組にも、何度かご登場いただいています。
駅弁膝栗毛「駅弁屋さんの厨房ですよ!」シリーズの第7弾、インタビューの続きです。
●たぶん「日本一原価率の高い」駅弁!
―昭和34年、「元祖特撰牛肉弁当」を日本一高い150円で出しましたが、コレってかなり強気な価格設定ですよね?
そのくらいしないと採算ベースが合わないんです。
今も皆さんホントに「美味しい」と仰って下さるんですが、「あら竹」の駅弁は、たぶん「日本一原価率の高い駅弁」だと思います。
それだけの自信があるものを出しています。
松阪の牛肉は、そんなに安くは手に入らないんですよ!
―今は「1,350円」という価格ですが、それもかなり努力されているんですか?
今、500円とかワンコインランチがある時代に1,350円・・・これでも頑張っているんですが、東京で売ったらたぶん倍になるんじゃないかと思います。
「丸中本店」さんとの長い付き合いと、地元を大事にする信頼関係があるからこその価格です。
正直、いろんなお肉屋さんからお声掛けや、スゴイ見積もりをいただきます。
でも、試食すると、やっぱり肉の味が違うんです。
●松阪の街を挙げて作られる「あら竹」の駅弁
―地元の店にこだわる理由は?
何より私は松阪に貢献したいので、市内の業者さんで仕入れしたいという気持ちが強いんです。
だから、肉の「丸中本店」は勿論、米、蒲鉾、野菜など仕入れは市内の店に決まっています。
さらに、駅弁のパッケージは、江戸時代から続く「紙小津産業」です。
ウチは場所が狭くてパッケージの在庫を置く場所がないので、「紙小津産業」さんをウチの倉庫、「丸中本店」さんは、ウチの冷蔵庫だと思ってやっています。
―まさに松阪の街全体で、「あら竹」の駅弁は出来ているということですね?
やっぱり、地元の付き合いを大事にして、お互いに商売をしていきたいんです。
例えば、パッケージですと、正月なのに急に足りなくなってしまった場合でも、地元のお店なら、少ない数からスグに持ってきてくれます。
野菜でも、地元の「八百甚」さんが、あら竹向けに一級品をわざわざ探してくれるんです。
「八百甚」さんが選んでくれた土生姜は値段こそ高いですが、刻んだ時やおろした時の香りと瑞々しさが素晴らしいんです。
ココまで地元にこだわるのは、「あら竹」の駅弁をずっと残していきたいという気持ちと同じように、地元の商店さんやメーカーにも残っていってほしい気持ちがあるんです。
だから、“日本一原価率の高い”駅弁になるんです。
(新竹社長インタビュー、続く)
地元・松阪を愛してやまない「あら竹」の新竹浩子社長が、社長就任前の平成13(2001)年に、初めて自身で手掛けた駅弁が「本居宣長瓣當」(980円)。
松阪で行われた「宣長さん没後200年」の顕彰事業に協賛して作った駅弁です。
「古事記伝」などで知られる本居宣長は、松阪出身で18世紀最大の古典研究家。
松阪市内の「本居宣長記念館」は、今年(2017年)3月にリニューアルオープンしたばかりです。
【お品書き】
松阪の牛肉そぼろ(牛肉のそぼろ風甘から煮)
松阪の牛肉しぐれ(牛肉の生姜香味しぐれ煮)
錦糸卵・・・朝日みたて
桜の花塩漬・・・山ざくらみたて
桜の花麩・・・山ざくらみたて
田舎風煮しめ・・・昔の味をそのままに
新竹社長ご自身、最初に作った駅弁ということで、ひと際思い入れがあるという「本居宣長瓣當」。
添えられたしおりには、「しき嶋の やまとごころを 人とはば 朝日ににほふ 山ざくら花」という。本居宣長の歌が添えられていて、この歌の世界観が、駅弁の見た目に映し出されています。
今回、久しぶりにいただいて、改めて美味しいなぁと感じたのが、「牛肉しぐれ」。
生姜の風味が効いていて、白飯との相性がバッチリです。
ちなみに、あら竹オリジナルの「牛肉しぐれ煮」「牛肉そぼろ煮」は、お土産として単品(各1,200円)でも販売されているのが有難いところです。
なお、画像のタイプは、しぐれ・そぼろの「詰め合わせ」(2,400円)。
「本居宣長瓣當」の余韻を家でも楽しみたい場合は、駅弁と一緒に買い求めるのがおススメです。
白いご飯がホントによく進みますよ!!
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/