【ライター望月の駅弁膝栗毛】
紀勢本線と参宮線が分岐する三重県多気町(たきちょう)の「多気駅」。
元々、参宮線は伊勢神宮への参拝客向けに亀山~鳥羽間の路線として建設され、昭和34(1959)年の紀勢本線全線開通に伴って、多気~鳥羽間が紀勢本線となりました。
駅の南側を望めば、鳥羽方面に向かう参宮線が真っ直ぐ伸びていて、紀勢本線は右にカーブしているのが分かり、この駅の成り立ちをうかがい知ることが出来ます。
そんな参宮線から直通して、名古屋へ向かうキハ75形の快速「みえ」。
紀勢本線が単線ということもあって、松阪駅では長めに停車する列車もあります。
特に10:47発「みえ8号」は6分、14:47発「みえ16号」は5分停まるため、この時間を利用して、松阪駅1番線ホームの売店で駅弁を買い求めることも可能です。
また週末を中心に、「新竹商店」に予約して、列車のドアで受け渡しをする方もよく見られます。
自ら、ホームでの受け渡しを担当することもある松阪駅弁・新竹浩子社長のインタビュー、今回は、あの人気駅弁「モー太郎弁当」のウラ側を訊きました。
●あの「大騒動」で大ピンチに陥った松阪の駅弁!
―今や「元祖特撰牛肉弁当」と並ぶ看板駅弁になった「モー太郎弁当」、出来たきっかけは?
平成13(2001)年秋のBSE騒動がきっかけです。
特に11月は、駅弁の売り上げが1割くらいになってしまいました。
地元の方は、松阪牛が(BSEに該当する)ホルスタインではなく黒毛和牛で、それが問題ないことは十分知っているんです。
でも、(それを知らない)団体のお客さんや観光客の方は、全く買わなくなってしまったんです。
―駅弁大会にも影響があったそうですね?
直後の冬は、駅弁大会から牛肉弁当の注文が1個も来なくなりました。
百貨店のバイヤーさんまで、「牛肉弁当以外の弁当は無いんですか?」と言い出すくらいでした。
でも、その冬の駅弁大会で、「なぜ今年は牛肉弁当が無いんですか?」と聞いてくるファンの方がたくさんいたんだそうです。
このため、中には急きょ「牛肉弁当」の発注が入れてきた百貨店もありました。
●ピンチをチャンスに!奇抜な駅弁を作れ!!
―「モー太郎弁当」といえば、あのウシ型の容器がユニークですよね?
駅弁大会は、一度販売枠を外れてしまうと、失った枠を簡単に取り戻すことが出来ないんです。
次の年を見越した時、すごいインパクトがある駅弁じゃないと売れないだろうと・・・。
牛肉弁当は少し地味でしたし「奇抜な何かがないと・・・」とバイヤーさんからも言われました。
そこで視覚で目を引くように「牛の顔」の形をした容器にしようと・・・。
ただ、リアルな牛の顔にすると生々しいし、可愛すぎるとバンビになってしまいます。
色々な試行錯誤を繰り返しながら、米沢の「松川弁当店」と共有する形で開発しました。
この牛の顔には、松阪で牛を作ってお届けする全ての牛の作り手(匠)さんの心を代弁する気持ちも込めています。
―日本初の「メロディ駅弁」というのは、どこから生まれたんですか?
視覚もインパクトはありますが、聴覚にも訴えようと・・・。
それまで、和田山に「モー!」と啼く駅弁(注)があるというのを聞いていました。
包材メーカーさんからはチップで音を出せるということを教えていただいたので、啼き声ではなくて、「音楽」が流れる駅弁を作ってみようとなったんです。
候補曲は、唱歌「ふるさと」、「鉄道唱歌」、「いい日旅立ち」の3つあったんですが、「いい日・・・」は著作権がクリアできず、「ふるさと」と「鉄道唱歌」の2つから、駅弁のように誰にも愛されて、少し「懐かしく」感じる世界観に合うのは「ふるさと」かなと・・・。
そこから視覚と聴覚、さらには味覚、嗅覚、心と、“五感に響く駅弁”が生まれていったんです。
(注)「モー牛牛づめ」
山陰本線・和田山駅(兵庫県)の駅弁屋さん「福廼家綜合食品」が調製していた駅弁。
ふたを開けると、センサーが反応して「モー!」と啼くことで話題になった。
現在は販売を終了している。
(新竹社長インタビュー、続く)
●駅弁のゆるキャラ「モー太郎」も誕生!
「モー太郎弁当」の誕生に合わせ、オリジナルキャラクター「モー太郎」も生まれました。
手掛けたのは、大阪在住のイラストレーターで、鉄道&駅弁好きの鬼丸博行さん。
普段から「あら竹」の駅弁を食べていた鬼丸さんが「モー太郎弁当」の新発売をお祝いして、このキャラクターを描いてプレゼントしたのだそうです。
この1枚のイラストから、新たな駅弁のパッケージも生まれていきます。
平成15(2003)年秋に登場した駅弁、「黒毛和牛 モー太郎寿司」(950円)。
デザインは、新竹社長から依頼を受けた鬼丸さん。
描かれている少し凛々しい「モー太郎」は、「松阪駅に勤務する若い駅員で、いずれ機関士になりたいと思っている」という設定なんだそうです。
背景は「昔の松阪駅はこんな感じだったのでは・・・」というイマジネーションを膨らませたとか。
「モー太郎寿司」の特徴は、何といっても、名刺サイズの「おまけシール」が付いていること。
しかもこのシール、数種類あって、何が入っているかは、封を開けてみてのお楽しみ!
シール入りの駅弁には、『駅弁をもっと子供たちに食べて欲しい。故郷の食文化、個性ある「駅弁」に子供たちが少しでも関心を持って欲しい』・・・そんな思いも込められているそう。
松阪・伊勢の帰り、家で待っているお子さん・お孫さんの顔を思い浮かべて手にしたいものです。
海苔巻の中身は、「あら竹」オリジナルの「牛しぐれ煮」!
生姜の風味が効いた黒毛和牛のしぐれ煮と、酢飯のサッパリした感覚が食欲をそそります。
「モー太郎寿司」は、1日以上日持ちするので土産が最適。
切れ目が入っているのも有難く、勿論、列車の中で軽くいただいたり、仲間と一緒にいただくにも、とても好都合な駅弁です。
ちなみに、新竹社長のお母さま・お祖母さまは、「巻き寿司」を作るのがとんでもなく早かったそう。
牛肉駅弁が出てくる前の駅弁といえば「助六寿司」などが基本だったことを考えると、駅弁屋さんとしての歴史も、その底流に感じられるのが「モー太郎寿司」なのかもしれません。
そんな「あら竹」の新竹浩子社長が駅弁にかける思い・・・、まだまだ続きます!
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/