【ライター望月の駅弁膝栗毛】
今年(2017年)7月1日で開業25周年を迎えた「山形新幹線」。
平成4(1992)年、福島~山形間の奥羽本線のレール幅(1,067mm)を新幹線のレール幅(1,435mm)に改軌することで生まれた、初めての“ミニ新幹線”です。
E3系「つばさ」は、東京~福島間を最高時速275kmで走り、福島からは最高時速130kmに・・・。
特に福島~米沢間の板谷峠は、東日本エリアトップクラスの急勾配が続きます。
福島から30分あまりかけて板谷峠を下ってくると、最初に停まるのは「米沢駅」。
米沢駅舎は、白い洋風の外観が印象的です。
この駅舎も山形新幹線の開業に合わせて改築され、平成5(1993)年に完成しました。
国の重要文化財「旧・米沢高等工業学校(現・山形大工学部)・本館」をモデルに作られています。
駅前からは、白布温泉・小野川温泉などへの路線バスも発着しています。
そんな米沢駅前に本社を構えるのが、米沢駅の駅弁屋さん「新杵屋」です。
「本社工場直売店」という位置づけで、店頭でも出来たての駅弁を買うことが出来ます。
ライター望月が、駅弁づくりのウラ側に潜入する「駅弁屋さんの厨房ですよ!」。
伊東駅弁「祇園」、小淵沢駅弁「丸政」、水戸駅弁「しまだフーズ」、出水駅弁「松栄軒」、長岡駅弁「池田屋」に続く第6弾は、「新杵屋」にお邪魔しました。
「新杵屋」の看板駅弁といえば、何と言っても「牛肉どまん中」(1,250円)!
山形新幹線の開業と共に誕生した駅弁ということで、実は「牛肉どまん中」も25周年!!
平成25(2013)年秋に行われた東日本エリアの駅弁人気投票、「駅弁味の陣」でも見事、トップの「駅弁大将軍」に輝いた実績を持ちます。
東京でも人気を誇る「牛肉どまん中」は、果たしてどのように作られているのでしょうか?
●厳選された牛肉を2度煮て作られる「牛肉どまん中」!
入念に消毒を済ませて、厨房へ入らせていただくと、そこはいいタレの匂いがいっぱいの空間。
その一角で、「新杵屋」が長年取引している卸のお店から仕入れているという地元・山形産牛肉の調理が始まろうとしていました。
牛1頭から取れる肉がおよそ500kgとすると、そのうち100kg程度しかない、駅弁に適した厳選された部位のみを使用しているそうです。
「牛肉どまん中」の美味しさのポイントは、2度煮ること。
まず一度煮て、余分な脂を落とします。
そして牛肉の旨味を残したまま、二度目で「秘伝のたれ」で煮込まれ、味を付けていくんですね。
やはり牛肉の味は、「脂の管理」が大事なんですね。
●甘くて香ばしい「秘伝のたれ」!
コチラが何時間もかけて作られる、新杵屋オリジナル、醤油ベースの「秘伝のたれ」。
元々、和菓子屋さんだった「新杵屋」ならではのノウハウが詰まった甘い香りがします。
随時混ぜられて、たれの鮮度も保たれています。
牛肉の横の鍋では、並行して「牛肉どまん中」では大事な相棒、「牛そぼろ」が作られていました。
牛肉と同じように、コトコトじっくりと煮込まれて、いい匂いを漂わせながら、惚れ惚れする美しい茶色に仕上がっていきます。
●1つ1つ丁寧な手作業!
お隣のエリアに入ってくると、折詰に白いご飯が詰められていました。
使われているお米は、もちろん山形産の「どまんなか」。
庄内平野の「どまんなか」にある農業試験場で作られたことから「どまんなか」になったとか。
よく「牛肉どまん中のどまん中って、牛のドコの部位ですか?」と訊いてくる人がいるそうです。
「牛肉どまん中」の「どまんなか」とは、山形米のブランド名なのです。
(参考:JA全農山形ホームページ)
白くふっくらと炊き上がった「どまんなか」のお米の上に、先ほどの牛肉煮と牛そぼろが、折詰1つ1つ手作業で載せられていきます。
米沢駅のみならず、首都圏各駅でも見かけることの多い「牛肉どまん中」ですが、全ての「牛肉どまん中」が、手作業で作られていくんです。
こういったご苦労を目の当たりにすると、お米1粒たりとも残すことは出来ませんよね!
仕上げに刷毛でもう一度、「秘伝のたれ」が塗られていきます。
コチラの「秘伝のたれ」は、少し煮こごりにアレンジされており、手が込んでます!
ゴマをひと振り、パセリがちょこんと載ったら、透明な蓋がされて出来上がり。
1つ1つ手作業ではありますが、とても手際よく進められていきます。
出来上がった「牛肉どまん中」は、おなじみのスリープ式の紙の包装に挟み込まれ、製造時間、消費期限などのシールが貼られ、割り箸が挿入されて、段ボールなどに詰められます。
実は「新杵屋」には、この「牛肉どまん中」の製造ラインが2つあります。
1つは米沢駅売店などでの販売分や「つばさ」積み込み用に作られるもの。
もう1つは首都圏の駅をはじめとした米沢から離れた地域向けに作られるものです。
どちらも製造工程は同じですが、遠隔地向けの商品は、保存性から温度を低く下げているそう。
温度管理にまで細心の注意を払って作られている「牛肉どまん中」なのです。
この日は、出来たてほやほやの「牛肉どまん中」をいただくことが出来ました。
これと同じものは、新杵屋の本社直売店、米沢駅改札外・待合室の「おみやげ処よねざわ」、さらには、山形新幹線「つばさ」の車内販売でも購入できます。
特に「つばさ」では、上りでは山形発車後、下り列では福島発車後にアテンダントさんが注文を取り、その分が米沢から積み込まれるので、車内で出来たての駅弁が食べられるんですね。
【お品書き】
白飯(山形県産どまんなか)
牛肉煮(国産和牛)
牛肉そぼろ(国産牛)
小芋煮
人参煮
にしん昆布巻き
かまぼこ
卵焼き
桜漬
ふたを開けた瞬間から、甘い香りに包まれる「牛肉どまん中」。
何度食べてもヤメられない、また欲しくなる不思議な魅力がある駅弁です。
肉と白いご飯のバランスが、ココまで絶妙な“牛丼”系駅弁は、他にまずありません。
今や、駅弁の王道(どまん中)を歩いているように見える「牛肉どまん中」。
でも、ココへ至る道のりは、実は決して“どまん中”ではなかったとか???
この牛肉の形、おかず、包装、容器にもいろんなウラ話が隠れています。
次回以降、「新杵屋」の舩山栄太郎社長の話と共にご紹介していきましょう。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/