【ライター望月の駅弁膝栗毛】
米沢の郊外、羽黒川の鉄橋を渡るE3系・山形新幹線「つばさ」号。
奥羽本線のトンネルや鉄橋はそのまま、レールの幅を変えて生まれたのが「山形新幹線」です。
このため車両のサイズも、在来線規格となっているのが特徴。
フル規格の新幹線の場合、普通車は横に3人―2人の5人掛けとなっていますが、山形新幹線のE3系や秋田新幹線のE6系では、在来線特急同様、2人―2人の4人掛けとなっています。
「山形線」の愛称があるこの区間は、単線区間も多く、普通列車も新幹線と同じ線路を走ります。
福島~新庄間の普通列車として使われている719系5000番台は、見た目こそJR初期の車両によく見られるカオながら、レール幅1,435mmの標準軌に対応した車両。
米沢以北では車掌さんのいないワンマン運転も行われており、のどかな田園風景の中を、快調に走り抜けていきます。
さあ、今年もいよいよ実りの秋を迎えようとしている山形。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第6シリーズの、米沢駅弁「新杵屋」編。
今回は、「新杵屋」の米と牛肉へのこだわりを伺いました。
●載せ弁だから、山形米「どまんなか」!
―ニッポン放送(ショウアップナイター)を長年お聴きになっている方なら、山形の米のブランドは、結構耳に馴染みがあるハズなんですが、「はえぬき」と「どまんなか」がほぼ同時期に出来て、なぜ「牛肉どまん中」で、「牛肉はえぬき」ではなかったんですか?
確かに「どまんなか」「はえぬき」というお米が出来た時、「じゃあ、どうすっぺ?」というんで、「どまんなか」で行こうかと。
名前の語呂もいいしね。
(舩山百栄専務から)
実は「はえぬき」にする気は全くありませんでした。
それというのも、「どまんなか」というお米は、ササニシキ系です。
お肉と一緒に食べた時に、肉の味を邪魔しないのが、「どまんなか」なんです。
「はえぬき」は甘みと粘りがあるので、冷めた時に相性がイマイチになってしまうんです。
これに加えて、ネーミングを考えた時に「どまんなか」のほうが面白いんじゃないかと。
―確かにお米の味には、こってりのコシヒカリ系と、あっさりのササニシキ系がありますよね?
(引き続き、舩山百栄専務)
ササニシキ系は病害虫などに弱い傾向があるので「作りにくい」とされて作付けも少なく、県などでも「はえぬき」を薦める傾向がありました。
ただ、出た当時、「どまんなか」は、東京などでも寿司屋さんがよく使っていました。
酢飯に使えるということは、ばらけ方とか粘りが少ないということで、やはり「(ネタを)載せる」にはちょうどいいということを寿司屋さんが仰っていました。
寿司を食べた時によくご飯がほぐれるといいますが、それが出来るのがササニシキ系なんです。
牛肉の「載せ弁」にすること、さらにウチの牛肉の味を考えるとササニシキ系、しかも粒の大きい「どまんなか」がいいんです。
お米って、美味しいおかずを食べるための「よき相棒」であるべきと思っていて、コシヒカリ系では、ちょっとこってりしすぎてしまうところもあるんです。
―今では「つや姫」というブランドもありますが・・・?
粘りのあるお米なので、「載せ弁」より「幕の内系」駅弁だったら「つや姫」は美味しいと思います。
ま、今はみんな「どまんなか」と聞いても、米の名前だと思いませんよね。
「牛肉のどまんなか」って、ドコの部位だろうとか思ったりする人もいるくらいです。
実際、最初にデパートに持っていった時も、そんなこと訊かれましたよ。
●栄太郎社長の女性への「思いやり」が詰まった、牛肉の切り方!
―「牛肉どまん中」は牛肉を細かくカットしているのも特徴です。これも栄太郎社長のアイディアなんですよね?
普通、肉って大きいのがイイと思うんだけど、1枚食べると、白いご飯が見えてしまって、「ない!」って感覚になってしまいますよね。
かといって、半分食いちぎったものを残しておくのも、チョット気が引けます。
列車といえば、やっぱり4人掛けのボックスシートです。
友達同士ならまだしも、知らない人が前に来ることもある訳ですよね。
そんな時に大きな肉を食いちぎる様子を見られたくないでしょう?
特に女の方だったら、恥ずかしいハズ・・・。
「牛肉どまん中」であれば、食べても食べても肉がいっぱいですし、肉が小さいことでお子さんにも食べていただきやすくなっています。
小さいお子さんから年配の方まで食べて貰える駅弁が「牛肉どまん中」なんです。
普通の肉ばかりですと、味も飽きてしまいますので、(食感を変えて、かつ値段が高くなり過ぎないように)そぼろと組み合わせています。
それまで牛肉弁当は、そぼろの部分が蒟蒻だったりしたわけですが、全部肉でいこうかと。
昔、出稼ぎの人たちがいた時代、皆さん夜行列車で帰ってきました。
急行「津軽」などが、米沢に停まるのは午前3時台です。
米沢に着くころには、ボックス席の皆さんはもう和気あいあいでした。
だから、当時は「網入りのみかん」がほんとによく売れました。
女の子あたりが1房買って、それをボックス席のみんなに分けてあげるんです。
そんな列車こそ、弁当がよく売れました。
そういう光景を見ているからこその「肉の小ささ」なんです。
(インタビュー、つづく)
「牛肉どまん中」にみそ味が出たのは、2010年代前半のこと。
これで「しょうゆ」「しお」「みそ」の3種類が揃いました。
米沢の老舗味噌蔵の味噌を使い、少しピリッとした大人の味にバージョンアップしています。
同じ弁当の構成でも調味を変えるだけで、こんなに変わるものかというのは新鮮な発見。
アイディアマン・栄太郎社長の女の方へのさりげない思いやりを感じながらいただくと、より一層、味わい深いのが「どまん中シリーズ」なのです。
次回、いよいよ「駅弁屋さんの厨房ですよ!・新杵屋編」、完結(予定)!?
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/