【ライター望月の駅弁膝栗毛】
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キハ75系・快速「みえ」
名古屋と伊勢市・鳥羽を結ぶJRの快速列車「みえ」。
主な途中停車駅は桑名、四日市、鈴鹿、津、松阪、多気(たき)、伊勢市、二見浦(ふたみがうら)で、終点・鳥羽までは、2時間弱の旅となります。
ほとんどの席が進行方向に向かって座ることが出来る転換クロスシートが装備されたキハ75形気動車による2両編成が基本で、混雑時間帯はさらに2両増結され4両での運行となります。
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松阪駅
津の「三重県総合博物館(MieMu)」で9/18まで行われている企画展「みんなののりもの大集合」で、頭いっぱい三重の鉄道の知識を詰め込んだ後は、松阪でお腹いっぱいに・・・。
津~松阪間は、JRの快速「みえ」では15分ほどで到着します。
松阪駅はJR線と近鉄線の共同使用駅で、降り立ったのは南口のJR側改札。
なお「松阪」の読み方は、「まつさか」と、“にごらない”のが基本です。
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あら竹本店
バスターミナルのある松阪駅南口から歩いておよそ3分、信号を1つ渡った商店街の入口にあるのが、松阪駅の駅弁屋さん「株式会社新竹商店(あら竹)」です。
本店は2年前の平成27(2015)年、創業120周年を記念してリニューアルされたばかり。
ココで作られた駅弁が、店頭販売されるのはもちろん、松阪駅売店に随時搬入されています。
また、三重県大紀町の国道42号沿いには、「ドライブインあら竹」も展開しています。
●松阪名物・黒毛和牛がぜいたくに使われた「モー太郎弁当」!
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モー太郎弁当
伺った日は、ちょうど「松阪名物黒毛和牛 モー太郎弁当」(1,350円)が2つ、追加注文が入ったところ・・・ということで、日本初の“メロディ駅弁”として有名な「モー太郎弁当」が作られる様子を見せていただくことが出来ました。
この日はなんと!新竹浩子(あらたけ・ひろこ)社長自ら、腕を振るいます。
まずは、松阪名物・黒毛和牛を用意して・・・。
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刻まれる土生姜
その横でお店の方が懸命に刻んでいたのは「土生姜」!
あら竹が誇る牛肉駅弁の“隠し味”として、大事な役割を担います。
この土生姜も、松阪市内の青果店を通じて、全国から厳選した四国産のものを使用。
なるほど、あのいい風味はここから来ていましたか!
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モー太郎弁当の国産黒毛和牛
すき焼きで一番心ときめく時、それは「肉の色が変わる」瞬間!
黒毛和牛の美しい赤が、いい匂いと共に、ピンクから白へと移り変わっていきます。
ちなみに「モー太郎弁当」をはじめ、「あら竹」の駅弁で使われる牛肉は、松阪市内の松阪牛・黒毛和牛専門店「丸中本店」から、毎朝仕入れたもの。
新竹社長は「肉の美味しさは、お肉屋さんの精肉技術がカギ」と話し、丸中さんの技に絶大な信頼を置いています。
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モー太郎弁当の国産黒毛和牛
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モー太郎弁当の国産黒毛和牛
自家製の煮汁に土生姜の千切りを入れて炊くのが、「あら竹」のこだわり。
さあ、肉の色が変わったところで、間髪入れずに、サッと鍋から上げられました。
既に厨房には、とんでもなくいい匂いが立ち込めています。
●白いご飯の美味しさを引き立てる黒毛和牛の煮汁!
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三重県産コシヒカリ
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モー太郎弁当
さあ、おなじみの「モー太郎弁当」の黒い容器に、松阪市内の米穀店から仕入れられた三重県産コシヒカリの白いご飯が盛られていきます。
そのまま肉を載せるかと思いきや、ココで先ほどの黒毛和牛の煮汁を白飯にかけるひと手間!
つやつやのご飯に、煮汁がしみ込んでいく様子に、愛おしさすら憶えそうです。
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モー太郎弁当
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モー太郎弁当
いよいよ、黒毛和牛が「あら竹」オリジナルのたれにサッとからめられてご飯の上へ・・・。
紅生姜を載せて、あっという間に「松阪名物黒毛和牛 モー太郎弁当」の完成です!!
●「美味しくなぁれ!」新竹社長の想いも載せた“五感に響く”駅弁!
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モー太郎弁当
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モー太郎弁当
フツーの駅弁ですと、ココで封がされておしまいですが、ココからもうひと手間かかっているのが、日本初のメロディ駅弁、「モー太郎弁当」の特徴!
牛の顔の形をした容器上蓋の裏側に取り付けられた、光を感じて「ふるさと」のメロディーが流れだす装置が動くことを確認した上で、封がされていきます。
ちなみに、唱歌「ふるさと」を選曲したのは、聞いた誰もが懐かしく感じることが「駅弁の心に通じる」ということが理由だそうです。
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モー太郎弁当(2016年登場の平成ウシカニ合戦バージョン)
冬場、全国各地で行われる駅弁大会などで、たくさんの「モー太郎弁当」を作る際は、新竹社長自ら、この最終チェックを行っているそう・・・。
「美味しくなぁれ!」と念じながら、封をしていくのが習慣となっているといいます。
日本各地に駅弁屋さんあれど、社長自ら、1つ1つの駅弁に気持ちを込めて、手作業で送り出している駅弁屋さんは、極めて貴重な存在ではないかと思います。
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松阪名物黒毛和牛 モー太郎弁当
「松阪名物黒毛和牛 モー太郎弁当」のキャッチフレーズは、「五感に響く」駅弁。
視覚は「印象的な牛さんの顔」、聴覚はご存知「メロディ駅弁」、嗅覚は「すき焼きの香り」、味覚は「黒毛和牛と生姜の食感」、そして最後は、懐かしさのある「駅弁の心」だといいます。
そんな感性を刺激してもらうべく、敢えて「中身が見えない」駅弁にしているのだそう。
そう!駅弁ってラジオと同じで、“想像力”が大事なものなんですよね。
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松阪名物黒毛和牛 モー太郎弁当
牛の顔をした黒いふたを開けると、食欲をそそる生姜風の香りに、容器の縁ギリギリまで溢れんばかりに載った黒毛和牛のすき焼き肉が目に飛び込んできます。
手にするとズシリ感もあるのに、1,000円台前半の価格設定・・・しかも頬張れば、良質な肉の脂が体に沁み込んでいくような感覚が、お腹だけでなく心も満たしていきます。
昨今、伊勢周辺にも増えている海外からの訪日客にも圧倒的人気を誇るという「モー太郎弁当」。
“本当にいいもの”は、どこの誰がいただいても「イイ」んですね。
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松阪名物黒毛和牛 モー太郎弁当
平成14(2002)年9月28日に発売され、早いもので間もなく発売15周年を迎える「松阪名物黒毛和牛 モー太郎弁当」。
とかく“容器の見た目”、“メロディ駅弁の話題性”に注目が集まりやすい「モー太郎弁当」ですが、なんといっても、中身がそれ以上に美味しいことが、人気の秘密なのかもしれません。
この誕生秘話をはじめ、松阪の駅弁にかけるアツい思いなど、あら竹の新竹浩子社長にたっぷり語っていただきましたので、次回以降、出来るだけご紹介してまいります。
連載情報
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ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/