【ライター望月の駅弁膝栗毛】
紀勢本線・伊勢柏崎駅に入ってきたのは、キハ85系の特急「(ワイドビュー)南紀」名古屋行。
上りの「南紀」は1号車・自由席を先頭に、終着の名古屋を目指します。
もちろん、運転席直後の展望が楽しめるハイデッカーの座席も自由席!
実は、知る人ぞ知る“乗りドク列車”ともいえるのが、上りの「南紀」なのです。
そんな「(ワイドビュー)南紀」も停まる紀勢本線・松阪駅の駅弁屋さん「株式会社新竹商店」に注目している“駅弁屋さんの厨房ですよ!”の第7弾!
今回は、新竹社長の知る人ぞ知る“過去”のお話も伺っています。
●世代を超えて愛される松阪の駅弁!
―再来年(2019年)には、牛肉弁当が“還暦”を迎えますが、ロングセラーになった理由は?
ロングセラー駅弁には、ちゃんと理由があります。
三代、四代と、ひいお祖父ちゃんからお孫さんまでいる「ファン」の皆さんが支えてくれています。
特にお盆や年末にはそれを大きく感じます。
今は東京で暮らしているけど、尾鷲や紀伊長島などの人が帰省する時に、わざわざ途中の松阪で下りて、「牛肉弁当」を買っていってくれるんです。
―「元祖特撰牛肉弁当」は、昔から変えていないんですか?
「牛肉弁当」自体は、昔から同じ製法、同じ肉の部位を使っています。
正直、味や食材を変えるところがないんです。
名前は「松阪牛」から「黒毛和牛」になっていますが、これは平成14(2002)年から「松阪牛」の判定基準がとても厳しくなったことによるもので、使っている牛肉は変わっていません。
私自身、毎朝「牛肉弁当」を食べて、弁当の詰め方など、細かい点に気付くことが出来るようにしています。
●社長業に活きる「女優魂」!
―「あら竹」は新作弁当も多いですが、アイディアは全部社長が出されているんですか?
そうです!
駅弁については全部自分で決めてます。
小さな会社はトップダウンが大事ですからね。
あと、私が昔、女優をやっていたのが大きいかもしれません。
明治大学に通っていた時代に、東京・新大久保の劇団で6年ほど女優をやっていたんです。
―劇団の「女優」さんって、どんなコトをするんですか?
小さな劇団だったので、女優でしたが1人で色々こなさなければならなかったんです。
衣装を作る、着付けをする、きっぷを売る、お稽古をする、メイクをするまでみんな。
特に大事だったのがゲネプロ、つまり、公演前日のリハーサルです。
台詞の一言一句から照明、音などの演出を構成された通り、朝早くから夜遅くまでかけて、きっちりとやらなければいけませんでしたし、出来ないと何度でもやり直しでした。
―「女優」経験が、どう活きていますか?
駅弁屋さんの仕事も、女優時代にやっていたことと同じなんです。
実は弁当屋も、演劇と同じく、当日よりは、準備と仕込みに時間をかけているんです。
父から学んだのは、段取り8割、当日2割。
肉焼いて、ご飯盛って、弁当を作る仕事は1割・お客様へ売ること1割なんです。
段取りには毎日の材料調達や仕込以外に、新作駅弁開発の為の材料決め、調達先検討、鉄道会社さんやバイヤーさんと企画の考案・・・もありますからね。
―常に「段取り」を考えていると、休むヒマもありませんね?
明日のことを考えると、ホント休めないです。
特に鉄道イベントがある日はそうです。
イベントの成功は告知やPRがカギなんです。1人でも多くの人に、“事前”に知らせる。
(公演が今日あるよって言っても、全く切符が売れないように)当日云ったって、誰も来ません。
PRを確実に行う。これが全く苦にならないのは、劇団女優時代の経験ですね。
―なぜ松阪に戻って来られたんですか?
家族が体調を崩したことがきっかけになりました。
キレイな女優さんはたくさんいるけど、“松阪牛の駅弁屋さん”という役を出来るのは、私1人しかいないと気付いて、(女優に踏ん切りをつけて)松阪に戻ってきたんです。
―来年で四代目就任10年、社長として様々なことをこなされて、劇団「あら竹」といった感じですね?
もう、そうなるんですね。
まだ駆け抜けている感じがします。
今も睡眠時間は、だいたい1日3時間くらいです。
夜中でも、思い浮かんだことはスグに書けるように、メモを寝床に置いています。
すごく泥臭く、小さいことの積み重ねが、成功のカギだと思います。
例えば「モー太郎弁当」はたくさんメディアに出していただいているので、ブランド力もつきましたが、自分が出来る努力は小さくてもしておきたいんです。
(新竹社長インタビュー、つづく)
新竹社長の就任10年よりひと足早く、今年(2017年)の10月14日で発売10周年を迎えるのが、松阪を代表する“高額駅弁”の1つ、「匠の技 松阪牛物語」です。
キャッチフレーズは「日本一の加熱式駅弁」、今の厳しい基準でもしっかり「松阪牛」と呼ぶことが出来る最高級の牛肉を使った、紐を引っ張ると蒸気で温まるタイプの駅弁です。
原則として予約制で、3,300円タイプと4,400円タイプの2種類があります。
「あら竹」の松阪牛駅弁には、きちんと「松阪牛」の証明書が同封されています。
牛肉の肥育農家さんの顔までしっかり見える駅弁というのは、全国探してもまずありません。
ちなみに「松阪牛」と名乗れるのは・・・
●黒毛和種、未経産の雌牛。
●松阪牛個体識別管理システムに登録されていること。
●肥育は松阪牛生産区域(旧22市町村)でのみ肥育されていること。
●生産区域での肥育期間が最長・最終であること。
今回は初めて4,400円タイプの「匠の技 極み松阪牛物語」をいただいてみました。
(参考)松阪市ホームページ
https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/matsusakaushi/
“極み”に使われる「松阪牛」は、A-5の霜降り上ロース肉。
大判のすき焼き肉120gが、前日からじっくり仕込んで炊いたという三重県産コシヒカリの上にズシリと載っています。
加熱式容器を採用したのは、直前に温めることで、「松阪牛」の上質な脂肪の甘みがご飯に溶け出し、そのとろけるような食感と「肉の美味しさ」が味わえるようにしたからなんだそうです。
すき焼きになってもなお美しい脂の入り方!
駅弁の牛肉で、ココまで見ていて惚れ惚れするなんて・・・。
口に運べば、不思議なくらいフワッと柔らかい食感に、肉のクオリティの高さを感じます。
まずは肉の味わいを楽しんで、お好みで付添の粗挽き黒こしょうをふっていただくのがお薦め。
本物の「松阪牛」が、松阪の有名店よりはるかにお得な値段で味わえる駅弁「松阪牛物語」!
伊勢路、熊野路の旅の思い出に、忘れられないストーリーを添えてみませんか?
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/